【2年前の日記やさん】11月5日

2022年1月に頒布した『東京には大阪より16分はやく夜が来る日記』から、2年前の今日の日記を掲載します。


2021年11月5日(金)晴れ  大阪・笹

 東畑開人『居るのはつらいよ ケアとセラピーについての覚書』を読み始める。堂々と会社で読むには、分厚い。読むけど。
 大きなミスをぶちかました後、そこそこ丁寧な仕事をして、退社。同じ階の同期と、飲み会。自分の精神が不安定だった時期を、発表し合う。本質的な歓びはないが、まあ、理解はできる。私たちはひとりじゃないのだ。同じ空間を分け合って生きているのだ。つまり、群れの再確認だな。いやらしさはまったくなかったので、不快ではなかった。

2021年11月5日(金)晴れ  東京・音

 昼過ぎ、京都着。ホテルに向かう際、さっそく「現金しか使えないタクシー」の洗礼に遭う。東京ではめったに出会えない(一昨年あたりから、オリンピック対応で多くの車両が刷新された)ので、旅情を感じた。
 お昼ごはんには、東京ではあまり見られない、きざみきつねのあんかけうどんを食べたかったのだが、お店が閉まっていたため断念。ここ数回、京都に来るたび訪れているパティスリーエスでケーキと焼き菓子を買い、ル・プチメックでパンを買う。
さらに、ホテルに戻る道すがら、こぎれいなコーヒー屋さんがあったので豆を二種類買った。どちらから? と訊かれ、東京です、と伝えたところ、お店の方の地元が、私の現住所のすぐ近くだった。驚き、嬉しかった。
 
 ホテルで仕事をしたり、近くの立ち飲み屋に行ったり、本を読んだりして夜を過ごす。
 彩瀬まる『川のほとりで羽化するぼくら』を読む。推し作家の最新短編集。ひとつひとつ、書きたかったことは分かるし、それは重要な内容だし、文章表現はいつもながら美しく、個性的な比喩表現も生き生きとしている。が、短編集全体としてまとまりが感じられない。というか、強引にまとまりを生み出そうとした結果、ひとつひとつの短編の中で、ところどころ違和感が生じている。「悪いのは出版社か⁉ 編集者か⁉」とつい激して、私と同じく彩瀬まるファンのインターネットフレンドにメッセージを送る。彼女も同じ感想を持っていたようで、ふたり嘆き合う。次作を早く読ませてくれ。
 
 心を慰めるために、もう一冊、旅のお供として持ってきていた、イ・ラン『話し足りなかった日』を読む。ミュージシャンで文筆家、イラストレーターで映像監督……とマルチに活躍する韓国のクリエイターが書いたエッセイ。
 一番最初に出てくるエピソードがたまらなく良い。ジリ貧の生活(おそらく、ポリシーに沿わない仕事を断りまくっているため)を送りながら創作活動をしており、国内の音楽賞の受賞スピーチの場で、もらったばかりのトロフィーをオークションにかけようとして大スベリした挙句、はげしくタンカを切って去るくだり、めちゃくちゃ過ぎて恍惚としてしまった。

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