当たり前になっている男性蔑視「旦那デスノート」と「妻が愚痴を聞いてくれません」(改稿)
女性に関する発言について、
細心の注意が払われるようになった現代において、
男性蔑視の表現だけが当たり前のように残っている。
旦那デスノートなるものが一時期話題になったのを、
覚えている方は多いのではないだろうか。
女性が男性配偶者の悪口とともに
相手の死を願う内容の文章を投稿するサイトだ。
別にこのサイトの存在自体を否定するつもりはない。
誰だって心の内に憎しみや不満を抱くものだし、
本人に向けた形で、相手を傷つけるために発信している訳ではないのだから、
見えない所で悪口を言うぐらい好きにしたら良いと思う。
死んでほしい、と願ってしまうぐらいだから、
一つ一つ読んでいけば、
中には夫側が言われて当然のケースも多いだろう。
私が気持ち悪いと感じたのは、
それに対する世間の反応の方だった。
ニュース番組等では、面白おかしいもののように扱われ、
旦那デスノートを書く側の女性の不健全さにはほとんど言及もせず、
男性側がいかに女性の気持ちに気を使わなくてはいけないか、
という文脈で語られる事が多かった。
女性の側の思考は深遠で男性には理解出来ず、
女性側の気持ちを察するために男性が一生懸命努力するのが当たり前、
この風潮にたまらない嫌悪感がある。
私だって、日常の友人同士のやり取りであれば、
口ぎたない言葉を使ったり、
異性の容姿や言動について、
自分勝手な願望や不満を口にする事はある。
しかし、旦那デスノートでの女性側の発信を肯定的に捉え、
男性への何らかの改善を求めるのは、
男性側のそういった願望を肯定し、
女性にそれに応えるための努力を推奨するのと同じレベルの話だ。
「妻が口を聞いてくれません」
「妻が口を聞いてくれません」というのは、
集英社から野原広子さんが出している漫画で、
妻に無視をされ続けている男性の数年の生活を描いた作品である。
作品内では、
妻が夫を無視している理由は終盤まで語られず、
終始、夫が妻の心が理解できず、
狼狽し、怯えながら、
情けなく奮闘する姿が描かれる。
正直言って、無茶苦茶胸糞悪い。
私は、「男性側が可哀そう」という話をしたい訳ではない。
作品を最後まで読んで、妻が夫を無視している理由がわかれば、
漫画内で描かれているケースについて、
「これは夫が悪いね」と断じる事は可能かもしれないが、
それは所詮作者の匙加減でしかない。
もしくは、
この話にモデルになった誰かの体験談があるならば、
その方の体験した状況では、
本当に夫が悪いと言える状況だったのかもしれない。
問題は、「誰が悪く描かれているか」という点ではなく、
何の説明も無い内から、
「妻が正しくて、夫が悪い」という前提で全てが描写され、
話が進んでいく点にあると思う。
双方の苦しみを同じ精度で描いた上で、
総合して夫側に原因と責任があったという描き方ではないのだ。
まず一つ言うと、
無視はそれまでの経緯に関わらず、
精神的なDVの中でも、かなり残酷な部類の攻撃だ。
まして、それが数年間にも及べば、
相手は精神を病んだり、
悪くすれば、自殺のように、
自分自身を傷つけるような判断をしかねない。
学校内のいじめで無視が行われれば、大きな問題になるのに、
家庭内で女性から男性に対して行うのであれば、
美談になるという感覚には、強い嫌悪感を覚える。
作品内では、一貫して、
夫は、妻の深遠で繊細な心理を理解できない、
鈍感で情けない人物として描かれている。
妻側の夫の苦しみに配慮しない自分勝手さや残酷さという部分には、
一切触れず、
夫の悲しみや苦しみはあくまで愚かさに起因する軽微なもののように描かれる。
何故なら妻が正しい事は、
物語全体を通して伝えたいメッセージや、結論などでは決してなく、
「前提」だからだ。
「女心」という概念が全てを歪めている
特殊で男性の心理よりも複雑な「女心」なんてものへの幻想が
偏見を生み出し、男性心理を軽視する風潮を生み出している。
極論、女心なんてものは存在しない。
女性は感情的だという人は、男性にも女性にも多い。
しかし、私個人は人生の中で、女性が男性と比べて感情的だと思った事がない。
世間が女性側の意見を感情的だと切り捨てがちで、
同時に女性に感情的である事を過剰に許容しているせいで、
男性側も、女性側も、女性が感情的だと思い込んでいるだけだ、
と私は思う。
もちろん、脳の構造まで調べていけば、
なんらか性別による思考の違いが少しは見えてくるだろう。
しかし、世間一般に女心だと思われている感情のほとんどが、
性別と無関係な、単純な立場の違いからくる相手の心への誤解だと思う。
「女は怖い」んじゃなくて、
人間が怖いのだし、
異性の魅力に惑わされる自分自身が怖いのだ。
「女の下ネタはエグい」んじゃなくて、
異性がいない場所で同性同士で話す下ネタがエグいのだ。
心の繊細さにも、相手を傷つけてはいけない事にも、
性別は関係ない。
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