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医療者を感染から守る ~対面式感染対策給排気フード~

塚見 史郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ 兼
クライアント・リレーション&ソリューション部門
プロジェクトマネジメント部 ダイレクター

病院設計者の考える医療者を感染から守るための提案

新型コロナウィルス感染症との闘いが半年近く続いてきました。これから第2波、第3波が予想される中で、日々感染と向き合わなければならない医療者に少しでも感染リスクを低減することはできないものか?とステイホーム中に考えていました。
日建設計の病院設計を行うチームのメンバーでは、医療崩壊のリスクを避けるため、医療者を感染から守り、患者の感染拡大を防ぐ対面式の簡易な感染対策フードとして「対面式感染対策給排気フード※」を考案し、実用化に向けて製品開発を行いました。
既存の病院でも新たに大規模な工事をせずに安全な診察スペースを確保することを可能にします。
※製品化は、ダイキン工業グループの日本無機にて実施。

対面式感染対策給排気フードの状況写真その1+

写真1:対面式感染対策給排気フード設置

「対面式感染対策給排気フード」のしくみ

このフードの特徴は、ビニルカーテンで囲われた2つのフード上部に高性能なHEPAフィルタとファンが設置されて対面していますが、一方のフード(下図水色の人体モデル側)は清浄な空気を押し込み、もう一方(下図ピンク色の人体モデル側)はHEPAフィルタによって、ウィルスを捕集して強制的に排気している点です。
こうすることで、医療者が入るフードには、患者の飛沫が入りにくく、患者の入るフードは局所的にウィルスをつかまえ感染を拡散させないようにすることができます。
下図の動画を見ると、フード内の空気の流れのイメージがわかります。

動画1:対面式感染対策給排気フードの空気の流れのイメージ

「対面式感染対策給排気フード」の効果のシミュレーション

次に、このフードの効果を患者の口から出る飛沫を想定したシミュレーションで見てみましょう。
以下の図の動画は、左は患者側および医療者側ともビニルシートによるスクリーンがあるもの、右は患者側のスクリーンがない場合のものになります。患者の口から出た飛沫が、左の動画では、フィルタできちんと捕集されていく様子がわかりますが、右の動画では、様々なところへ飛散し、医療者側のブースにも入っているのがわかります。

動画2:対面式感染対策給排気フードの気流シミュレーション

今回のフードの開発は、感染の発生源のできるだけ近くで捕集することと、感染から守る医療者に対してはクリーンな空気を送り込む機能を一体に組み合わせることで、医療者と患者が対面する診察ブースとして活用できるものを目指しました。

足利赤十字病院におけるテスト導入

このフードの試作機を足利赤十字病院にてテスト導入を行い、実際に医療者に使用してもらいヒアリングを行いました。

足利赤十字病院の写真+

写真2:足利赤十字病院

上の写真に示す足利赤十字病院は、次世代型グリーンホスピタルとして、省エネルギーや自然エネルギーのグリーン、感染や災害に強いセイフティ、患者や医療スタッフにやさしいスマートをキーワードに建設された病院であり、2016年に 国際医療福祉設備協会(IFHE)が主催するBuilding Award にて世界一になった病院です。
医療者の使い勝手から、患者への検査等の際に手をフードの下から延ばすのではなく、手を通す穴を設けたほうがよいという点を改良しました。診察の用途だけでなく、言語療法の患者の発声状況のリハビリにも使いたいとのことで、マスクを外した患者と正対する場面の確認もなされました。

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写真3:対面式感染対策給排気フードの使用状況

また、ストレッチャーに寝ている患者の対応用として、HEPA排気のみの半分のフードもあったほうがよいのでは?ということで、半分のフードで上半身部分をカバーするバリエーションも用意することにしました。

「対面式感染対策給排気フード」の仕様

フードの仕様は、以下となります。
寸法:2,000mm×850mm×1,900H
重量:80kg
給気側フード風量:186㎥/h(ブース内換気回数220回/h)
排気側フード風量:186㎥/h(ブース内換気回数220回/h)
電源容量:42W(単相100V)コンセント
キャスター付きで持ち運びできるようになっており、診察室での利用の他、病棟での患者の検査・処置等にも使うことができます。

対面式感染対策給排気フードの写真

写真4:対面式感染対策給排気フード

導入にあたって

本プロダクトの購入にあたっては、受注生産品のため、納期は、1か月程度で、市場想定価格は130万円(税別)、排気仕様のみのものは100万円(税別)前後となっています。購入に際しては、国や自治体の補助金の対象となるものがありますので、関係団体へお問い合わせください。

おわりに|医療者を守る感染対策として

このプロダクトは、病院だけでなく、保健所等で行われるPCR検査エリアでも利用できると考えています。
医療者の方々のご意見をいただきながら、カスタマイズを加えていくことも可能です。
日建設計は、病院設計だけでなく、様々な建築・都市の設計を手掛けるプロフェッショナル集団です。我々の経験を結集して、医療者の皆さまへ新しい提案をさせていただきます。今回の製品やその他の感染対策等にご興味のある方はお問合せ頂けましたら幸いです。


塚見

塚見 史郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ 兼
クライアント・リレーション&ソリューション部門
プロジェクトマネジメント部 ダイレクター
足利赤十字病院、北里大学病院、東京女子医科大学附属八千代医療センター、岩手県立二戸病院、伊万里有田共立病院、阿蘇医療センターなどを担当
IFHE Building Award、空気調和・衛生工学会技術振興賞、カーボンニュートラル大賞、省エネ大賞などを受賞

TOP画像、動画1・2:エムエスシーソフトウェア株式会社
写真2:篠澤建築写真事務所




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