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BIMを活用した設備設計の取り組み

本多 司、劉 建楠
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ

Before COVID-19における建築設計においては、設計者(意匠、構造、電気、機械)、発注者、受注者、メーカーといった様々な立場の方々と対面で綿密なコミュニケーションを取ることでコンセンサスを得てきました。しかしながら、対面でのコミュニケーションが減少し、WEB会議が増えてきたWith/After COVID-19の状況下では、Building Information Modeling(BIM)を活用した合意形成が有効であると分かってきました。
意匠、構造、電気、機械の全ての分野でBIMに取り組んだ事例を紹介しながら、これからの時代の建築の設計・監理業務でのBIM活用について展望したいと思います。

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図1 木材が互いに支え合う特徴的な構造形態

循環型木材利用を支えるBIM

ここでは、2021年に東京で開催される世界的なスポーツ大会の選手交流・利便施設として整備される木造平屋建ての仮設建築物「選手村ビレッジプラザ」での取り組みをご紹介します。この建物を構成する木材は日本各地の自治体より提供を受け、施設として使用した後は、解体・返却・再利用される予定です。
内装は木材が互いに支えあう特徴的な構造としており、「多様性と調和」を体現することを目指した建築空間となっています。そのため、ケーブルラックや照明、ダクト、空調室内機といった設備機器を可視化して設計者の間で情報を共有するBIMの活用が有効でした。

NSビル

図2 BIMの概念図

設備設計におけるBIM活用

近年、建築分野においてBIMの活用事例は多数紹介されていますが、設備BIMに関しては電気室や機械室等の部分的な空間における設備機器の納まり検討が多く、 『Information』を有効に活用された事例はまだまだ少ないのが実情です。設備機器の可視化というメリットは認識されながらも、短い設計期間の中で二次元の設計図に比べて入力する情報が膨大となるためBIMの積極的な活用が進まなかった側面があります。本プロジェクトではBIMの三次元データを活用したコンカレントエンジニアリングだけでなく、BIMが持つ『Information』を活用することで設計業務の一部を自動化するなど設計作業の省力化を図りました。

① 意匠・構造BIMの活用
三次元モデルで環境解析をして、どのような建築環境になるかを確かめながら建築・設備設計を進めることが増えてきました。その際、従来の環境解析では解析前のモデル作成、条件構築等に多くの時間が取られていました。本プロジェクトでは、モデル作成に意匠・構造BIMを直接的に利用する手法を取ることによって環境解析にかかる時間を大幅に削減しました。

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図3 風速分布の解析

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図4 照明の解析(梁下に照明を設置)

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図5 照明の解析(梁上に照明を設置)

複雑な構成の木梁のアルゴリズミックデザインに合わせた照明配置の自動化も実現しました。この技術は今後の設備設計の自動化に繋がる最初の1歩となる可能性があります。

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図6 複雑な木梁に合わせた照明配置

② 設備サイドが入力した情報の活用
意匠・構造設計において入力したBIM情報を活用するだけでなく、設備設計において入力したBIM情報も活用して建築設計終盤の業務を大幅に効率化しました。具体的には、自動配置した照明に配光特性の情報を付加することで照度計算書を自動的に作成しました。また、流量・配管サイズ・バルブの個数・高さといった情報から配管の圧損計算書を自動作成し、風量とダクトサイズの情報からダクトの静圧計算書を自動作成しました。
さらに、照明・コンセント・空調の電源容量についての膨大なBIM情報を分析・整理するエクセルマクロを開発することで、分電盤リストの自動作成を実現しました。
設計図の作成だけでなく、照明やダクトの器具種別、屋内・屋外等の仕様などの『Information』を利用し、積算数量に基づく工事費概算プログラムも開発しました。これにより、精度の高い概算を短時間で求めることができるようになりました。

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図7 ダクト静圧の自動計算

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図8 屋内・屋外の施工区分ゾーニング

With COVID-19時代のBIM活用

設備のフルBIM化を実現し、意匠BIMと構造BIMとリンクさせることで全ての分野の情報を統合した統合モデルを作成できました。

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図9 統合モデルのイメージ

統合モデルを利用することで複数の関係者と顔を合わせることなく建物内を自由に個人のパソコンで確認できるようになりました。また、VRを活用することで現場にいくことなくデジタル空間で密度の高い情報確認ができます。施工段階でもBIMを積極的に活用することで、現場段階での設計変更対応や監理業務の一部が遠隔で対応可能となります。設計・監理のリモートワークの促進のように、BIMが建築のライフサイクルプロセスを様々なフェーズで合理化するツールとして活用されることを期待します。

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図10 VR体験の様子

図2 2020年8月時点/内装整備前 ©Tokyo 2020


本多

本多 司
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
本社ビル、研究施設、工場等の新築工事や受変電設備等の改修工事の電気設備設計を担当。「BIMを活用した電気設備の設計手法の検討」にて電気設備学会 全国大会発表奨励賞を受賞。

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劉 建楠
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
データセンター、病院、オフィスビル、工場などの新築工事や空調衛生設備の改修工事の機械設備設計を担当。建築や都市の環境評価LEED Accredited Professional、空間の健康や快適性評価WELL Accredited Professional




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