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With・Afterコロナの世界に求められる「柔軟なすまい」

渋谷 篤
日建ハウジングシステム 
取締役 設計監理統括部長 lid研究所所長

コロナウイルス感染症で住宅に求められる機能が一変する

コロナウイルス感染症の拡大により日本中、世界中の人々の生活が一変し、この流れは決して一過性のものではなく、「ニューノーマル」として今後定着することが予想されます。それは我々が専門とする「集合住宅」のあり方そのものに大きく影響を及ぼし、今までの常識や慣習を見直す必要に迫られています。
野村総合研究所の調査によると、2020年5月時点でワーカーのおよそ約40%がテレワークを実施し(図1)、その半数は今後も継続していくことを望んでいることが分かります。(図2)これらからは「働くこと」と「住まうこと」の機能を建築用途で明確に分けることができなくなり、今後住宅はその両方の機能に対応することが求められることを意味します。

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図1 新型コロナウイルス関せ拡大以前における、勤務先のテレワーク利用の有無

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図2 テレワーク継続意向

「在宅勤務」と言ってもその環境は様々です。社内外へのアンケートやヒアリングによると、特に40㎡程度の1LDKで共働き夫婦と子どもがいる家庭において、在宅勤務は「劣悪な環境」だという声を多く耳にしました。例えば共働きの夫婦が同時にWEB会議や電話対応をする場所がなく風呂場を利用した。保育園が閉鎖され子どもの世話で仕事にならない…等、過酷な経験をした方も少なくないようです。
不動産販売価格や賃料が高額となる都心部において、多くの機能に対応する十分な面積を誰もが確保することは困難です。限られた空間の中で、有効に空間を使う工夫や、一日、数時間、数十分という短い時間で機能を変化させることが求められます。
弊社の設計者に40㎡ 1LDKで過ごす在宅プランのアイデアを募ったところ、面白いアイデアがたくさん出てきました。共通したポイントは「空間の立体的活用」、「バルコニー等の外部空間の利活用」等が挙げられますが、いずれのアイデアも伝統的な日本家屋に通じています。

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写真1 日建ハウジングシステムの設計者による40㎡ 1LDKの住戸プランのアイデアスケッチ

伝統的な日本家屋に学ぶ「現代版日本家屋」の実現

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写真2 日本家屋のイメージ(江戸東京たてもの園:高橋是清邸)

古くから存在する日本家屋には、周辺環境・季節・時間・用途に柔軟に対応するヒントが沢山詰まっています。例えば深い軒や縁側は室内空間の中間領域を創出し、良好な室内空間を生み出す役割を担ってきました。敷居や鴨居に様々な建具で空間を間仕切り、寝室、食堂、客間さらには冠婚葬祭式場へと柔軟に空間を変化させ活用していました。我々はこれらの知恵を活かすべきだと考え、「現代版日本家屋」を実現するシステムを開発しました。

扉付き可動収納「KANAU shelf」 と可動キッチン「Imagie

1つ目は収納とキッチンを可動させ間取りを容易に変更するシステムの紹介です。「可動間仕切収納(Kanau Shelf)」と、ダクトレスの循環式レンジフードを搭載した「可動キッチン(Imagie)」を8社と共同開発しました。

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図3 KANAU SHELF 業界初の引き戸付き可動収納家具

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図4 Imagie 循環式レンジフードとキッチン接続ポートで実現した可動キッチンシステム

これらを活用することで部屋の位置変更まで含めた大掛かりな間取り変更を、リフォーム工事なしで実現することが可能です。約70㎡の3LDKの居室が、このシステムを導入することで20種類を超える間取りの実現が可能となります。

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図5 KANAUImagieを活用した住戸プランの変化の一例

動画1 KANAUImagieを活用した住戸プランの変化の一例

敷居と襖からの解放 「ZIZAIKU/自在区

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写真3 ZIZAIKUを活用した民泊施設の事例

二つ目は「敷居・鴨居からの解放」をコンセプトとした「ZIZAIKU/自在区」です。一見何でもない壁パネルのように見えますが、鴨居・敷居・ガイドレールなどに一切支配されません。

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図6 ZIZAIKUを活用した住戸プランの一例とパーツの一部

天井に鉄板をインストールし、パネルに設置したマグネットとアジャスター、戸車で、暮らしのシーンに合わせて、数分で容易に壁を自由に移動し空間を仕切ることができます。このシステムを活用することにより、生活するための空間、在宅勤務をするための空間を、住まい手が必要に応じて容易かつ自由に変化させて作り出すことが可能となります。

動画2 ZIZAIKUを活用した住戸プランの変化の一例

一年前にこの状況を予測できなかったように、この先どのような世界が訪れるのか予測することは困難です。どのような世界が訪れても、状況に応じて空間や機能を容易に変化させることができる「柔軟なすまい」を実現する技術やアイデアが今後より重要になると考えます。


渋谷

渋谷 篤 
日建ハウジングシステム 
取締役 設計監理統括部長 lid研究所所長
入社以来、民間分譲・賃貸集合住宅や再開発事業の設計監理業務に従事。2016年に新設されたlid研究所(Life Innovative Design Laboratory )の所長を務め、「住まう」をテーマにした商品開発、建材開発、新規ビジネスの構築など幅広い活動を行っている。国土交通大臣賞、London International Creative Competition Finalist、MIPIM ASIA Silver Award等受賞。

写真2:江戸東京たてもの園:江戸時代から昭和中期までの歴史的建造物を移築・復元した野外博物館
・ImagieとKANAUは三井不動産レジデンシャルと日建ハウジングシステムの共同開発です。
・ImagieとKANAUは三井不動産レジデンシャルが特許取得済です。
・Imagieは三井不動産レジデンシャルにて商標登録されています。
・ZIZAIKUは日建ハウジングシステムとユナイトボードの共同開発です。
・ZIZAIKUは日建ハウジングシステムが特許登録済です。



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