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3D-LiDARによる人流計測|都市や建築の空間評価に活かす、リアルタイムの人流計測システム

大浦 理路
日建設計 デジタルソリューションラボ
コンサルタント

日建設計は、デンソーウェーブと協働し、3D-LiDAR※1を用いて人流をリアルタイムで計測するシステムのプロトタイプを開発しました。
空間に対するニーズが時とともに変化していく中で、運用時の人の動きを定量的に評価し、空間の課題抽出や改善提案、施設運用に活かすことで、建築・都市の更なる価値向上の実現を目指します。

LiDARとは

LiDARとは、Light Detection and Rangingの略称で、レーザーを照射して物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間を計測し、その時間から対象物までの距離を計測することができます。3D-LiDARでは、3次元の距離計測により3次元の点群データが得られます。

3D-LiDARで取得した3次元点群データ

LiDARは、カメラやビーコンと比較して、①超高精度(誤差±50mm程度)、②昼夜・天候の影響を受けない、③個人特定に至る情報を取得しない、という特徴があります。
近年、自動運転や交通量調査にも応用されつつあると同時に、スマホに搭載され個人で3Dスキャン(3次元点群データの取得)ができるようになるなど、身近な技術になっています。

既往システムの課題

LiDARを用いた既往の人流計測システムは、2つに大別されます。1つは、主に事後解析に用いられ、AIを用いて3次元点群データの特徴量から”人”を抽出するため、リアルタイムに計測するには膨⼤な計算資源が必要となります。もう1つは、一般的なPCでリアルタイムな計測が可能ですが、前時刻と現時刻の点群の差分から移動体を抽出するため、移動体が停止すると点群の差分が得られず見失ってしまいます。上記の通り、少ない計算資源によって、人の移動と滞在を、移動体が停止しても見失わず、リアルタイムに把握することは、これまで実現できていませんでした。

人は突然出現・消失しない

上記の課題を踏まえて、我々は、前時刻と現時刻の点群の差分によって移動体を抽出する解析方法に「人は突然出現・消失しない」という前提に基づくポスト処理アルゴリズム特許出願中を組み込みました。これによって、移動体が停止しても見失わず、人の移動と滞在を少ない計算資源でも把握できる人流計測システムを実現しました。

図1 本システムのダッシュボード画面

どの空間を、いつ、どの程度の人が利用しているのかが分かることで、空間の利用実態に応じた改修計画、人流と連動した設備の省エネ制御やロボット運行経路の補正、リアルタイムの人流把握による災害時の避難誘導やイベント時の混雑検知などに役立てることができます。

東京駅八重洲口「GRANROOF GARDEN」での実践

2013年に完成した東京駅八重洲口開発・グランルーフでは、パブリックスペース活性化に向けた約234mのペデストリアンデッキのリニューアル工事に際して、新たな植栽と什器が先行的に設置された箇所において、本システムによる効果検証を行いました。

図2 効果検証時の様子と分析結果

本システムが実測したデータの分析結果によれば、滞在人数が平日で約12%、休日で約84%増加しており、これまでの通行空間が滞在空間に転用されていることを確認しました。この評価が、長大なデッキ全域への工事実施という大きな投資判断につながりました。

写真1 改修後のGRANROOF GARDEN

本格的なデジタルツインに向けて

現在、日本国内でも3次元の都市モデル(Plateau※2)や建物モデル(BIM※3)の普及が進みつつあります。しかし、これらは都市や建物といった静的なデータに限定されているため、人がどのように使っているかということまでは分からず、そのユースケースも限定的なものに留まっています。将来的には、都市や建物の静的なデータに本システムで取得した人がどのように使っているかという動的なデータが付加されることで、4次元的な真のデジタルツインの構築が可能になると考えています。

※プレスリリース:人流をリアルタイムで計測し、都市や建築の空間評価に活かす3D-LiDARシステムを開発
賑わい創出に向けた空間改修・設備の省エネ制御・災害時の避難誘導などに活用

大浦 理路
日建設計 デジタルソリューションラボ
コンサルタント
2015年、東京大学大学院建築学専攻を修了後、日建設計に入社。入社から2018年まで設備設計に従事し、2019年よりデジタルソリューションラボにて、人工知能を用いた空調制御やヒューマンセンシングによる空間趣向性の分析など、建築における最先端技術利用のシーンを試行・実践している。

共同開発チーム
・株式会社日建設計:都市・建築への応用
・株式会社デンソーウェーブ:プログラム開発

クレジット情報
写真1:  Forward Stroke inc.

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