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コロナ禍でも安心して業務ができるオフィスの例

藤井 拓郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト

コロナが与えたオフィスへの影響

今、私は自宅でこの原稿を書いています。入社当初から在宅勤務の制度は会社にきっとあったと思います (正確には2014年4月からスタート) が、一度も利用したことはありませんでした。「家で仕事なんて・・・。打合せは大小必ず毎日しているのに、家に籠っても何もできないよ。調べるにも専門書は必須だし。コピー機、スキャナーも使いたいし。」なんて考えていました。今年になって、コロナが社会全体に蔓延し、毎日のニュースではコロナの話ばかり。「今日の大阪の陽性者は●●名、昨日より●名減少しました。」と聞くと一安心。社会が一変、働き方ががらっと変わってしまいました。慣れないWEB会議、メモを携帯写真で取ってPDF化してメール配信する。
そのような生活も慣れてきたのではないでしょうか。では、オフィスへ行く意味ってどうなるのかと思いませんか。働き方が急激に変化して、元にはきっと戻らない。10年以上先だと思っていた働き方がこの数カ月で一気に進んだのではないかと皆さん前向きに捉えているのではないかと思います。

安心して働けるオフィスの例

これからのオフィスの役割については皆で知恵を出し合うとして、ここでは私から、安心して効率よく働けるオフィス環境を作る工夫について実例を用いて紹介します。「環境負荷低減・省エネ」と言えば、「光熱費低減や社会的アピール」のためであり、ビルオーナー、テナントのためのように思えます。その一方で、利用者にとって安心して効率よく働けるオフィスとは、快適性、安全性が高いオフィス空間、災害時にも業務活動を維持できるBCP対策を構築しているオフィスだと考えます。
地震が起きても停電になってもオフィスでPCが使えて、照明も点灯して、食堂等で何か食べられて、トイレも使える。今回のコロナの場合、窓を開けて換気することが良いとされて皆さんも実践していたと思います。しかしながら世の中には、窓を開けることすら出来ないオフィスもかなりの数、存在するのが実情だと思います。

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図1 環境技術断面

今回紹介する「阿南市庁舎」は省エネルギーだけでなくBCP対策の目的でも自然換気システムを採用しました。加えて自然換気性能を向上させるためにソーラーボイドを意匠的なデザインにも組み込ませ、本庁舎に無くてはならないアイテムとなっています。(図1)
各階窓際下部から外気を取入れ、ソーラーボイドを経由して建物頂部から排気する計画です。私たちは竣工後に実測調査を行い、自然換気口を開放した際に10回/h以上(※1)の換気量を実現できていることを確かめました。(写真1,2、動画1,2)
一般的なオフィスの空調設備による換気回数は2回程度(0.2人/㎡×30㎥/h・人÷天井高3mHと仮定した場合、1時間にこの空間の空気が2回入れ替わる換気量)ですので、阿南市庁舎は自然換気だけでその5倍と、非常に換気性能が高い建物だと言えます。建物管理者にも実測風景を見てもらい、その自然換気の能力を実感してもらいました。建物管理者、利用者も安心して業務をされていると思います。
※1 山澤・藤井・水出他 大規模吹抜け空間とソーラーボイドを有する市庁舎における環境性能の検証(その3)中間期における自然換気性能評価 空気調和・衛生工学会学術講演論文集2018.09

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写真1 自然換気実測風景写真

動画1 ソーラーボイド部の自然換気可視化実測動画

動画2 高層棟基準階部の自然換気可視化実測動画

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写真2 全館全開時の風の流れの可視化写真

オフィスの自然換気を普及させましょう

自然換気が十分にできるオフィスは、普段の省エネルギーはもちろんのこと、災害時のレジリエンス性能、自然を取り入れたWellness、といった多くのメリットにより長期的に価値のある建物となると考えています。
これからは、感染症を含むさまざまな災害に対するレジリエンス性を持った建築環境が求められるようになるでしょう。自然換気に代表される、建築を“開放系”にする技術を組み合わせた建築計画に取り組んでいきたいと考えています。

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図3 デジタルサイネージによる環境配慮への取組みイメージ


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藤井 拓郎
日建設計 エンジニアリング部門 設備設計グループ
アソシエイト
2004年入社。現在エンジニアリング部門設備設計グループ所属。アソシエイト。専門は機械設備設計。技術士(衛生工学部門)、建築設備士。主な担当プロジェクト:高知市庁舎、尾道市庁舎、ペガサスミシン製造新本社、京王電鉄キラリナ吉祥寺ビル、成田国際空港LCCターミナルビル、川本製作所東京ビルなど。サステナブル建築賞、空気調和衛生工学会技術振興賞。


TOP画像:東出写真事務所





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