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“タカ派”パウエルFRB 市場浸透には紆余曲折か?

8月下旬から、にわかにグローバル市場不安定化の度合いが増している。直近の起点は日本時間で8月26日(金)深夜、経済シンポジウム「ジャクソンホール会議」でのパウエルFRB議長の講演だ。わずか8分あまり。通常の30分程度に比べるとはるかに短いが、それだけにメッセージは鮮明だった。

パウエル議長講演のポイント
・(インフレ抑制に向け)やり遂げるまでやり続ける
・しばらくは引き締め的な政策を維持
・家計や企業になんらかの痛み
・9月FOMC会合の利上げ幅は今度のデータや見通しで総合判断

“パウエルショック”は米国市場で顕著に

直前までやや楽観に傾いていた感のあるグローバル市場。26日(金)のダウ工業株30種平均は、前日比1008ドル(3%)安とショック安ともいえる急落に見舞われた。その動揺は週をまたいでも収まらない。ダウ平均は30日(火)まで3日続落、この間の下げ幅は1500ドルを超えた。一方の日本市場。週開け29日(月)こそ日経平均株価が大幅反落(762円安)となったが、30日(火)に316円の反発、そしてきょう31日(水)は104円安。米国市場に比べて比較的落ち着いた動きとなっているのは、今年に入ってある程度見慣れた風景ではある。

市場の楽観、強く諫めるFRB

パウエル議長、FRB幹部が、特に7月から8月にかけて広がった楽観的な見方――インフレはピークアウトし、むしろ来年の早々からは利上げもあり得る――を強くけん制したのは間違いない。ではその意図を市場は今度こそ正確に受け取っただろうか。市場をみる限り、どうもまだ到底その段階ではないように感じられる。

冒頭のグラフはみずほリサーチ&テクノロジーズ・プリンシパル、小野亮さんに、31日(水)の日経CNBC番組出演の折に紹介していただいた資料。金利先物に織り込まれた米政策金利予想はパウエル講演前の8月25日から講演後の29日かけてわずかに上方にシフト(修正)しているが、その形状には大きな変化はないと言っていいだろう。先物金利は来年のどこからかFedの緩和、利下げを期待している。急激な引き締めを受けて景気が鈍化、大幅な減速を余儀なくされ、そうであるなら引き締めの後は緩和だというちょっと複雑な“楽観論”だ。従来は株式市場で支配的だった楽観論だが、小野さんは「パウエル講演後はむしろ債券市場、金利市場の楽観が気になる」と指摘する。

むしろ債券・金利市場が先行きを“楽観”

小野さんの見立てでは、政策金利は4%程度まで引き上げざるを得ないし、多くの連銀幹部は来年の緩和観測にいら立っているように、来年の緩和は望むべくもない。それくらいに今のインフレ圧力は厄介だし、消費、雇用の基調が決して弱くないことの裏返しでもある。

市場と中央銀行、“いたちごっこ”は続く

今後の展開をどうみるか?ともすれば“楽観”に傾きやすい、長年にわたって染みついた習性のような感覚が災いして、市場と中央銀行の見方が“衝突”する場面がまだまだ繰り返されるのではないか? 足元ではガツンとやられた感のある株式市場も、来年の利下げを引き続き期待している債券、金利市場をみながら、すぐに楽観を取り戻すような気がする。結果として物価上昇圧力が高まる。するといら立つFRBがより強いタカ派的なメッセージを送って市場を諫める。そんな“いたちごっこ”の繰り返し?
 
無理もないと言えば無理もない。FRB自体がインフレ圧力の根強さを甘く見過ぎていたが故の市場の反応でもあるわけだから。楽観に戻りやすい市場だけを責めるわけにも行かないだろう。ざっくり言えばおおよそ30年も続いた低金利、低インフレ、株高の常識が変わろうということであれば、中央銀行と市場が新しい時代の常識を共有するまでに、相当の期間の紆余曲折は避けられまい。

インフレが当たり前の時代に戻るのか?

ではその先の世界はどうなるのだろう?29日(月)に日経CNBCにご出演いただいたクレディ・スイス証券プライベート・バンキング、チーフ・インベストメント・オフィサー・ジャパンの松本総一郎さんは、昨年末の時点から“大いなる転換”と時代の変化を表現している。「インフレ率がピークアウトした後も、コロナ前と比べたら高い水準にとどまる。うっかりすると加速しやすいインフレと中央銀行がせめぎ合う」世界。

おじさん“化石世代”はあっさり受け入れるとしても……

久し振りではあるが、未経験の事態ということでもないのではないか? と、ある程度簡単に納得してしまうのは、僕自身がバブル世代のおじさんで、インフレが当たり前の時代を社会人として経験しているからかもしれない。もはや自分たちの世代が“化石”のような存在で、市場のメーンプレイヤーが僕らよりはるかに年下の世代であることを考えても、“厄介な状態”はしばらく、しつこく続くように思う。やれやれ……。

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