日銀は“本気で”倍増ペースでETFを買う

17日(火)の市場で日銀がETFを1204億円、REITを20億円、購入した。これまでの1002億円、12億円(16日は15億円)から増額した。16日(月)に決めた金融政策に基づく変更だ。

これまでと買い方を変える可能性はある。しかし、日銀は“本気で”これまでの倍増ペースでETFを買う。年間12兆円ペース。毎月1兆円ペースだ。念のため、昨日16日(月)の臨時日銀会合後の総裁会見でも自分で質問した。

「ETFの買い入れについてすでに弾力的方針があるのに、金額倍増と明示したのはなぜでしょうか?」


黒田総裁の答えは以下のようだった。


「弾力的にということですから、6兆円より上に行ったり下に行ったり、それはマーケットの状況に応じてということだったが、今回は6兆円ペースを倍増して、2倍のペースでやっていく。それも当面、つまりマーケットのリスクプレミアムに働きかける必要性がある限りやっていく。そこで、かなり大きなリスクプレミアムに働きかける金融緩和策だと思っています」

午後に発表された日銀金融政策の声明文には誤解を招きかねないところがあった。「新型感染症拡大の影響を踏まえた金融緩和の強化について」で挙げた政策のうちの3つ目の柱。本文ではこうなっている。

(3) ETF・J-REITの積極的な買い入れ(全員一致)
ETFおよびJ-REITについて、当面は、それぞれ年間約12兆円、年間約1800億円に相当する残高ペースを上限に、積極的な買い入れを行う。

ただし、欄外に注意書きがある。それが以下だ。

ETF、J-REITの原則的な買い入れ方針としては、引き続き、保有残高が、それぞれ年間約6兆円、年間約900億円に相当するペースで増加するように買入れを行い、その際、資産価格のプレミアムへの働きかけを適切に行う観点から、市場の状況に応じて、買い入れ額は上下に変動しうるものとする。

16日(月)午後の株式市場で、当初「ETF買い入れ倍増」に反応して日経平均株価の上げ幅を300円あまりに拡大しながら、結局大引けでは429円安となったのはこの欄外注記が意識されたからだとする説が多かった。「原則は原則で、倍増、12兆円は“見せ金”に過ぎないのでは?」といった解釈だ。今日の買い入れでこうした解釈が“誤解”だったことが明らかになった。

以下は僕の推測に基づく日銀の考え方の変化だ。
もともと先週までの報道ベースでは、ETFの増額について金額を明示する案はメーンシナリオではなかった。すでに日銀は「買い入れ額は上限に変動しうるものとする」としている。もともとは出口を探るための文言だったと思うが、これを援用すれば、一定程度まで買い入れを増やすことが可能だ。実際、3月からは1回あたりの買い入れ額が、それまでの703億円から1002億円に増えている。

金額増の明示には慎重な意見が多かったのは、さすがに腰が引けたというか、市場における日銀の存在感が大きくなり過ぎることへの批判を恐れたためだろう。しかし週末をはさんで情勢は大きく変わった。日本時間の16日(月)早朝には、米FRBが前倒しで緊急FOMCを開催し、ゼロ金利政策復活と量的緩和再開を決めてしまったのだ。事態は時々刻々と悪化している。尻込みするスタッフを前に、久々に“黒田節”が息を吹き返した。
「小出しにしても見透かされるだけだ。2倍だ!」(全部推測)。
「2倍」は黒田総裁就任当時のマジックワードでもある。

繰り返すが、声明文にある通り、日銀は「当面」倍増ペースでETFを買う。僕は市場における日銀の存在感が大きくなり過ぎる点と、ガバナンス上の空白が生じかねない懸念、および株式相場動向次第では日銀の含み損が拡大しかねないという点などから、この政策には相当な副作用があると考えている。しかし、展開次第では、手詰まり感の漂う他国の中央銀行も日銀にならって本格的にリスク資産の買い入れに乗り出す可能性がないとは言えない。僕たちはそういう世界に生きている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?