(3)ドラマチックな本能と世界の見方
なぜ、一般市民から高学歴の専門家までが、クイズでチンパンジーに負けるのか。知識不足を解決する方法はあるのか。何年もの間、事実に基づく世界の見方を教え、目の前の事実を誤認する人を観察し、そこから学んだことを一冊にまとめたのがこの本『ファクトフルネス』だ。
あなたは、次のような先入観を持っていないだろうか。
「世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。何もしなければ天然資源ももうすぐ尽きてしまう」
少なくとも西洋諸国においてはそれがメディアでよく聞く話だし、人々に染みついた考え方なのではないか。わたしはこれを「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼んでいる。精神衛生上よくないし、そもそも正しくない。
実際、世界の大部分の人は中間所得層に属している。わたしたちがイメージする「中流層」とは違うかもしれないが、極度の貧困状態とはかけ離れている。女の子も学校に行くし、子供はワクチンを接種するし、女性ひとりあたりの子供の数は2人だ。休みには海外へ行く。もちろん難民としてではなく、観光客として。
時を重ねるごとに少しずつ、世界は良くなっている。何もかもが毎年改善するわけではないし、課題は山積みだ。だが、人類が大いなる進歩を遂げたのは間違いない。これが、「事実に基づく世界の見方」だ。
わたしのクイズで、最もネガティブで極端な答えを選ぶ人が多いのは、「ドラマチックすぎる世界の見方」が原因だ。世界のことについて考えたり、推測したり、学んだりするときは、誰でも無意識に「自分の世界の見方」を反映させてしまう。だから、世界の見方が間違っていたら、正しい推測もできない。
だが、「ドラマチックすぎる世界の見方」をしてしまうのは、知識のアップデートを怠っているからではない。最新の情報にアクセスできる人たちでさえ同じ罠にはまってしまうのだ。また、悪徳メディア、プロパガンダ、フェイクニュース、低質な情報のせいでもない。
わたしは何十年も講義やクイズを行い、人々が目の前にある事実を間違って解釈するさまを見聞きしてきた。その経験から言えるのは、「ドラマチックすぎる世界の見方」を変えるのはとても難しいということ。
そして、その原因は脳の機能にあるということだ。
人間の脳は、何百万年にもわたる進化の産物だ。わたしたちの先祖が、少人数で狩猟や採集をするために必要だった本能が、脳には組み込まれている。差し迫った危険から逃れるために、一瞬で判断を下す本能。唯一の有効な情報源だった、うわさ話やドラマチックな物語に耳を傾ける本能。食料不足のときに命綱となる砂糖や脂質を欲する本能。
これらの本能は数千年も前には役立ったかもしれないが、いまは違う。砂糖や脂質が病みつきになり、肥満が世界で最も大きな健康問題になっている。大人も子供も甘いものやポテトチップスを避けるようにしたほうがいい。同じように、瞬時に何かを判断する本能と、ドラマチックな物語を求める本能が、「ドラマチックすぎる世界の見方」と、世界についての誤解を生んでいる。
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