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Vol.54  NPS 3.0 について 

                                                                                                          2022年5月

金融ソリューションチームコラムの第54弾をお届けいたします。
今回はニューヨークに駐在する上出が執筆いたしました。

今回は NPS(※) 3.0 についてご紹介します。
昨年、Havard Business Reviewに掲載された記事は読まれたでしょうか?
NPSの生みの親であるFred Reichheld氏らが執筆しています。
https://hbr.org/2021/11/net-promoter-3-0

念のためおさらいですが、NPSとは Net Promoter Score の略で、
0-10点までの11段階による推奨意向を聴く設問から得られます。
・9-10点を推奨者、プロモーター(体験に満足し、他者に推奨する顧客)
・7-8点の中立者、パッシブ(支払いの対価は得られたと感じているがそれ以上ではない)
・0-6点の非難者、デトラクター(体験に失望し、会社の成長と評判に悪影響を与える顧客)
以上3つのセグメントを注視し、プロモーターの割合からデトラクターの割合を引いた
インデックス値として算出されます。

NPSは、元々、財務情報を補完する目的で考案されたとのことです。
すなわち、収益の結果からは、顧客からどれだけお金を引き出せたかは簡単にわかりますが、当該事業・業務によって、顧客の生活なりをどれだけ向上させられたかなどは、わかりません。
どのくらい会社が一貫してお客さまを自社のサポーターに変えていけているかを測定することで持続的な成長へ資する糧をどれだけ稼げているか、それを先行指標として事前に把握して、継続的かつ効果的な改善活動を促せるようになる、という思惑がありました。

しかし、初めて世に出てから20年あまりで、あまねく普及浸透したけれども
・懇願型(10点を取らないとクビになるんです)
・賄賂型(10点を付けてくれるならオイル交換を無料にします)
・操作型(保険金請求が却下されたお客様にはアンケートを送らない)
といった様々な現実世界での誤用、第三者機関を介さない自己申告式の悪用により、混乱を招き、有効性や信頼性も損なわれてしまった、と記事の中で嘆かれています。

そこで、この失墜したNPSの有効性を強化し、顧客の成功、リピートやアップセル、口コミ・推奨、ポジティブな企業文化、それらが業績データと明確に連動するような会計ベースのEarned Growth Rateという、NPSと対の関係となる新しい指標を提唱しています。
具体的な算出方法は以下の通りです。

全ての顧客を、新規顧客と既存顧客に分類しつつ次の各割合を出します。
新規顧客は、以下2つの区分。
[1] 自分達の営業販促活動などを通じて得た、「買ってきた」顧客
[2] 既存顧客等による紹介で得られた、「新規獲得」顧客(リファーラル)
既存顧客は、以下2つ。
[3] 離反顧客
[4] 継続・アップセル顧客
そして、Earned Growth Rateは、上記の区分を用いて、
[2]「新規獲得」顧客 に [4] 継続・アップセル顧客 を足して100を引いたもの
と定義されています。

例えば、新規顧客を営業販促で(人・金を投じて)「買ってきて」成長している会社と、紹介によって新規顧客が増えていっている会社、あるいは既存の継続率が高い会社など、単純な最終的な結果の収益だけでは、その会社の実像はきちんと見えてきません。
顧客をどれだけ大切にしているかを、財務的な観点で、実態として測っているこの枠組みを筆者らは企業が公表すべき数値のスタンダードにすべきだ、とも主張しています。

NPSはあくまで顧客の主観評価なので、別途、実態をきちんと見定める必要があります。
他方で、財務指標だけでは、顧客側の視点や感情を捉えられなかったり、そのため要因の探求ができなかったり、また、なにより結果でしかなく、先行指標にはならなかったりします。
このNPSとEarned Growth Rateの関係のように、両方を注視していくことこそが、顧客側と提供事業者側、両者の成功および持続的な成長には不可欠なのだろうと改めて考えさせられます。

※Net Promoter®およびNPS®は、ベイン・アンド・カンパニー、フレッド・ライクヘルド、サトメトリックス・システムズの登録商標です。

【お気軽にご意見、ご要望などいただければ幸いです】
日経リサーチ 金融ソリューションチーム finsol@nikkei-r.co.jp
当コラムの無断転載、引用は固くお断りいたします。また、執筆者個人の主観、意見が含まれております、ご了承ください。

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