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私の嫌いをあなたは好きで

初夏の涼しい夕暮れ時。

西新宿の公園の芝生に寝っ転がって、二人は空を見上げていた。

音楽の趣味が合うことで、私たちの会話は穏やかに盛り上がった。

私がSelena Gomezの「Back To You」にハマっているんだと話すと、彼が携帯でそれを流してくれた。

しばらくしてから身体を起こすと、彼が私の横顔を眺めてこう言った。

「君の耳、すごくキュートだ」


*****

たったそれだけの事なのに

二人は付き合ったわけでもないのに

昔のデートの記憶がフッと蘇ることがある。

付き合ったわけでもない過去の人の記憶なんて、きっと忘れてしまうことの方が多いのかもしれない。

むしろ「無かったこと」として、わざと記憶から消去する人もいるだろう。

でも、たとえ付き合わなかったとしても、その人と過ごした時間は消えて無くなるわけじゃなくて、そういう時間も自分の糧になっていると私は思う。

*****

ずっと自分の耳の形が嫌いだった。

悪魔みたいに耳のてっぺんが尖っていて、恥ずかしい。変だと思っていたから。

だけど彼はそんな私の耳を「可愛い」と言った。

何気ない一言が、すべてを変えてしまうことがあったりする。

私が嫌いだった自分の一部を良いと思ってくれる人がいることに、その時初めて気がついた。

自分の好きなところを、同じように好きだと思ってくれる人はいるかもしれない。
けど反対に、自分の嫌いなところを好きだと思ってくれる人がいるって、なんだかいいな。


時々思い出す、私の変な耳を「可愛い」と言ってくれた人の話。






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