グレーゾーン その人

 その人は、郊外の新興住宅地で硬派で繊細な父と、楽観的で繊細な母と、父親の圧力に萎縮している姉と、父親の男尊女卑教育を徹底的に受けて育つ弟と5人で暮らしていた。

 家族で囲む食事は団欒とはかけ離れており、ただNHKのアナウンサーがその日の出来事を淡々と話す音を聞きながら、黙々と食事をしていた。父親の座る席からしか、テレビは観れない。どこかの国での戦争について父親の独断と偏見に満ちたナレーションが入ることもある。だからいつも、苦痛でたまらなかった。毎日決まった時間に帰ってくる父親の存在が疎ましかった。

 父親の独断と偏見に満ちた言葉たちがまっさらなその人の心に毎日毎日浸透して、その人の思考は作られていった。