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2023年下半期に読んだ本

2023年も終わりに近づいてきました。今年もたくさんのおもしろい本と出会いました。今日は、2023年下半期に読んだ本の中からみなさんにおすすめしたい本を10冊選んで紹介しようと思います。

逆ソクラテス(伊坂幸太郎)

子どもを主人公とした伊坂幸太郎の短編集です。小6の娘が学校の友達に勧められて読んで良かったと言っていたので私も読みました。(小学生が伊坂幸太郎の本を勧め合うんだなぁということにもびっくり!)
全編を通して描かれる「先入観」というテーマに教員としても保護者としても考えさせられるものがありました。学校という世界を自然な感じで描きつつも、伊坂幸太郎らしいフィクション性がお話の展開を支えていて、あっという間に読み終わりました。
娘とこの本の内容についてたくさん話しました。友達関係が難しくなる年頃ですが、学校での出来事について考えるとき、この本に出てくる見方やキーワードを思い出しているみたいです。本に支えられるとはこのことだなぁと思います。子どもにも大人にもおすすめの一冊。

息吹(テッド・チャン)

夫に勧められて読みました。「人間とは?」について考えさせられるとても読み応えのある本でした。9つの短編、中編が入ったSF小説集です。
特に印象深かったお話の1つが「偽りのない事実 偽りのない気持ち」です。このお話では、2つの物語が並行して進んでいきます。1つは「書く」という文化が初めてもたらされた村の話、もう1つは曖昧な記憶を補強するために膨大な動画データを利用し事実を確かめられるようになった近未来の話。
人の記憶とは曖昧なもので、自分にとって都合よく編集されて記憶されている。そのことに対してお話の登場人物たちは新たなテクノロジーを使いながら、問題解決の道を探ります。
AIが発展してきた今、人間はそのテクノロジーとどう向き合っていくのか。思考が刺激される一冊です。

家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった(岸田奈美)

偶然入った本屋さんに小さく「岸田奈美コーナー」があり、興味を惹かれたので1冊買って読んでみることにしました。
著者の岸田奈美さんは中学生のときにお父さんを亡くし、高校生のときにお母さんが生死を彷徨った末に車椅子になりました。弟はダウン症です。さぞ苦労の多い人生だろうと感じる人もいるかも知れませんが、本での語り口はとても明るく、読んでいると元気になるものばかり。軽快な関西弁の文章を読んでいると吹き出してしまう場面も。たくさんの困難が訪れる岸田家ですが、前向きな人生の支えになっているのが「愛」です。本を読んでいて、愛が溢れているなぁと思いました。亡くなったお父さんの存在もしっかりと家族を支えてくれています。生きていくエネルギーをもらえる一冊です。
(秋に教員と司書で行ったビブリオバトルでは、この本を紹介しました。)

ここだけのごあいさつ(三島邦弘)

ミシマ社という会社をご存知ですか?その一風変わった出版社を作った三島邦弘さんの著書です。
会社を経営する三島さんの苦悩がすごく伝わってきます。公務員の私とは全然違う立場のはずなのに自分の感じている苦悩と重なる部分が多くて驚きました。教育の世界は今困難を極めていて、私は一教員としてそれをなんとかしたいと思っています。そのやり方をぐるぐる考えるプロセスがこの本で書かれているのと近接していて、思わず共感してしまいました。レビューも書いたのでもしよろしければこちらもご覧ください。↓

うしろめたさの人類学(松村圭一郎)

前述の「ここだけのごあいさつ」と同じミシマ社の本。人類学なんて全然触れたことがない私ですが、章ごとにトピックで整理されているので読みやすいです。
エチオピアに滞在した経験を基に、日本の人々が感じている生きづらさみたいなものを捉えようとした本です。私は「贈与」と「交換」話がとてもおもしろかったです。自分で買うのと、プレゼントしてもらうのは違いますよね。プレゼントするのって難しいし面倒くさい。でも心を込めて選んでくれたプレゼントってやっぱり嬉しいですよね。人と人が関わって生きる社会では、合理性だけじゃなくて心のやり取りが大事な意味をもつ。面倒くさいことを敢えてやることにも意味があるのでは?と考えさせられました。読了後も地味に何度も思い出す1冊です。

フィールド言語学者、巣ごもる(吉岡 乾)

本屋さんで見かけて気になっていた本を図書館で発見!即借りて読みました。現地調査をもとに研究している言語学者の著者が、コロナ禍でフィールドワークに行けなくなり、自宅で言語に関するあれこれについてエッセイを書きました。それがこの本です。
言語学って国語とも外国語とも違うんですよね。おもしろい学問だなぁと思いました。世界各国には様々な言語があってその土地ごとに発展したり進化したりしています。世界中を研究フィールドとした言語の話(マイナーな言語を基にしたマニアックな指摘など)に感心しつつも、その部分は私のような凡人にはちょっと難しくて読みづらいというのが正直な感想でした。
私がおもしろかったのは、言葉狩りの無意味さについて語られる章や、話し言葉を文字化すること(例えば「違かった」という表記)について書かれた章。筆者の遠慮のない物言いが気持ちよく、身の回りにある言語の多様性や可能性を楽しく味わえます。

字が汚い!(新保信長)

図書館で見つけた本。これ絶対おもしろい!とピンと来ました。小見出し読むだけでも笑っちゃいます。
「字が汚い」このフレーズは小学校教員にはとても身近なものです。面倒くさくて字が雑になる子は本当にいっぱいいますから。毎日子どものノートを見ている私は、担任している子どもたち31人の字が名前を書いていなくても誰のものか分かります。汚い字も含めて、私は子どもたちの手書き文字を愛しています。パソコンで文字を打つ機会はどんどん増えているけれど、やっぱり手書きっていいよなぁと思いました。
「字をきれいに書きたい」強い願望をもち、様々な人にインタビューしたり、資料を探したり、ペン習字教室に通ったりする楽しい探究が描かれる本書。学校での文字の書き方指導にも関係する内容であるため、図書館に返すのが惜しいくらいでした。(文庫版もあるみたいだから買おうかな。)

わすれものの森(岡田 淳)

児童書からも1冊。岡田淳さんの本が大好きで、これまでもたくさん読んできたのですが、この本とは今年出会いました。
さっきの「字が汚い」と同じように小学校でよく問題になるのが忘れ物です。子どもたちに放置されたわすれものは集められ、「わすれものの森」に運ばれます。わすれものを自分の手に取り戻すために主人公ツトムが奮闘する姿に思わず「がんばれ!」と声をかけたくなります。
私は大人目線で読むとこのお話は2倍楽しめると思いました。主人公の成長にそっと寄り添うニブラやサントス、そして森にいる怖い番人たち。厳しさと優しさで子どもたちを見守るわすれものの森の住人たちに心が温まりました。あとがきまでぜひ楽しんでください。

先生が足りない(弓岡真弓)

先生が足りないことに10年以上前に問題意識をもった筆者(新聞記者)が、長年取り組んできた調査や取材の内容をまとめた本です。
読んでみてとにかく、「教員を規定の人数を満たすようにちゃんと配置する必要がある」ということを強く感じました。人が足りない状態で新年度がスタートする。そこから産休、病休、退職などでどんどん人が減り、残されている人の負担が益々増える。人が足りないと仕事が増え、人間関係が悪くなる。子どもや保護者に対して大らかで丁寧な対応ができなくなる。ルールに則った冷たい対応になり、不満やクレームは増える。…悪のスパイラルです。その悪のスパイラルを断ち切るために、今多くの人が力を尽くしています。私もその1人です。学校という大切な場所を守っていくことについて、考えるヒントになる一冊でした。

あそびの生まれる場所(西川 正)

今年、子どもの地域スポーツに深く関わるようになり、今まで以上に学校以外の人々のコミュニケーションに関心がわきました。
学校で働いていると、保護者や地域住民からの「クレーム」に苦しめられるケースもしばしば。「クレーム」ととして処理してしまえばそれまでなのかもしれませんが、そこに隠れている問題の本質は別のところにあるのでは?というのが自分の中で大きな関心事です。自分でなんとかできないから学校を頼る地域住民や保護者たち。でも学校もキャパオーバー…。そんな行き場のないモヤモヤ感をここ数年ずっと抱いてきました。
この本を通して、地域の在り方について新たな視点と勇気をもらいました。読むと、閉塞感を打開するヒントがきっと得られるはずです。より良い社会を目指す全ての人に読んでもらいたい1冊。(この本は、年明け1回目の読書会の課題図書にしました。)

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終わりに

11月はメンタル的に追い込まれましたが、物語やエッセイを読んで癒され、なんとか持ち堪えられました。
大変なことはいろいろあるけれど、問題の本質と向き合いながらユーモアで軽やかに乗り越えたいなと思いました。

読書記録については、ちょっと課題も残りました。手書きノートでの記録がうまくいかなかったのが反省です。noteにまとめたものについては、かなり記憶に残っているので良かったなぁと思います。来年、どうやって記録しようか検討中です。

最後までお読みいただきありがとうございました。
来年も、皆さまにすてきな本との出会いがありますように。