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第3章、村と居酒屋3ー「私の子供! 子供を知りませんか?」

太字の()は、私(主人公)の考えていることや思っていることです。
太字の「」は、複数人の大きな声や音、です。

作者より


 フローラがウェイトレスのお姉さんを紹介する。
 茶色い髪を後ろで一つにくくり、Tシャツにズボン、水色のエプロンを着た、見た目30代〜40代の女性が楽しそうな表情で
「ウェイトレス兼コックのケイトよ、みんなオムライス食べる?」
 私達3人がうなづいたので、ケイトさんは調理場へと引っ込んだ。

 男達が来て「みんな、お酒は、飲むかな?」
「ケイト! ジョッキ4杯、持ってきて!」
 と調理場に向かって叫ぶ。
 ケイトさんは調理場から顔を出すとにっこり笑ってうなづき、すぐに引っ込んだ。
 バッカスがさらに上機嫌になり
「お前ら、俺の歌が聴きたいか?」
「おおー!」
「バッカスちゃん、歌って!」
 と男達はうっとりと耳を傾け、ケイトさんもジョッキを4杯、カウンターに置いたままうっとりと聴き惚れている。私達4人は立ち上がり、カウンターのジョッキを受け取ると席に戻り「乾杯!」とジョッキを上げたとたん
 バッカスが突然
「てめぇら!俺抜きで乾杯しようってのか!」と私達を指差し
「お前、さっきまで歌ってたじゃねぇか!」とマーズちゃん
「もう飲んでるじゃありませんの。」とオフィーリア
「さっき、そちらで乾杯してましたでしょ。」とフローラ
「じゃ、一緒に乾杯しよ。」と私
「おぉー! 俺たちも」と男達もジョッキを上げる。
 ケイトさんは、笑顔で料理の続きをしに急いで調理場に引っ込んだ。
 マーズちゃんが私に向かって
「お前が音頭をとれ、この張本人。」
「うん、みんなごめん、でもって、ありがとう! 乾杯!」
とジョッキを上げると
「乾杯!!」
 という声が居酒屋内に響き渡り、私達4人とバッカスも来てジョッキを『カチン!』と鳴らし、お酒を口に含む。
「うん、おいしい!」と私
「フルーティね。」とオフィーリア
「うん。」とマーズちゃんとフローラもうなずいて再び口に含み、バッカスは
「だろっ! だろっ!」と自分の作ったお酒のようにうれしそう。
「よっしゃ! お前ら、歌の続きだ!」
「待ってました! バッカスちゃん!」
「ヒュー! ひゅー!」と口笛が飛び交う。
 再び、バッカスが歌い始めると男達も一緒に歌い始める。
 私達のテーブルには、ケイトさんと男達がオムライスにポテトサラダと、次々とたくさんの料理を運んでくる。
「素敵な歌を聴かせてくれたお礼よ。」とケイトさん。
 私達4人は、さっそくスプーンやフォーク、小皿を手に取り食べ始めた。
 私は、歌を聴きながら食べ物を口に運び「(自分の)名前を何にしようかな?」とつぶやく。私には女神達のように名前はない。その女神達も人の付けた名前で気に入ったものを使っているだけで、初めから決まっているわけではない。私の部下達も、呼びやすいように私が付けたものだ(んー『プルートー』じゃ露骨すぎるしなー、私の場合は、単に誰も付けてくれる者がいなかっただけなので…)

「澪木は?」とマーズちゃん
「水先案内のために立てた木のことですわね。」とオフィーリア
「澪木か…うーん…」と私は考え込む。
「私達の案内役ですものね。」とフローラ
「澪ちゃん、どうしたの?」と男達が声をかけてくる。
(あっ、私か…はやっ!てことは、もう決まったようなものか。)
声をかけてきた男たちの中の1人が、私の胸元を覗き込み顔色が変わる。
(あー見られちゃった、さっき戦った時に付いた血が…血だけ消すのって、けっこう面倒くさいんだよな…フードをずっとかぶっているのも、おかしいだろうし…。)
 マーズちゃんが立ち上がり
「行こうぜ、お姉さん、これ持ち帰りに」
と言ったのと同時に「バァン!!」とドアが開いて
「誰か! 私の子供、子供を知りませんか!!」
と30代ぐらいの髪を振り乱した女性が、慌てて入って来た。その後ろから、同年代の男も入ってきた。二人は夫婦のようで、その男が
「すみません、いきなり、実はうちの子が、帰って来なくて…」
「えっ、ゆうとくんが? 夕方、角の辺りで、友達と遊んでたわよ。」とケイトさん
「昼飯の後、うちのと遊んでいるのを、見たぜ。」
「俺も見た!」
「うちのやつに、聞いてみたか?」
入って来た男の人が
「夕方、角の辺りで、別れたって」
などといった会話を聞きながら、私は、ますます嫌な予感がしていた(うわー最悪の方に向かってる)
 私は暑くもないのに額の汗を拭う、と汗と一緒に髪に付いていた亡者の血も手の甲に付いてきた。女神たち4人が、不安な表情で私を見ている。
 私はハンカチでそれを拭うと、立ち上がり
「すみません、最後に見たのってどの辺りですか?」
 ケイトさんがカウンターから身を乗り出し
「この前の道を、右へまっすぐ行った、突き当たりよ、T字路になってる辺り。」
「ありがとう。」
 といって私は、先ほど入ってきた二人の男女の横を「ごめんなさい。」と言ってすり抜け、店の外へと飛び出した。そして、右手を走って行くと、2、30mほどでT字路に突き当たる。その向こうは真っ暗で野原のようだ。

私がキョロキョロと左右のT字路を見回していると、4人の女神達が居酒屋から持ち帰りにしてもらった夕食の入った紙箱を持って駆けて来た。その後ろから、あの男女と男達とケイトさんが出て来る。周りの建物の窓からも、こっちを見ている女性の顔が見える。(この様子だと、まだ亡者達は来ていないのか。第二都市で部下達が、必死で頑張ってくれているおかげだ。)

私は、再び店の近くまで行き
「もう帰ります、ありがとう、ごちそうさまでした。」
といって頭を下げ、T字路の前を突っ切り(よかった、野原だ。)カサッカサッと草の音をさせながら、闇の中に消え入るように入って行った。

 バッカスが男たちと居酒屋で歌った歌は
「Jono I Hardly Knew Ye(ジョニーは戦場に行った)」です。
 作者が独断で選びました。イメージとしては、
The Irish Roversのアルバム「The Irish Rovers 50 Years, Vol.2」の中の曲が近いです。
 男性が歌っているので、村の男たちがはやし立てているイメージが湧いてきます。
なお、文章内のリンク先は、私のホームページ『虹色らいん.com』の『資料室』です。

作者より


次回
第4章、砂漠1ー「俺のステージに来てたぜ、2、3ヶ月前だったかな」」


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