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78_悪魔憑きの時代 ~ 2006年TRPG人気調査

1人のクリエイターがトレンドを変えるときがあります。例えば『スター・ウォーズ』のジョージ・ルーカス監督やアップルのスティーブ・ジョブズや小説『姑獲鳥の夏』の京極夏彦のように。TRPG業界でも同様に、様々な人が活躍しています。力造先生(1978 - 2020)もその1人でした。約15年という短い期間に5つのTRPGシステムを上梓し、さらには2018年にゲーム制作集団「NEW GAME PLUS」を立ち上げました。先行する3つのクリエイター集団、株式会社グループSNE、冒険企画局(冒険支援株式会社)、有限会社ファーイースト・アミューズメント・リサーチ(F.E.A.R.)と異なる第4勢力として、力造先生亡き後もNEW GAME PLUSは様々なTRPGを発表しています。

前置きが長くなりましたが、力造先生の人望を示す奇妙なデータが2006年度TRPG人気調査です。関西コンベンション界隈で遊ばれた状況を調査すると、興味深い結果となりました。
調査結果を示す前に、この記事の趣旨を再説明します。過去の記事「74_CoC冬の時代 ~ 2004年TRPG人気調査」に書いたように、TRPG人気調査の方法は5通り考えられます。私は特に「(2)ビジネス視点」「(3)TRPGを遊ぶユーザ視点」に着目しています。

(1)中立な第三者機関による統計調査
(2)ビジネス視点
(3)TRPGを遊ぶユーザ視点
(4)同人作家の視点
(5)動画視聴者・動画配信者の視点

(2)ビジネス視点

TRPG売り上げ数字や発売される新製品の数です。ユーザが実数を知る機会は少ないです。「『ロードス島戦記』とその時代 ー黎明期角川メディアミックス証言集」によると、『D&D』10万部、『トラベラー』3万部、『ロードス島戦記コンパニオン』3万部(いずれも初版のみの数字)という貴重な証言があります。最近では、2023年6月に「『シノビガミ』シリーズ累計30万部」フェアが開催されたのが記憶に新しいです。アメリカの話ですが「世界最初のRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はなぜ2018年に歴代最高の売上を記録できたのか?」というweb記事もありました。『安田均のゲーム紀行 1950-2020』によると、『T&Tがよくわかる本』(清松みゆき、社会思想社、1988)が「RPGのガイド本なのに10万部以上売れて驚きました」と書かれています。
「『ロードス島戦記』とその時代 ー黎明期角川メディアミックス証言集」収録の2014年のインタビュー記事では、水野良先生がTRPGユーザ数推定を「10万人くらい」とも語っていました。

(3)TRPGを遊ぶユーザ視点

私はTRPGを「ゲーム」であり、遊びの1種類と捉えています。すなわち「(3)TRPGを遊ぶユーザ視点」が最も人気調査として最も妥当だと考えます。身内卓やオンラインセッション野良卓は数えようがありません。しかし、web検索すれば、2件のコミュニティでの集計報告が見つかります。テーブルトークカフェDay dream は「遊ばれたTRPGシステムの年別のランキング集計結果」を2010年から公開しています。京都大学RPG研究会は活動報告を2000年度から公開しています。

◆関西コンベンションTRPG人気調査

十数年続いているSNSの1つ、mixiで友人Sさんはコンベンション参加記録を日記に残しています。コンベンションでの立卓状況を知る貴重な資料です。Sさんの了解を得て、ある年の立卓数を数えました。ただし、これはあくまでも関西コンベンション界隈での実数です。2006年度、32件のコンベンションでは176卓が遊ばれました。

1位:デモンパラサイト(28)
2位:異界戦記カオスフレア(20)
3位:ブレイド・オブ・アルカナ3rd(12)
4位:アリアンロッド(9)
4位:ダブルクロス2nd(9)
6位:ソード・ワールドRPG(8)
7位:D&D3.5E(7)
8位:アルシャードガイア(7)
9位:ナイトウィザード(6)
10位:ガンドッグ(5)

集計結果の他に参加者100人以上の大型コンベンション2回開催が2006年当時の盛り上がりを感じさせます。しかし、2006年度の最大の特徴は『デモンパラサイト』オンリーコン3回、『異界戦記カオスフレア』オンリーコン1回です。2006年7月発売『デモンパラサイト』は筆頭デザイナーこそ北沢慶先生ですが、リプレイ執筆ほか幅広く力造先生(1978 - 2020)が関わっていました。2005年11月発売『異界戦記カオスフレア』は三輪清宗先生と小太刀右京先生(1979-)の共著で第五回ゲーム・フィールド大賞TRPG部門に準入選して製品化されました。言い換えると、アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995)放送時に中高生だった世代がプロデビュー。関西出身のゲームデザイナーを友人として応援しようという気運が高まっていたように思います。『ダブルクロス・リプレイ・デザイア』著者の加納正顕先生も力造先生たちと旧来のゲーム仲間だそうです。

◆大学サークル活動報告より

ほかのデータ源として2006年度の京都大学RPG研究会活動報告を下記に引用します。大学サークルのため、集計が4月-翌年3月の年度締めである点を留意してください。

1位:ソード・ワールドRPG(49)
2位:クトゥルフの呼び声(40)
3位:放課後怪奇クラブ(31)
4位:ナイトウィザード(17)
5位:アルシャードガイア(14)
6位:ゲヘナ・アナスタシス(12)
7位:ウィッチクエスト(11)
7位:デモンパラサイト(11)

ちなみに『デモンパラサイト』は2007年度12位(7回)、2008年度6位(12回)でした。2008年には全7話の大宇宙SFキャンペーンも遊ばれています。会員の嗜好により人気システムがバラつくと思います。この集計ランキングは1つの大学サークル活動です。この結果を見ると、関西コンベンション界隈と大学サークルで傾向がかなり異なっているとわかります。関西コンベンション界隈では多種多様なTRPGシステムが遊ばれており、かつ、2006年度は独特の偏りがあったと言えます。

余談になりますが、『デモンパラサイト』には個人的な思い出があります。2008年5月4日にMixi『デモンパラサイト』オフ会を開催しました。いわば、オンリーコンベンションです。コミュニティ管理人の同田貫さんと協力して主催しました。秋葉原のR&Rステーション(初代)で参加者26名、5卓でした。力造先生にゲストGMとして参加していただきました。力造先生の卓にプレイヤー参加したい希望を抑えつつ、私はGMとして伝奇サプリメント『デモンパラサイト異聞 鬼御魂』(力造著)を利用した幕末シナリオを立卓しました。幹事とGMを兼任したイベントは平成時代にこの1回だけ。私は基本的にサークル内部でGMすることが多く、2回オンリーコンベンションにGM参加した『デモンパラサイト』は思い入れの強いTRPGシステムでした。

参考文献
『安田均のゲーム紀行 1950-2020』
『『ロードス島戦記』とその時代 ー黎明期角川メディアミックス証言集』

世界最初のRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はなぜ2018年に歴代最高の売上を記録できたのか?
https://gigazine.net/news/20190110-dungeons-and-dragons-best-seller/

テーブルトークカフェ Day dream ランキング
http://trpgtime.sakura.ne.jp/first/rank.html

京都大学RPG研究会活動報告
https://www.ku-rpg.org/archive/2006.html

TRPG「シノビガミ」フェア開催!」
https://twitter.com/Shinkigensha/status/1671384559840284672

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