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74_CoC冬の時代 ~ 2004年TRPG人気調査

最近「『クトゥルフ神話TRPG』の人気が高い」と言われているのは、動画配信がきっかけと言われています。それでは、動画以前の時代はどうだったのでしょうか。まず、人気の根拠を動画投稿数とした山本真妃沙氏の論文を引用します。

日本においてCoCは,ニコニコやYouTube等のオンライン動画サイトで人気が高い.ほとんどのCoCについての動画は「リプレイ動画」と呼ばれる,実際のあるいは創造されたTRPGのセッションを主に文字によって再現された動画である.ニコニコではCoCリプレイ動画は2012年から投稿され,2021年11月現在でその数は20,000件に達しようとしている.4 ニコニコに投稿されているその他のTRPGリプレイ動画は『人狼ゲーム』5(2,189件)や『インセイン』[河嶋 (2013); 1,082件]であるが,これらの動画投稿数の比較により,CoCが日本のオンラインコミュニティで最も人気のTRPGであることがわかる.

山本真妃沙「大人の平和教育のための効果的なクトゥルフ神話TRPGのシナリオ作成とセッション運営の実施について」より

動画以前の時代について過去に調べた資料を引っ張り出しました。データを示す前に、観点を整理します。調査の観点から考えると、TRPG人気調査に5通り区分が考えられます。動画以外に4つの観点があります。

(1)中立な第三者機関による統計調査
(2)ビジネス視点
(3)TRPGを遊ぶユーザ視点
(4)同人作家の視点
(5)動画視聴者・動画配信者の視点

(1)中立な第三者機関による統計調査

過去の記事で紹介した『レジャー白書』『ファミ痛ゲーム白書2022』が該当します。もっとも、TRPGを含めたアナログゲームに対して統計調査された記録を存じません。強いて言えば、ゲームマーケット参加者数が客観的な数字と言えます(主催者による公式発表ですが)。

(2)ビジネス視点

TRPG売り上げ数字や発売される新製品の数です。TRPGを販売している出版社や印税収入を受け取るゲームデザイナーは把握しているでしょうが、ユーザが知る機会は稀です。web検索すると、ゲーム専門店イエローサブマリンが定期的に売り上げランキングを公開しています。2023年6月に「『シノビガミ』シリーズ累計30万部」フェアが開催されたのが記憶に新しいです。ビジネス側が公開しない限り、ユーザは知り得ません。アメリカの話ですが「世界最初のRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はなぜ2018年に歴代最高の売上を記録できたのか?」というweb記事もありました。『安田均のゲーム紀行 1950-2020』によると、『T&Tがよくわかる本』(清松みゆき、社会思想社、1988)が「RPGのガイド本なのに10万部以上売れて驚きました」と書かれています。RPG雑誌についても下記のように言及されています。

なにせ『コンプRPG』の創刊号とか、初刷の10万部が完売して、雑誌なのに増刷したほどです。それは各社も力を入れてくるわけです。

『安田均のゲーム紀行 1950-2020』p32

(3)TRPGを遊ぶユーザ視点

実際にTRPGセッションが遊ばれた回数です。身内卓やオンラインセッション野良卓は数えようがありません。しかし、web検索すれば、2件のコミュニティでの集計報告が見つかります。テーブルトークカフェDay dream は「遊ばれたTRPGシステムの年別のランキング集計結果」を2010年から公開しています。京都大学RPG研究会は活動報告を2000年度から公開しています。他にも散財する情報を拾い集めれば、ある程度の傾向が分かります。統計学者から抽出方法に偏りありと指摘されるでしょうが。

(4)同人作家の視点

コミケやゲームマーケットなど同人誌即売会に行けば、サークル数や新刊の発売点数でどのくらい流行しているかを調査できます。オンライン同人シナリオ販売サイトで出品数を確認することもできます。感覚的には1990年代後半、ゲーム(電源不要)ジャンルでは『ソード・ワールドRPG』だけでなく『ルーンクエスト』同人誌も多かった印象がありました。

(5)動画視聴者・動画配信者の視点

TRPGリプレイ動画を鑑賞する人や、動画配信者がどれくらいいるかという観点です。気をつける点は、「視聴者」=「遊ぶ人」とは言えないことです。1996年に安田均先生がリプレイ書籍を読む人とTRPGを遊ぶ人の分化を指摘されていました。TRPGリプレイ動画についても、視聴者と遊ぶ人と分化した可能性があります。ただし、TRPG未体験ユーザに知ってもらって、新たに始めるきっかけとして有効性が高いと思います。

TRPG人気調査の着眼点のうち、私はTRPGを遊ぶ人なので「(3)TRPGを遊ぶユーザ視点」を重視しています。個人的に過去に調べたデータを示します。2004年当時、「TRPG情報誌 語り部日報」というメールマガジンが配信されていました。日本各地のコンベンション開催情報と予定卓が紹介されていました。その予定卓を集計したのが下記のランキングです。私が全てのコンベンションに参加したわけではないので、実際に立卓した数はわかりません。

2004年のコンベンション傾向調査

1位:ソード・ワールドRPG(44)
2位:アリアンロッド(40)
3位:ダブルクロス2nd(39)
4位:深淵(35)
5位:ブレイド・オブ・アルカナ2nd(23)
6位:D&D 3e(21)
7位:アルシャード (19)
8位:セブンフォートレス V3(17)
9位:エンゼルギア 天使大戦TRPG(15)
10位:サタスペRemix+(14)
10位:トーキョーN◎VA(版問わず)(14)
12位:ローズ・トゥ・ロード(版問わず)(11)
12位:ナイトウィザード(11)
12位:迷宮キングダム(11)
15位:ガープス(10)
16位:異能使い(9)
17位:ゲヘナ(8)
17位:ダブルムーン伝説TRPG(8)
17位:ニルヴァーナ(8)
20位:ゴーストハンターRPG02(6)
20位:六門世界RPG(6)
20位:TORG(6)
23位:トラベラー (5)
23位:魔獣の絆ビーストバインドR.P.G.(5)
23位:コール オブ クトゥルフd20(5)

データは「TRPG情報誌 語り部日報」にて告知され、予定システムを紹介していた一般のコンベンション情報を集計したものです。Onlyコンベンションは6卓と仮定してカウントしてあります。フォローしていないコンベンションも多数あり、数値的には厳密ではありません。
CoC冬の時代と見えるのは『コール・オブ・クトゥルフ d20』(2003)が5件。『クトゥルフ神話TRPG』(第6版)は2004年発売なので、ランキング圏外は仕方ないという意見もあるでしょう。しかし、コンベンション以外で『クトゥルフの呼び声』(第5版)など旧版を遊んでいる人々もいました。

ほぼ同じ時期、2004年度の京都大学RPG研究会活動報告を下記に引用します。大学サークルのため、集計が4月-翌年3月の年度締めである点を留意してください。

1位:ソード・ワールドRPG(47)
2位:クトゥルフの呼び声(22)
3位:真・女神転生II TRPG誕生編(16)
4位:放課後怪奇くらぶ(15)
5位:ギア・アンティーク マキロニー2000(オリジナル拡張システム)(13)
5位:TORG(13)

共通点は『ソード・ワールドRPG』が1番人気という点のみ。会員の嗜好により、人気システムがかなり偏っていると思います。この集計ランキングは1つの大学サークル活動です。2023年現在、日本に国公立大学が217校あります。私立大学は592校。大学総数の2割くらいに活発なサークルが存在すると推測すれば、日本全国に大学RPGサークルが百くらいありそうです。公式サポートが途絶えた冬の時代といえど『クトゥルフの呼び声』がそのようなサークルで連綿と遊び続けられた可能性があります。というか、根強い人気が残っていたため、2005年以降に多数の国産サプリメントが制作され、海外の有名サプリメントが翻訳されて、2010年代以降の人気の下地となったのでしょう。

参考文献
『安田均のゲーム紀行 1950-2020』
山本真妃沙「大人の平和教育のための効果的なクトゥルフ神話TRPGのシナリオ作成とセッション運営の実施について」
世界最初のRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」はなぜ2018年に歴代最高の売上を記録できたのか?

「TRPG情報誌 語り部日報」
http://kataribe.com/KN/

テーブルトークカフェ Day dream ランキング
京都大学RPG研究会活動報告
TRPG「シノビガミ」フェア開催!」

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