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57_TRPG世代論『大活劇』から『天下繚乱』和の系譜

私は時代劇が好きです。NHK朝ドラ『カムカムエヴリバディ』が時代劇をテーマとし、大部屋俳優の伴虚無蔵(松重豊)が重要な役割で登場したことに感動しています。すなわち、時代劇ファンは少なくありません。TRPGにおいても、時代劇だけでなく幻想日本をテーマにしたシステムが多数発表され、親しまれて遊ばれてきました。その概観を振り返ってみます。

◆海外の和風TRPG

TRPG発祥が米国ですので、幻想日本をテーマにしたTRPGも米国が先行しています。『忍者学研究』によると、『Bushido』(1979)『Land of the Rising Sun』(1980)『Land of Ninja』(1987)の3タイトルが挙げられています。特に『Land of Ninja』は1990年代の大人気TRPG『ルーンクエスト』とルールを同じくする独立型サプリメントとあって、翻訳企画があったようです。飛鳥時代を舞台にした連載リプレイ「飛鳥風雲録」が「RPGマガジン」で突然打ち切られたときは驚きました。現実の歴史をTRPGで取り扱うには様々な問題があるのだろうと、一人のユーザーの立場で感じました。

TRPG以外でも日本モチーフは人気らしく、コンピュータRPGの古典『Wizardly』には上級職として魔法戦士Samuraiと、敵を一撃で屠るクリティカルヒットを得意とするNinjaが登場します。それぞれの専用武器、Muramasa BladeとShurikenもレアアイテムとして存在します。Mifuneなど敵キャラクターも登場します。しかし独自解釈の世界観であり、幻想日本とは違う存在です。漫画『BASTARD!! -暗黒の破壊神-』第2部に登場した侍たちがこの魔法戦士の世界観を踏襲していたのには驚きましたが。ゲームブックでは、FFシリーズ『サムライの剣』と、AD&Dシリーズ『忍者への道』が翻訳発売されました。他のシリーズ作品と異なり、名誉など独自の要素を取り入れています。

◆時代劇TRPGの黎明期

日本人によりデザインされた日本人のための時代劇TRPGは『大活劇 江戸の始末人』(1992)が最初でした。ですが、デザイナーの清松みゆき先生は『混沌の渦』ヴァリアントとして「時代劇の渦」(ウォーロックvol.24掲載 )を発表しています。両方とも『必殺!仕事人』を主なモチーフとしており、コンセプト面でのプロトタイプと言えるでしょう。仕事人をモチーフとした理由を3つほど挙げられていました。一つは、多様な職業のキャラクターが協力するチーム物という点。発端、情報収集、解決という物語展開がシティアドベンチャーの典型。権力者が事件を解決する『水戸黄門』『遠山の金さん』『暴れん坊将軍』などより、ゲーム向きという点だったと思います。PC作成が同心、医者、職人、商人など多彩な表の職業と、暗殺者・密偵・用心棒の裏稼業から一つずつ選択して組み合わせるというのも当時としては斬新でした。なにより、暗殺者が主役のTRPGは今でもなかなか見かけません。クライマックスは必殺判定に成功すれば、プレイヤーが自由にシーンを描写できました。プレイヤーズコールの先駆けとも言えます。この必殺シーンを演出できる自由度の高さも人気の秘密でした。

『大活劇 江戸の始末人』から少し遅れて『戦国霊異伝』(1993)が登場しました。題名通り、戦国時代を舞台にしています。職業は武芸者、忍者、密教僧、陰陽師、巫女の5種類。ファンタジーTRPGのようにパーティーを組んで怪異事件に対処します。ただ、なぜこういうメンバーが組んでいるのかという理由づけが難しく、ゲーム内では怪しい一団と言われることもしばしば。判定システムが当時流行の『GURPS』に似ており、3d6下方判定というわかりやすいものでした。キャラ作成時のサイコロ出目によって、有利不利が極端に振れることも1990年代のシステムらしかったです。個人的には、忍者が弱いことが気に入らず、作成時の出目で3人に2人は忍法を習得できないルールを改造して、PC全員が忍法を習得できるようにした拡大チャートを作りました。

◆和風ファンタジーTRPGの躍動

本格的な時代劇や戦国時代のTRPGとは別に、ファンタジーTRPG世界観の一部として和風の舞台が設定されることもありました。前述したコンピュータゲーム『Wizardly』をTRPG化して独自進化した2版『真ウィザードリィRPG』(1991)では、SamuraiやNinjaの出身地が解説されました。『ソード・ワールドRPG』にも、東方の謎の島イーストエンドがありました。TRPG設定は紹介されないままでしたが、水野良先生の小説『魔法戦士リウイ』シリーズの終盤で冒険の舞台となり、ついに語られました。ファンタジーと和風の融合で最も成功した例は『ガープス・ルナル』(1992)でしょう。青嵐の島カルシファード侯国は、武戦士(サムライ)、影タマット(忍者)、緑と銀の月の種族ケラーグ(天狗)など様々な独自設定がありました。リプレイ収録の外法鬼使いは、原書のルーン魔術を元にした凝ったルールでした。独自設定と大陸と同様の魔法使いや神官との混成パーティーを遊ぶことができました。実際、リプレイは戦士系3人、ウィザード、サリカ神官、ケラーグというパーティーでした。小説9巻、リプレイ上下巻が執筆された人気作品です。残念だったのは、影タマットがリプレイではPCでなくNPCだったことくらい。その代わり、JGC2001のイベントと連動して、ウエ様直衛の影タマット衆が選抜されて小説に登場するということもありました。

◆ハイパーオリエンタルTRPGの登場

時代劇RPGを大きく変えた、というか従来のTRPGの戦闘級シミュレーションと言われた遊び方を大きく変えたのが、物語重視の『天羅万象』(1997)でした。システム面での革新性はいずれ別の機会に語るとして、ビジュアル面でもTRPGの潮流に大きな影響を与えました。映画『未来忍者 慶雲機忍外伝』(雨宮慶太、バンダイナムコエンターテイメント、1988)から多大な影響を受け、サイボーグ忍者や命中時に珠で攻撃力を増加する珠刀などはそのまま移植されています。

◆もう一つの系譜、大正伝奇浪漫

『クトゥルフの呼び声』の主な舞台が原作小説と同じ1920年代のアメリカ合衆国だった頃、同時代の日本で遊んでみようというTRPGユーザーもいました。日本でいえば、大正時代から昭和初期。欧米諸国の影響を受けた西洋文化と日本の伝統文化が融合して独特の雰囲気を持った時代でした。名探偵、明智小五郎がデビューしてアルセーヌ・ルパンと対決したり、帝都を狙う魔人加藤保憲が暗躍した時代でもあります。大正時代を舞台にしたTRPGは2000年代に『秘神大作戦―Tokyo‐Noir‐City』(2003)『クトゥルフ神話TRPG クトゥルフと帝国』(2005)が発表されました。その後『はいからさんが通る』が劇場アニメ前後編で再アニメ化したり(2017, 2018)、漫画『鬼滅の刃』が流行して『劇場版 鬼滅の刃 無限列車編』(2020)が約400億円の大ヒットとなるなど、大正時代を舞台にした作品が再注目されています。そんな令和の時代に、妖怪と人間が共存する『大正伝奇浪漫RPG あやびと』(2021)が発表されました。邪悪な存在を滅ぼすのではなく、封印して浄化するという発想がいかにも日本的だと思います。聖徳太子が十七条憲法に書いた「和をもって貴しとなす」の考え方は、TRPGの新たな潮流になるかもしれません。

◆時代劇TRPGの揺籃期

2000年代は、時代劇TRPGの百花繚乱でした。中国の武侠小説や武侠映画を思わせる登場人物たちが日本的島国の乱世で活躍する『扶桑武侠傳』(2005)は、小林正親先生のゲームデザインデビュー作です。『東方不敗』などの香港映画ファンにはたまらない世界観でした。武侠という存在が日本ではマイナーだったため、あまり遊ばれなかった印象があります。
クトゥルフ神話の独立型サプリメントというか、戦闘ルールは別ゲームとなった『クトゥルフ神話TRPG 比叡山炎上』(2006)はタイトルから分かる通り、戦国時代で織田信長や明智光秀と絡むシナリオを遊べます。有名人には探索者から邪神の化身まで10通りの可能性が示されており、様々な遊び方が可能です。NHK大河ドラマで戦国時代が舞台になるたびに、新たなネタで遊びたくなる怪作です。

『天羅万象』の第3版『天羅WAR』(2007)はルールシステムをF.E.A.R.が展開しているSRS(スタンダードRPGシステム)とし、世界観は同じ惑星を舞台にした『テラ:ザ・ガンスリンガー』と融合した野心作です。2つの世界の文明の衝突と第三の敵に対する共闘を主なテーマとしていますが、多種多様な幻想物語を再現可能です。ルールがSRSなので『アルシャード』シリーズなど、他のシステムと混ぜて遊ぶことも可能でした。天羅世界に落ちてきたマシンヘッドと少年の交流を描いたり、天羅世界のサムライを地球に登場させたりしたこともあります。『天羅WAR』キャンペーンを遊んだ時は、死亡ルールを適用して金剛機の呪縛から解放されてル=ティラエ(オニ)シャーマンに転生するという物語も紡ぎました。

毎年のように新作が発売されたこの時期、夢世界を扱った現代異能ホラーTRPG『ナイトメアハンター=ディープ』の独立型サプリメントとして登場したのが『大江戸RPG アヤカシ』(2008)です。鈴木銀一郎先生が原案を担当して、時代小説ブーム(TRPGユーザー層との相関は不明)から提案されたそうです。詳細にリサーチした江戸時代の文化資料は、他のゲームを遊ぶ際にも参考にできます。

「江戸の闇は、現代より濃い」

鈴木銀一郎『大江戸RPG アヤカシ』p270

紅音也に似ているゲームデザイナー、小林正親先生は3度目の和風作品『和風幻想RPG 不知火』(2022)を発表しました。大胆にも詳細設定を省略し、記憶喪失の超人が魔物を退治するという振り切ったゲームです。往年の海外TRPG『指輪物語ロールプレイング』を連想させる「痛打表」が特徴です。歌舞伎や戯曲をモチーフにしたシナリオの提示も、意外とこれまでなかった手法です。これも和風TRPGの新たな方向性と言えるでしょう。

◆時代劇TRPGの集大成

様々な和風TRPGが発表されてきましたが、時代劇ファンの欲望は果てしないものです。山田風太郎作品のような忍法帖をやりたい、柳生十兵衛の活躍する剣豪モノを遊びたい、遠山の金さんのように隠密捜査した後に奉行所で裁きたい、魔界転生のような武人対決をしたい、新選組や維新志士の鎮魂歌を奏でたい、やはり天下のご老公を遊びたい、などなど。そんな要望を全て叶えることが可能なTRPGとして『天下繚乱RPG』(2010)が発表されました。ルールはわかりやすいSRSを採用し、武芸者、忍者、仕事人、天下人などわかりやすいクラスから、江戸っ子、天狗なども選択できる多彩なクラスが特徴でした。公式リプレイでは源義経が複数登場する愉快な展開もありました。シャーロック・ホームズとの共演も忘れられません。番外編的なリプレイでは学園モノや『天下繚乱ギャラクシー』というSF時代劇もありました。しばらく絶版となっていましたが、2版『超時空時代劇RPG 天下繚乱』(2021)として復活を遂げました。「超時空」という冠は河森正治氏の許諾を得たのか気になるところです(ふつうの単語なので、許可は不要かもしれませんが。どうしても『超時空要塞マクロス』を連想します)。「超時空」という名に値する、何でもあり時代劇になっています。日本の覇権を狙う魔王級のヤバい奴らがいて、その影響を受けた人間は悪人になります。時代劇によく登場する悪代官や私腹を肥やす商人、クーデターを企てる武士などは、そういう巨悪の影響を受けた悪意の犠牲者でもあります。戦闘で懲らしめた後に法の裁きを与えてもよし、悪人どもを地獄へ落とすもよし、その辺りの匙加減はプレイヤーに任されている部分があります。GMの趣向とプレイヤーとの合意のうえで、どのような時代劇でも遊ぶことが可能です。

一かけ、二かけ、三かけて、
仕掛けて、殺して、日が暮れて、
橋の欄干腰下ろし、遥か向うを眺むれば、
この世は辛~い事ばかり…
片手に線香、花を持ち、
おっさん、おっさん、どこ行くの?
あたしは必殺仕事人、中村主水と申します
「それで今日は、どこのどいつを殺ってくれとおっしゃるんで?」

『必殺仕事人』オープニングナレーションより

諸般の事情により前回の投稿から1カ月過ぎました。延期した間に起きた事件についてここでは触れませんが、この記事を発表するにあたって、文章を追記すべきと考えました。世界の歴史上どうであれ、暗殺者という存在はフィクション作品の中でのみ描かれるべきと思います。現実世界で暗殺やテロがなくならないというのが2022年現在の事実です。それでも、暴力による紛争解決は時代劇や戦国時代などの世界観をシミュレートしたときだけであって欲しいです。

参考文献

『忍者学研究』三重大学国際忍者研究センター

関連リンク
17_RPG参考作品(書籍編) ~あるいはRPGギミック~
https://note.com/niji_kreuz7/n/n7af449c8d80b
19_RPG参考作品(映像作品編)
https://note.com/niji_kreuz7/n/n7a606eaaa922