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新宿毒電波通信 第二号 特集「梅雨こそ読みたい、魅惑のキノコ。」 CASE.2 ウソダケ


キノコ特集 ウソダケ

ウソダケ
鶴内 手刀

 N社が2064年に販売を開始した「嘘茸の味のお吸い物」は、湯に溶くだけで嘘の香りが楽しめるスープとしてベストセラーとなり、2124年の今でもあらゆるスーパーマーケットに陳列されている。
 N社に納品する嘘茸の栽培工場が私の生まれた場所であり、現在は倒れた父に代わり私が経営している。父は嘘茸の嘘の成分を安定させることによって、N社との取引を勝ち取り、工場の経営を軌道に乗せた。
 大手食品メーカーのN社は原料の品質チェックが厳しく、社員の少ない零細企業の我が工場では私がそれを毎週確認していた。
 サンプルを採っている出荷予定の嘘茸のデータを見ていると、ある時点から嘘の成分が倍近くになっている。その日は社員が「職場に音楽をかけたい」と言って工場にVaundyを流し始めた日であった。私は全く知らなかったのだが、100年ほど前の歌手らしい。それから着想を得て、嘘の音楽を嘘茸に聴かせることで、嘘の成分を飛躍的に増やす栽培方法を確立した。そして、我が工場は「より真実の嘘」というブランド嘘茸を製品化、今では6箇所の工場が稼働している。娘も素直に育ち、私の人生は嘘の成分により幸せを得たと思う。
 しかし、今日私は筆を取らざるを得なかった。「より真実の嘘」は厚生労働省によって取り締まり対象となり、私は来月から父が入院していた精神科へ入院する予定だ。それは嘘なのか、真実なのか。


▲父が撮ってくれた過日の私と嘘茸

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