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新宿毒電波通信 第二号 特集「梅雨こそ読みたい、魅惑のキノコ。」 CASE.3 ヨニゲタケ


キノコ特集 ヨニゲタケ

ヨニゲタケ

niimino


 空梅雨の眠れない晩だった。連日の湿気と暑さで早くも夏バテ気味だった私は、有給休暇を取得、その喜びを肴に冷蔵庫へと向かうと、缶ビールのプルタブをすかさず開け、その音に乗じて夜明けの新宿へとくり出した。
 歩きながらビールを飲んで新宿三丁目。新宿駅周辺の喧騒と比べると、森閑と形容したくなるほど静かだった。
 小さな公園のベンチに腰かけ、3本目のビールを飲んでいると植え込みから物音。ネズミかと思い、身構えて立ち上がると、物陰から出てきたのは大小さまざまな4本のキノコだった。キノコの移動は胞子だけだと思っていたが、地面を這ってゆっくりと移動している。すかさずiPhoneを構えて連写した。すると、キノコは嫌そうに顔をそむけ、最終的にネズミを凌駕する速度で二丁目方面へと消えていった。
 あっけにとられていると、植え込みの方で、また音がする。派手な和柄、切れ込みのあるもの、真珠を埋めたような凹凸のあるキノコの集団が胞子を巻き上げ、こちらも二丁目方面へ猛スピードで消えた。
 私はようやく自分の目を疑い始めた。これは疲労と不眠と飲酒による、まぼろしではないか。しかし、iPhoneにはしっかりとキノコの写真が残っている。
 最初のキノコは一家夜逃げのキノコ、追いかけていた方は取り立てヤクザキノコなのだろう。
 空には真夏日を予感させる太陽が昇っていた。


▲iPhoneに残っていた写真の一部

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