#61 手話が速いから読み取れない?
これは、手話学習者から最も多く寄せられる質問の一つです。
お互いがゆっくり話せばいいのではないか、といえばその通りです。最初の数分間は、ゆっくり話そうという意識のもとで、それなりにゆっくり話すことができます。
しかし、10分くらい経つとほとんどの人が饒舌になり、自分のペースで話をしてしまいます。
もとの速さに戻ってしまう理由としては、
・ゆっくり話をしてみたら意外と通じたので、だんだんスピードを上げた
・自分のペースで話した方が疲れを感じにくい
・ゆっくり話す意識が薄れた
などがあげられます。
手話が速くて読み取れないのは、ろう者の自然体に触れることができたということでもあります。
ただ、読み取れなくて困るのは事実ですし、手話を第二言語として話すうえで必ずぶつかる壁でもあります。実際に、もっとゆっくり手話をやってくれたらいいのにという声は、手話に慣れている手話通訳者からも時折聞こえてきます。
ろう者が意識的にゆっくり話すというのは、対策の一つではあります。しかし、その方法では手話の音韻構造が崩れてしまうということを聴者は知っておかなければいけません。
「よろしくお願いします」は「良い」と「お願いします」の単語をくっつけるだけでいいと思われがちですが、実際には音韻としてのリズムがあります。
それをろう者側も意識していないと、最初の数分間はなんとか通じてもその後の会話ではお手上げ状態になります。
手話を学ぶ側は、単語と単語をくっつけるだけではなくリズムがあるということを理解し、そのリズムに慣れることで、読み取れない、通じないという状況が少なくなると思います。
ちなみににいまーるが運営している就労継続支援B型 手楽来家(てらこや)では、ボランティアや学生アルバイトも集まります。その中で、手話の勉強を始めたばかりの人に対して、利用者の方が「何で通じないんだろう」と不思議がることがあります。
はじめは手話マシンガンの自己紹介で圧倒されてしまった相手の表情に気付かない(気づけない)利用者さんが多かったですが、その度にスタッフから「ストップ!分からない顔してますよ、もう一度お願いできますか?」と声かけたところ、最近では本人なりに、こうやったら通じるかな?と工夫が見られるようになりました。絵を描いたり、スマホで画像検索したり、指文字を表すときはゆっくりやってみたり。それが功を奏して、今ではスタッフの介入がなくても通じる場面が増えてきました。
ボランティアや学生アルバイトに聞いてみると「ろう者が頑張って伝えようとしているのに、なかなか読み取れなくてとっても悔しい」「通じたときは本当に嬉しかった!」という感想が出てきています。
手話を第一言語とする人と第二言語として話す人の間で、お互いに通じ合うためには歩み寄りの姿勢が不可欠です。どちらか一方が努力や我慢をするのではなく、お互いがお互いを思いやり、一歩歩み寄る。
音声言語が中心の社会で、常に「通じない」環境におかれるろう者に対して敬意を払い、手話学習者に対しての配慮も適度に行えたらもっと共存しやすくなるかもしれません。
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