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高知の食卓

12/1-12/12くらいまで、高知に来ている。

僕のスマートフォンはカメラが壊れていてないも映らないので、インカムで撮影する日々が、かれこれ2ヶ月くらい続いている。

最近は、シャッターを押しても保存されなくなったので、何かを映した状態で、スクリーンショットを撮ることで、画像を保存する方法を編み出して得意になって周りに話したりしていたが、全て左右反転した写真が生成されていることに気がついてから、ショックを受けて写真を撮ることもやめた。
だから、写真はない。表紙の写真はJALのHPから拝借した。

高知へ来るのはもう3年目だ。
今回は、来てから二日くらいは、仕事をする以外はのんびり過ごしていた。だいたい、そんなものだ。
大量のピスタチオの殻を撒き散らしながら、ひとり暗室で映画を観たり、
巨大な図書館で、高校生と一緒に勉強したり、
夜通し、こっちでできた友達と飲み回ったりしていた。

週末、誘われて僕の仕事の先輩のお家にお邪魔した。
最近、高知に来ると、よく呼んでもらうようになった。久しぶり、と子どもたちも奥様も嬉しそうにしてくれて、僕も嬉しい。

はじめて行った日、僕は独りぼっちの単身出張者だった。湯気のたった食卓に招いてもらって、そのあたたかさに思わず僕は涙ぐみそうになった。弟くんは、「5人家族になった!」と叫んだ。

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この週末も、子どもたちと勉強したり、遊んだり、本を読んだりして、みんなで一緒に温かい夕飯をいただく。

どこかのタイミングで、先輩の娘さん(小学生のお姉ちゃん)と、日曜市(路上マルシェ)に行く約束をする。
何時にする?と聞いたら、「7:50に図書館の銅像の前ね」と言われ、反射的にすこし震える。
日曜日の7時に起きることは、何年ぶりだろう。

その朝は、4時ごろ帰ってきて、死んだように眠り、7時にガバッと飛び起きた。
子どもとの約束に遅れるのは本能的にダメだと僕はわかっていたようだ。
ガタガタ震えながら、もう明るい大通りを図書館へ走る。
5分遅刻したが、あっちは10分遅刻だったので、ホッとする。

先輩の奥さんとお姉ちゃんと、三人で日曜市を歩く。それは、もう何度目かのことだ。
奥さんは、慣れた手つきで買い込みまくっている。どこで何を買うのか、分かりきっているみたいである。きっと、今日の夕飯なのだろう。
こんにゃく、もち、たくさんの野菜だ。かぼちゃとか、かぶとか、だ。

朝ごはん、食べにくるよね?と奥さんに、言ってもらう。一緒に食べたい!と言ってくれたお姉ちゃんに救われる。
そのまま一緒に家に帰ることになる。
二人は自転車。僕は買い物袋を担いで、ダッシュで二台を追いかける。駅伝みたいな要領だ。

小学生の頃、自転車が盗まれて、当然すぐには買ってもらえず、友達と遊びに行く時、自分だけ走ってついて回っていた半年間くらいのことを思い出した。
ある冬、それをみかけた母は「せつない…」と嘆いて、僕に新しい自転車を買い与えた。

その話をすると、奥さんは笑った。お姉ちゃんは、さっき日曜市でなけなしのお小遣いで買った落花生を、食べたくて仕方なかったみたいだ。

朝ごはんは、かぼちゃのスープだった。皮ごと、粉砕しているので、ピスタチオみたいなきれいな緑色をしていて、塩味が絶妙だった。
硬いパンを焼いて、それにどろっと浸して食べるという朝食に心酔して、全員で没頭した。
素晴らしい気持ちで外へ出る。

そこから、姉弟と近所の猫と遊びに行き、お姉ちゃんの方にスケボー(?)を教えてもらい、弟君の方は自転車で走り回っていた。彼が段差を欲しがったので、側溝の鉄板を剥がして角材に乗せて段差を作ってみるが、2回ぐらいやっただけで、すぐに弟くんはサッカーをやりたがって、快諾した。
だが、すぐにテンポよく、全員参加のフリスビーへ移行する。
これらは、全て家の玄関の前のL字角の路上でやっている。ミニマルに、スキマ産業的に遊んでいく。

ある時、奥さんが美容室から帰ってきて、それに加わり、結構本気で、2チームに分かれて、フリスビーを投げ合うゲーム性のあるっぽい遊びに移行していった。

7時半に家を出たのに、気づけば1時半になっていた。
そろそろ、おいとましよう、と決意し、帰ろうとするが、めざとい子どもたちが騒ぐ。嬉しいことなのだが。
弟くんが、なぜかその直後姿を消したので、最後にお姉ちゃんだけママチャリの後ろのチャイルドシートに乗っけて、市営バスの要領で、ベラベラ一方的にしゃべりながら、家の周りをぐるっと数分かけて回る。戻ってきたけど、なぜかもう一周することになる。
帰ってきて、「この遊び、退屈じゃなかった?」と聞くと、お姉ちゃんは結構ドヤ顔っぽく、「たのしかった〜」と言ってくれたので、安心する。

奥さんから、おにぎらず、と梅昆布おにぎりを作ってもらい、お昼ご飯に持たせてもらう。美味しそうで、嬉しくて、グッとくる。
ふと見ると弟くんが、バナナを探し回っていて、ご飯前で両親は眉を顰めていたが、見つけたバナナを「それだけしか持って帰らんの?」と僕に渡してくれる。
驚いて、思わず彼と固い握手をする。帰り道、じわじわとバナナが効いてくる。

だが結局、そんなこんなで、その日もまた帰った道を戻り、夕飯を先輩の家で、ご馳走になってしまった。
先輩とはいつもよく喋るけど、その家では、奥様や子どもたちが彼の10倍くらい話すので、彼の家にお邪魔すると、むしろ彼を遠く感じる、という奇妙な事態が起きる。
ご飯ができるまで、お姉ちゃんのZ会の通信講座のタブレットの設定に苦戦する。

食卓には、今日、日曜市でゲットした食材が、ほとんど並んでいた。
しゃぶしゃぶをして、暖かくて素晴らしい気持ちになる。
ひと段落したあとで、僕が日曜市で買った、いももち(餅に芋が練り込んである、あんこ入りもち)をみんなで食べる。

お姉ちゃんは、「いももちがお腹に入るのを計算してお鍋を食べていたんだよ」、と僕に説明してくれる。そうなんだ。
奥さんは、「月火水木金はずーっとひっそり暮らして、この日曜日の解放のために生きてるって感じ」、と僕に説明してくれる。

食後に、筆ペンで、子どもと三人で勉強机に連なって、謎の絵を描きまくった。
弟くんが筆で書いた、ヘラクレスオオカブトに非常にしみじみとし、何度も絶賛した。
お姉ちゃんは、片目が髪で隠れた女の子を描いた。それを横からお母さんが見て、
「なんか、最近、こういうふうに、目を隠した子が実際多いんよね、なんでやろ、自信がないんかなあ?」
と今日切ったばかりの髪で目を隠してみせて、僕に言った。
すると先輩が、茶を飲みながら、「自信が無いんや」とうなずいた。

それで僕はようやく、帰った。


今は、東部の田舎の方で、隠遁者のような生活になっている。
知らない人はほぼいない田舎なので、僕が自転車で駆け回り、すれ違う人に声をかけると、3人に一人くらいは、固まってしまうから、あまり外に出ないようにしている。
といっても、出てしまうのだけど。

のびをしたいほどいい天気で、ひょんな気が起きて、こんなものを書いてみようと思った。

今日はまた洗濯をするつもりだ。

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