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精巧な手彫りが生み出すリアリティと800年引き継がれる伝統の朱色 神奈川県の鎌倉彫

元は仏具を製作するための技術として発展した鎌倉彫。明治時代の神仏分離令をきっかけに器やお盆などの生産に切り替え、現在までその技は伝承されています。

鎌倉時時代から800年以上の年月を駆け抜けてきた鎌倉彫の歴史や魅力についてまとめました:)


~今日の伝統工芸~
神奈川県鎌倉市の鎌倉彫

【鎌倉彫とは】
神奈川県鎌倉市発祥の伝統工芸品で、鎌倉時代より生産が開始された。カツラやイチョウの木を用いて木地を成形し、文様を彫り、その上に漆を塗って仕上げた工芸品。

日本的な草花の絵柄を中心に、力強く大胆に彫刻し、柔らかさとあたたかみを出した朱色の漆塗りが特徴的。時を経るごとに漆の色が落ち着き、艶やかな光沢を演出する。

色味が落ち着き艶が出てくることで、より作品に温かみが出るため、「鎌倉彫は使えば使うほど味が出る」といわれている。

【技術】
鎌倉彫では絵付け・彫・塗のすべての作業を一人の職人が行うことが多い。つまり、デザイナーとしての役目と技術者としての役目を一端に担っている。

調べていてこれだけの業務を一人の人が行うのかと驚かされました。作業工程を以下にシンプルにまとめています。

・絵付
彫の図案を描く段階。完成品となる形状や使い方などに合致するような文様となるように描いたら、青竹という染料を使って和紙に下絵を写す。その後、木地に和紙を転写する。
【彫】
・たち込み
小刀を用いて木地に転写した線にたち込みを入れる。遠近感やボリュームを出すためには、たち込みを入れる角度が重要とのこと。

・際取り
たち込んだ線の外側を彫刻刀で落とし、文様部分を浮き上がらせる。

・刀痕
小刀・平刀など多種類の刀を用いながら、文様箇所に肉付けを行う。文様以外の部分にあえて大胆な彫り跡を残すことで、他部分とのコントラストを生み出し、繊細な彫を際立たせます。
【塗】
・木地固め
「生漆(きうるし)」を塗り込むことで木地を頑丈にし、変形が起きるのを抑制する。

・蒔き下地
炭粉と砥の粉を蒔きつける。この作業で凹凸が際立ち、美しい塗り上がりとなります。

・中塗
黒漆を使って中塗りを二度行う。彫ったところに漆がたまらないように心がけることが重要。乾燥したら砥石や紙やすりで研いでいく。

・上塗
透漆(すきうるし:透き通るような漆)に朱色の顔料を入れたものを上塗りしていく。

・乾口(ひくち)とり、まこも蒔き
上塗後に乾いてきたら、完全に乾ききる前に、まこもを蒔く。乾燥後にきれいに磨けば、古風な味わいの色が出てきます。

・摺漆、仕上げ
最後の仕上げに研ぎ出しをし、再度生漆を全体的に塗る。艶を出すために布できれいに拭いたら、すす玉を使用する。この工程を繰り返して、ようやく鎌倉彫が完成します。

いやぁこの短い文面でも鎌倉彫の大変さが伺えます。鎌倉に観光で訪れ、鎌倉彫の作品を目にしたことのある人もいるかと思いますが、これらの工程を経た末に店頭に並んでいると思うと見方もきっと変わるのではないでしょうか。


【歴史】
鎌倉時代、中国から禅宗とともに伝来した堆朱(ついしゅ)や堆黒(ついこく)などの影響を受け、工夫をこらしながら木彫漆塗りの技法で仏具を作ったのが、鎌倉彫の始まり。

室町時代には茶の湯の興隆とともに茶道具として大いに珍重された。

明治時代には神仏分離令による寺院の衰退から仏師の仕事が激減。多くの仏師が転職を余儀なくされる中で、後藤齋宮(ごとういつき)と三橋鎌山(みつはしけんざん)の2人が活路を見出す。2人は仏像彫刻の技術を生かしながら、器など日常生活に基づく作品を生み出し、今日の発展の基礎を築きました。


【鎌倉彫の現在】
かつては 外国への輸出など、製品の売上が全体の多くを占めていたが、近年は作品作りによる収益がかなり減少しているというお話を聞いた。

全盛期には約 500 人いた従事者も、現在では 130 人ほどとのことであり、木地を挽く職人は鎌倉市内には一人もいない。

鎌倉彫に従事する職人の平均年齢は60代と高齢化が顕著である。

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