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闘うことば

                             市川 公美                                                                                                                             激動の2020年。嵐が幾重にもなって訪れたアメリカ。ジョージ・フロイドの死を端緒とするBLMムーブメントのさなかに浮上したことばがあった。

Equitable 公平・公正という意味。

息子の通う公立小学校の校長先生から父兄に一斉メールが送られ、今般の事件を機に抗議運動について生徒たちに議論の場を設けることを報せてきた。質問をされたり子供たちが過度に感情的になったときのために備えた事前報告だ。対応が非常に速かった。そのときのメールで使われていたのがEquitable。

クラスでは子供たちが憤慨していた。小グループに分かれて自分たちの考えをまとめパワーポイントで作成する。とくに成績の良い女子生徒は舌鋒鋭い。アメリカにおける黒人が辿ってきた歴史をつづったものもあった。
学年を違え、科目が異なってもこの問題を直接・間接的に扱い、肌の色で差別しないこと、他の生徒と違っていてもいじめたりしないことを徹底的に教える。黒人女子生徒のためにはメンタープログラムも設けられた。

このような方針は次のような言葉のトリオで雄弁に表現され、企業の広報などでもよく使われている。

Equitable, Diverse, and Inclusive

Inclusiveというとまず思い浮かべるのが LGBT。随分前、使われ始めた頃は GLBTであったが、レディーファースト(ほぼ死語?)のお国柄かすぐにLGBTとなって定着した。少し見ないうちに、長いものはLGBTQIAPKともなるようだが、LGBTQ+に落ち着いたようである。

最近はこうした最先端の動きに敏感な広告代理店やレストランなどで、男女両用、というか性別をなくしたトイレ、すなわち一種類のトイレを設置するところも増えている。カリフォルニア州からの先進的な教育庁長官が就任したせいか、ニューヨークでも公立小学校では性教育は男女一緒に受けなくてはならなくなった。

ちなみにEquitable の名詞形であるEquityは財務諸表では 資産から債務を引いた残りであり、有形無形の資産価値のこともいう。余裕がない状況をNo Equity と言ったり、お金ではなく自分の時間と労働を事業やプロジェクトにつぎ込む場合にSweat Equityと言ったりする。

BLM関連では、市長公邸のある近所の公園で大掛かりなデモを含め、手話通訳も含めた集会が毎日行われ、黒人の講師を呼び、みな神妙に聞いていた。いずれも白人のMillennialやGeneration Z(この次はGen Alphaになるらしい)世代の若い人が多く、アジア系や黒人の他、高齢者もちらほら混じっている。今までの黒人犠牲者の名前を記したポスターやキャンドル、花が周辺に飾ってある。この集会は冬になるまで続いた。小規模ながら公道でのデモを最後に見かけたのは11月末のことだ。

重力に必ず反重力が作用するように、反対勢力も頭をもたげた。良心的な人でも社会の正義を振りかざして一刀両断しているようにみられるとWokeと呼ばれ、ネガティブな意味で使われる。「反社会的な」意見を述べる人を排除する傾向をCancel Culture、それが政治で使われると Identity Politicsという。

ハリウッドでは珍しく共和党に属するテキサス州出身・在住のある俳優が両者分断を憂え、極端な右寄り同様、極端な左派はIlliberal(ism)に陥っているという。糾弾しあうのではなく、対抗する意見も聞いて議論をする健全な対立(confrontation)があってしかるべきであり、それがあって民主主義が成り立つと最近のインタビューで答えていた。

オバマ前大統領がかつて言ったように、民主主義とは面倒くさくて時間のかかるものだ。だからこそ守る価値があるのであろうか。

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                                                           (2020年12月21日)

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