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【2023Word】ウィズ・フェイク 〜 フェイクと共に生きる

加藤 麻子

2021年のNNE Word of the Year に選ばれた「ウィズ・コロナ」があまり聞かれなくなった今年、個人的に気になった言葉は「ウィズフェイク」だ。
日本人は "Let's"と同じくらい "with" が好きなようで、NHKでも「….ウィズフェイク時代をどう生きるか。。。」といったニュースを流している。

「フェイク」というカタカナ語は、アメリカのトランプ元大統領の「フェイクニュース」(虚偽報道)を連想させるが、"Fake News" という言葉 は19世紀末頃から使われているという。また、1980年代には動物愛護の観点から本物のファー(毛皮)ではなく「フェイク・ファー」が注目され、最近ではフェイク(偽物)のもつ否定的なニュアンスの代わりに環境保護を意味する「エコ」を使ってエコ・ファーと言うそうだ。

Fakeはニセもの、模造品、贋作、という意味だが、今ではlie(嘘)とほぼ同義語であり、false(不正の、いんちきの、虚偽の)、fraud (詐欺、不正、偽物)、conspiracy (陰謀)等と一緒に使われることが多い。例えば、

Trump has pleaded not guilty to all charges in what prosecutors say was a broad conspiracy to subvert the 2020 election by spewing a gusher of lies about purported election fraud and trying to get state, local, and federal officials to change the legitimate results to remain in power.
(Devlin Barrett, Washington Post, Dec. 5, 2023)

不正選挙と称する嘘を大量に吐き出し、権力を維持するために州、地方、連邦政府当局に正当な選挙結果を変更させようすることにより、2020年の選挙結果を転覆させようとする広範な陰謀であった、と検察が主張している罪状すべてについて、トランプ氏は無罪を主張した。(試訳)

2020年コロナ禍の「ステイホーム」時代には、SNSを使って発信する人も視聴する人も爆発的に増え、「コロナウィルスは本当は存在しない」「トイレットペーパーが製造できなくなるらしい」等々のフェイクニュースを信じた人が続出し、それがまたSNSで拡散された。

2023年になると、生成AIの進化により個人の思考に適合したフェイクニュースが生成され届けられているという。AI 技術や機械学習の技術を悪用して作り出されたニセ映像、ニセ画像にも騙されやすい。ネット上だけではなく、テレビや新聞にもフェイク情報が流れているので要注意だ。どのメディアを読み、どの情報を信じるかは個人の自由だが、どれが正しくどれが嘘なのかを判別するリタラシー(理解・判別能力)が益々必要とされる世の中になった。

しかし、ここでちょっと冷静に考えてみると、人間は「ウソ」をつかずに社会生活を送ることかできるだろうか?我々はそもそも社会生活を円滑に営むためにたくさんの「優しいウソ」(white lie)をつく生き物だ。これは、人間が生きていくために獲得した「知恵」とも言える。「さすがですね。」とか「あなたなら大丈夫!」などは人間関係における潤滑油だ。事実を元にしたフィクションが好まれるのも人間が作り話に夢や希望を託すからかもしれない。科学的効果はないとされるプラシーボ(placebo =  偽薬)にも心理的な治癒効果があるという。プロのアスリートは極限の緊張の中にいても競技を「楽しむ」と言って自分を励ます。嘘も方便とはよく言ったもので、私たちは事実の中にさり気なく「フェイク」を織り交ぜて相手を励ましたり、励まされたりして生きている。つまり、フェイクは今に始まったことではなく、今ちょっとした脚光を浴びているだけのようなのだ。

深刻なのは、何らかの利益を得ることを目的とした「ニセ情報」や面白半分に騒ぎを起こすことが目的で発信された「デマ」もあることだ。こうした悪意のあるフェイク情報は、複数のメディアの情報と見比べたり、情報の発信源の信憑性を確かめたり、二次情報の場合にはオリジナルの情報源を探す等のファクトチェックが必須だ。目にした情報をうのみにせず、面白いからといって安易に拡散しないことが重要だ。

結局のところ、私たちはいつの時代もフェイクを上手く使って生きてきた。これからも事実とフェイクの折り合いをつけながら、悪意のあるフェイクを見抜く技を身に付けて、ウィズフェイク時代を生き抜いていきたい。

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