故・安倍晋三元首相の発言から読み解く日本と台湾を巡る安全保障
地上波でも安倍晋三元首相の「台湾有事は日本の有事」発言が報道があって「どうして台湾有事が日本の有事になるんだ!」「アメリカが戦争(台湾有事)に日本を巻き込もうとしてる!」などという指摘も散見されたが、勘違いしてる人もいると思うので、正確な内容と考察を話したい。
①安倍晋三元首相の発言
正確には故・安倍晋三元首相が、2021年12月1日の台湾のシンクタンク国策研究院主催のシンポジウムにて中国が「あらゆる種類の軍事的挑発を続けていくことを予測しなくてはならない」との話しの中で、このように発言した。
この発言を普通に考えると、
台湾は通称であって正確には中華民国であって台湾国では無い。
その為、台湾有事=日本有事は集団的自衛権的にも無理。
となるので「どうして台湾有事が日本の有事になるんだ!」という指摘になる。
そして、アメリカの国内法規である台湾関係法に基づいて考えると、アメリカが台湾有事の際にアメリカの軍事力を行使(防衛)すれば、日米安保の集団的自衛権の観点から日本が前線に立つ参戦という形では無いにしても後方支援も含めた共同作戦が行われる。
それは、前述の故・安倍晋三元首相の発言の前に行われた、2021年4月に菅義偉元首相とバイデン大統領の日米首脳会談を行った際に合意した内容を見れば分かる。
これを文字通り捉えれば「アメリカが戦争(台湾有事)に日本を巻き込もうとしてる!」と指摘になるが、実際はこうなる。
安倍晋三元首相発言の読み
台湾問題とは、中華民国が実効支配している台湾地区の主権帰属または政治的地位に関する中華人民共和国と中華民国の政治問題なので、中華民国が主権を訴えている以上、その正当性を中華人民共和国が武力による現状変更をさせない為の集団的自衛権として捉えているのが分かる。
私がX(Twitter)などで否定していた「台湾有事は日本の有事」の論調と言うのは「台湾独立」も一緒に含めたものである。
それについて後に分かりやすく説明をするが、台湾独立には歴史的にも何の正当性も無いので、台湾独立や台湾を国として扱う表現をすると中華人民共和国がハレーションを起こし、武力行使に出るアシストをすることにもなるので注意したい。
この中華人民共和国側の言う「台湾独立勢力」と、台湾海峡は公海であり中華民国(台湾)の領海では無いのは重要なポイントなので覚えておいて欲しい。
②日本の脅威
日本にとって社会・共産主義圏の脅威は今に始まったものではなく、日本がロシア革命にて共産主義の存在・活動を把握した頃から脅威として捉えていた。
ソ連が1935年7月開催の第7回コミンテルン世界大会で日本とドイツを敵と規定した事もあり、ソ連を仮想敵国としており、日本と同じく国際連盟を脱退していたドイツとイタリアで、三国同盟の前身となる日独伊防共協定を結ぶ。
その後、日本は相互不可侵の日ソ中立条約を結ぶも、ソ連は1945年7月30日から8月7日の日本からの戦争終結の仲介依頼を断り、1945年8月8日夜に参戦を宣告。
日ソ中立条約の有効期限内に南樺太・千島列島(満州国も)に軍事侵攻してスターリンは「解放」を宣言した。
そして、ソ連はサンフランシスコ講和条約と同時に発効された日米安保(日米地位協定)、つまり日本国内に米軍基地が駐留する事を理由に平和条約を締結しなかった。
ロシアのプーチンも北方領土返還に対して米軍基地を置くからと4島返還に応じなかった事実を踏まえれば、日本は戦後から常に社会・共産主義圏からの軍事侵攻の脅威があったと言える。
③日米安保・日米地位協定から見る
歴史的に見ても、日本に在日米軍基地がある事で他国からの「武力攻撃」や「軍事侵攻」の抑止になっているのが、日米安保・日米地位協定なのは内容を見れば分かる。
在日米軍基地は日本にあって日本では無く、アメリカ国なので、そこへの武力攻撃はアメリカの個別的自衛権発動を招き、アメリカとの直接対決となる。
日本国土に武力攻撃または軍事侵攻しようものなら、日米安保(集団的自衛権)が発動して、日本の自衛隊とアメリカ軍による日本の領土奪還作戦や防衛戦が展開される。
菅義偉元首相とバイデン大統領の日米首脳会談で合意した内容の通り、日本は防衛費増額・防衛力増強を進めているが、敵基地攻撃能力保有については度々話題にあがる。
北朝鮮のように間に韓国がある事で日本への攻撃がミサイル攻撃に限定されている場合、冷静に考えれば攻撃基地をピンポイントで攻撃して基地壊滅する手段が無いと撃たれ放題となる為、敵基地攻撃能力の保有が必須であるが、ロシアに対して最前線の北海道や中国に対して最前線の沖縄、そして敵基地攻撃能力保有反対など日本国内で世論工作が行われている。
④国内外による世論工作
これまでを読んで貰えれば、在日米軍の存在が邪魔な国がある事を理解してもらえたと思うが、そのような国が在日米軍を武力的に排除する事ができない為、日本国内の世論つまり政治的に排除させる運動に他国が干渉するのは容易に考えられ、公安調査庁も情報公開して注意喚起をしており、過去に国会で質疑が行わらている。
中国に対して最前線となる沖縄だけでは無く、ロシアにとって最前線の北海道でもロシア・プーチンにとって都合の良い世論工作が行われている。
ロシアがウクライナに軍事侵攻した際に発した言い訳の中に「ロシア系住民の弾圧」があるのだが、ロシアのプーチンは日本が東北地方北部から北海道、樺太、千島列島に及ぶ広い範囲に先住していたアイヌ民族を先住民として認定した。
また、ロシアは国営放送のラジオで過去にアイヌから奪ったという内容の放送をしていた事が日本の国会で取り上げられている。
これらを見れば、ロシアがウクライナに軍事侵攻した際と同じ言い訳を日本への軍事侵攻に用いるだろうというのは普通の人であれば想像できるだろう。
しかし、元北海道議員の小野寺まさるや元札幌市長候補者の本間奈々、参政党、ch桜の親露媒体らや幸福の科学(幸福実現党)らの親露組織に関わってる人物らは印象操作やミスリードやデマで思考停止や情弱を騙して、アイヌ民族の文化否定や先住民否定を長年に渡り繰り広げている。
それらは紙面やYouTubeにて残っている以上、ロシア・プーチンにとってロシア系住民(アイヌ民族)を弾圧したという都合の良い証拠にされるのだが、日本や日本国民がどうなろうと思考停止・情弱ビジネスは美味いのだろう。
また、これらの世論工作の中にスターリンに忠実なエルンスト・テールマンに指導されていたアンティファという組織を中国の組織と誤認させロシアから中国へと視線を外す論調も展開されている。
敵基地攻撃能力も冷静に考えれば、ミサイル攻撃が限定される北朝鮮への抑止になるのだが、思考停止や情弱層に対して感情論やナショナリズムを扇動する世論工作をロシアや中国が関与している調査報告が海外でも出ているので注意したい。
⑤台湾有事について
ここまで長くなってしまったが、台湾有事について話しをする前にある程度の前提知識を話したい。
皆さんの中に台湾国と思っている人がいるかも知れないが、正確には中華民国(台湾)である。
中華人民共和国が大陸全土、中華民国が台湾島という形になったのは、中国共産党と国民党の覇権争いである。
第一次国共内戦(1927年8月1日〜1937年1月6日)、第二国共内戦(1945年〜)により、国民党が台湾島に中央政府(中華民国)を移転した事(台湾島防衛)で、今の形となっており、実は第二次国共内戦は終戦していない。
その為、中華人民共和国が中華民国を武力による統一を行った場合、第二次もしくは第三次国共内戦という新たな中国の覇権争いの結果次第では中華人民共和国が没落する可能性がある。
それ(武力による統一)を避けたいのは習近平国家主席らの考えを見れば分かる。
このように、中華人民共和国は中華民国に対して、武力行使の対象は外部勢力の干渉と独立勢力であって、武力による統一では無いというのが分かるだろう。
では、なぜ中華人民共和国は今の中華民国に対して、そんなに過剰になっているのか?
それは、今の台湾総統である蔡英文総統は民進党であり、民進党はこれまで国民党(中華民国)を外来政権としており、中華民国体制からの脱却=台湾独立というスタンスだった為、民進党の蔡英文が総統選挙で当選した事で中華人民共和国が過剰反応した。
なぜ独立勢力に過剰になるのかというと、これまで国民党の総統選候補者は中華人民共和国との国共内戦終結=和平協議をするという路線であり、それは習近平国家主席も歓迎ムードだった。
中華民国は建国も憲法公布も中華人民共和国よりも早く、一方の中国共産党は第二次国共内戦で大陸を支配して中華人民共和国の建国宣言=中華を武力によって二分した形になる。
中華人民共和国からの歩み(一つの中国論)では、どの口が言っているんだ!となるので中華民国側からの歩み寄るのが、中華人民共和国を主体とした理想の形(一つの中国論)となるのだ。
その為、中華民国を外来政権とし中華民国体制を否定した台湾独立派に中華人民共和国は過剰反応したのだが、当初は台湾独立派だった蔡英文総統の戦略は見事に中華人民共和国が手も足も出せない戦略を打ち出す。
中華民国体制から脱却しての台湾独立には歴史的にも何の根拠も無く、また今現在の国民党は中華人民共和国との和平路線を考えている為、中華民国体制から脱却しての台湾独立は一つの中国論的にクーデター・国家転覆という事になるので、習近平国家主席が2022年10月の第20回党大会の党活動報告で、台湾政策として次のような方針を述べた通り独立には武力行使(武力鎮圧)も辞さないという事になる。
そこで、蔡英文総統は中華民国体制を受け入れて中華人民共和国と主権は別とするも中華人民共和国側の一つの中国論を拒否するというスタンスに変えた。
この戦略は見事であり、中華民国(国民党)を武力で大陸から追い出し、中華人民共和国を建国宣言して中華を二分した中国共産党が中華民国を否定できるはずもなく、中華民国総統選における焦点が中華人民共和国に吸収されて民主主義や自由や人権を無くすか否かになる。
当然、蔡英文総統または民進党が中華民国体制を受け入れている以上、台湾独立派と言えないので中華人民共和国の戦略は平和的統一という手段をとるしか無いが、蔡英文(民進党)政権が中華人民共和国の体制を拒否しているので手も足も出せないのだ。
また、バイデン大統領はアメリカ大統領で初めてアメリカの国内法規である台湾関係法にて台湾有事の際はアメリカの軍事力を行使する事を明言した事で、より中華人民共和国が難癖を付けて武力行使をすることを困難にしている。
こうなると中華人民共和国の戦略は日本と同じように経済的影響を与えたり、世論工作の手段を取るのは容易に想像できる。
中国人民による台湾観光を止めたり、熊本に工場を建設した台湾企業のTSMCデマ(地下水汚染など)、蔡英文総統の尖閣諸島主権発言を悪意をもって報道、日台関係を悪くする情報発信、台湾独立の扇動など、国益やら国土やら絡めたナショナリズム扇動は日本も影響されている。
日本も台湾も軍事侵攻や武力行使の可能性が極めて低いと言えるが、ロシアがウクライナに軍事侵攻したようにロシアやプーチンのような社会・共産主義の国が隣国に存在している以上、他国からの軍事侵攻や武力行使に備えるのは当たり前だが、国民レベルではネットリテラシーを養ったり、印象操作やミスリードや偽情報に惑わされないようにしないといけない。
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