【日本遺産の基礎知識】鬼が仏になった里「くにさき」(大分県)
執筆:日本遺産普及協会監事 黒田尚嗣
大分県の日本遺産「鬼が仏になった里『くにさき』」の基礎知識を紹介します。
※本記事は、『日本遺産検定3級公式テキスト』一般社団法人日本遺産普及協会監修/黒田尚嗣編著(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋・再編集したものです。
日本遺産指定の背景
「くにさき」の寺には鬼がいる。
一般に、恐ろしいものの象徴である鬼ですが、「くにさき」の鬼は、人々に幸せを届けてくれます。おどろおどろしい岩峰の洞穴に棲(す)む「鬼」は、不思議な法力を持つとされ、鬼に憧れる僧侶達によって「仏(不動明王)」と重ねられていきました。
「くにさき」の岩峰につくられた寺院や岩屋を巡れば、様々な表情の鬼面や優しい不動明王と出会え、「くにさき」の鬼に祈る文化を体感できます。
修正鬼会の晩、共に笑い、踊り、酒を酌み交わす—。「くにさき」では、人と鬼とが長年の友のように繋がれます。
1.「くにさき」の奇岩霊窟に住んだ鬼たち
瀬戸内海を渡る大和の人々にとって、「くにさき」は異界との境界であり、最果ての地の象徴でした。幾重にも連なる奇怪な山塊には、霧や瘴気(しょうき)(病気を引き起こす悪い空気)が立ち込め、どこか不気味で、「鬼」でも出そうな雰囲気を醸し出しています。
かつての「くにさき」は、鬼たちの済む異界「大魔所(だいましょ)」で、「くにさき」には、鬼が腕力で大岩を割り、割った石を積んで一夜で石段をつくったなど、鬼にまつわる伝説が多く残されています。
2.「くにさき」では、人と鬼とは長年の友
「くにさき」最大の法会「修正鬼会(しょじょうおにえ)」は、鬼に出会える夜です。鬼は、松明(たいまつ)を持って暴れ回り、火の粉が舞って、むせるような煙が充満します。松明で尻を打たれる「御加持」も、かなり手荒です。
火の粉を浴び、御加持を受ければ、「五穀豊穣」「無病息災」等の幸せが叶えられるとされ、「くにさき」の鬼は、その法力を使って災厄を払うよい鬼として、人々からあつく信仰されています。
長い仏事の合間には、唐辛子の効いた「鬼の目覚まし」が僧侶たちに出されます。仏事の最後には、大きな丸餅「鬼の目」が縁起物としてまかれて、人々は福を分け合います。岩戸寺・成仏寺では、講堂での所作が終わると、鬼たちは集落へと繰り出し、人々はこぞって鬼を自宅に招いてもてなし、鬼と酒を酌み交わします。
3.鬼に祈る「くにさき」の僧侶たちと不動明王
古代仏教の僧侶たちは、古来より不思議な法力を持つ鬼の姿を探して「くにさき」の岩峰を登り、鬼の棲む洞穴を削って「岩屋(奥ノ院)」と呼ばれる修行場を作り、岩屋を巡る「峯入り」を創始しました。くにさきの6つの郷には、最大65ヶ所の寺院が開かれ、「六郷満山」と呼ばれる仏の世界がつくられました。六郷満山の多くの寺で鬼会面が作られ、僧侶が扮する鬼は、国家安泰から雨乞いまでさまざまな願いを叶えてきました。
平安時代、密教文化がくにさきに入ってくると、くにさきの鬼は「不動明王」と重ねられるようになりました。多様な姿の不動明王を通じて、くにさきの鬼に祈る文化の深さが伺えます。
「鬼が仏になった里『くにさき』」の詳しい情報はこちら
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著者プロフィール
日本遺産普及協会代表監事。近畿日本ツーリストなどを経て、現在はクラブツーリズム株式会社の顧問を務める。旅の文化カレッジ講師として「旅行+知恵=人生のときめき」をテーマに旅の講座や旅行の企画、ツアーに同行する案内人や添乗員の育成などを行う。また自らもツアーに同行し、「世界遺産・日本遺産の語り部」として活躍中。旅行情報誌『月刊 旅行読売』に「日本遺産のミカタ」連載中。著書に『日本遺産の教科書 令和の旅指南』などがある。日本遺産国際フォーラム パネリスト、一般社団法人日本旅行作家協会会員、旅の文化研究所研究員、総合旅行業取扱管理者
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