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会社の破産手続の実際

1 会社が債務超過の状態にあり、かつ、継続的に営業損失が発生しているような場合には、適切な時期に破産手続開始の申立てを行うことを検討しなければならないこともある。以下においては、会社の破産手続開始の申立てから決定後の流れ等について論じる。

2 弊事務所で破産に関する相談を受けた場合、①まず、決算書などを精査した上で、破産が最善の選択肢であるか否かを検討している。②その上で、破産が最善の手段であると判断した場合には、一定の財産が会社に残されているか、あるいは残すことができるかどうかを確認する。これは、破産手続開始の申立てを裁判所に行う際に、一定の予納金が必要となるからである。
なお、東京地方裁判所では、申立代理人が事前に十分な調査を尽くし、破産手続に協力することへの信頼を前提として、会社の破産に関して最低でも20万円の予納金を納付させている。しかし、「債権者数が100名を超える場合、否認権行使のため相当程度の調査が必要である場合、売却対象不動産が遠方にある場合などは、管財業務の負担からみて20万円の引き継ぎ予納金では見合いません。」(破産管財の手引 第2版 30頁)とされていることに留意が必要である。また、東京地方裁判所以外の裁判所では、各裁判所によって取扱いが異なるが、負債額に応じて数十万円から数百万円と定められていることが多い。

3 破産手続を進めることが可能と判断した場合には、破産申立てに向けた具体的なスケジュールを策定する。具体的には、①破産手続開始申立てを行う日を大まかに決めた後、そこから逆算して、②いつ事業を停止するのか、③いつ従業員を解雇するのか、④いつ物件の賃貸借契約を解除するのか、といった具合である。できる限り破産財団に財産を確保できるように申立代理人として事前に処理すべきものもあれば、破産管財人に処理を委ねるものもある。これは、事案に応じてケースバイケースで判断している。
 これと並行して、会社の負債及び資産の調査を具体的に行う。例えば、①どのような債権者がいるのか(租税債権者、担保権者、その他労働債権者の有無等)、その金額はいくらか、②現在、どのような資産を保有しているのか、換価することが可能なものか否か、換価した場合の金額はいくらか、③リース物件の有無や金額、④店舗等を賃借している場合には原状回復費用はいくらかかるのか、といった具合である。
 かかる調査が完了し次第、策定したスケジュールにあわせて、破産手続開始の申立書その他必要書類を作成する。

4 以上のプロセスを経て、①裁判所に対して、破産手続開始の申立てをした後、破産手続の開始原因があるときは、破産手続開始決定が発令され(破産法30条)、あわせて破産管財人(申立代理人とは別の弁護士)が選任される(破産法31条)。②その上で、当該決定があったときは、その旨の公告がされ(破産法32条1項)、知れている破産債権者等への通知もあわせて行われる(同条3項)、②破産管財人が選任されると、申立代理人と会社の代表者や経理担当者が面談を行い、会社の状況を説明するとともに、必要な資料を引き渡す。③その後、破産管財人は、破産債権者からの届出を踏まえて破産債権の内容を調査し、資産などを換価することによって破産財団の増殖に必要な活動を行う。申立代理人と会社の代表者等は破産管財人の活動にできる限り協力する。④破産管財人が上記の活動を行っている期間中、3か月に一回程度の頻度で、債権者集会が招集される(破産法135条)。なお、法人の理事、取締役、執行役、監事、監査役及び清算人は、債権者集会において破産に関する事項について説明する義務を負っており(破産法40条1項3号)、特に代表者は債権者集会に出頭することは必須とされている。⑤破産管財人の上記の活動を経て、3か月程度から1、2年程度で、裁判所から破産手続の廃止の決定(破産法217条等)又は終結の決定(破産法220条)がされ、手続は終了する。

5 以上が破産手続の実際となるが、医療法人は、その財産をもってその債務を完済することができない状況になったときには、理事は直ちに破産手続開始の申立てをしなければならないとされており(医療法55条4項、5項)、破産手続開始の申立義務を負う法人もあることに留意が必要である。

6 また、従業員に未払賃金があった場合には、賃料の支払の確保等に関する法律(以下「賃確法」という。)に基づき、一定の要件のもとで、未払賃金の80%が、労働者健康福祉機構から立替払いされるという制度(以下「未払賃金立替払制度」という。)がある。この制度の対象となる労働者は、破産手続開始申立日の6か月前の日から2年間に退職した労働者であることが必要である(賃確法7条、賃確令3条1号)。そして、対象となる未払賃金は、基準退職日の6か月前の日から立替払の請求の日の前日までの間に支払期日が到来しているもの(定期給与と退職金は含まれるが、解雇予告手当、賞与等は含まれない。)が対象となる(なお、支給額の上限がある点にも留意が必要である。)。
 そのため、従業員を退職させてから6か月以内に破産手続開始の申立てを行わない場合には、未払賃金立替払制度が利用できなくなり、従業員に対して多大な損害を与えるおそれがあるため、十分に注意しなければならない。
 なお、6か月以内に破産手続開始の申立てを行うことができない特段の事情(裁判所への予納金が不足している等)がある場合には、会社の所在地を管轄する労働基準監督署長に対して、事実上の倒産に係る認定の申請を行うという方法(賃確法7条、賃確令2条5号、同3条2号)があるため、かかる方法を選択することを検討しなければならない。なお、弊事務所は、事実上の倒産に係る認定の申請を行った経験があるが、提出すべき資料が相当多数にのぼる上に審査にも一定の期間を要するため、破産手続開始の申立てが可能であるならば、当該申立てを行うのが時間的にも労力的にも望ましいと考えている。

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