新型コロナウイルス感染拡大化の賃料

1 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、飲食店などの店舗が賃料の免除又は減額を要請する事例が増えているところ、賃貸人として、このような要請に応じる法的な義務があるのかどうかが問題となる。

2 賃料は賃借物を使用収益させることの対価であるところ、仮に賃借を受けている店舗が、建物全体が閉館するなどして物理的に利用が不可能となり、又は法律に基づいて強制的に利用を制限されている場合などには、民法611条(賃借人の責めに帰することができない事由によって賃借物の一部が滅失その他の事由により使用収益することができなくなった場合に、使用収益ができなくなった部分に応じて減額されるとの規定)又は民法536条1項(当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、反対給付の履行を拒むことができるとの規定)を適用又は類推適用することによって、当該期間中の賃料の免除又は減額が認められる余地があり得ると解される。

3 しかし、店舗自体が物理的に利用可能な状態であり、又は法律に基づいて強制的に使用を制限されている状態とはいえない場合(例えば、東京都が令和2年4月10日に出した「新型コロナウイルス感染拡大防止のための東京都における緊急事態措置等」における施設の使用停止及び催物の開催の停止要請は、あくまで要請又は依頼であり、強制ではないものと解される。)には、民法611条又は民法536条1項を適用又は類推適用することは、慎重にならざるを得ないものと考える。
  また、新型コロナウイルスへの感染を懸念して顧客が利用を自粛したことや、新型コロナウイルスによる社会の景気が悪化したことによって店舗の売上が減少した場合においても、店舗自体の利用が制限されているわけではないから、この場合においても民法611条又は民法536条1項を適用又は類推適用することは慎重にならざるを得ないものと考える。

4 ただし、物理的又は法律的に利用が制限されていないとしても、非常事態宣言後において社会的な自粛ムードが徐々に高まっていったことも事実であるから、当該店舗の地域や時期その他の個別事情によって、事実上、店舗の利用が著しく制限されており、当該期間において約定の賃料を維持することが著しく不当であると評価されるような場合等には、信義則などの一般法理等によって、例外的に、賃料の一部減額等が認められる余地がないわけではないと思われる。

【執筆者:山口明】

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