見出し画像

ゆめにっき | 見知らぬ初恋のひと。

2024-07-30
初恋のひとが出来た。
同じクラスの茨城さん。知り合いにこんな人はいないが。
移動教室か何かで一緒になるだけで、いつも一緒という訳ではないみたいだ。ビジネスの構造について学ぶ小難しい授業だ。

自分の左斜め前、一番前の席に座る彼女に一目惚れした。
特に彼女の姿勢の良さに惹かれていた。彼女の背筋は常に伸びている。
人柄の良さも、純真無垢であどけない顔立ちも好きだ。
つきたての餅のような肌と、ちょうど後ろの席から見えるこめかみ辺りのほくろが愛おしい。

私は彼女のことばかりを目で追っていた。
先生が生徒を一箇所に集めると、彼女のことが一番よく見える場所を見つけて移動した。
先生がゆびを指す方向には一切の興味を示さず、ただ彼女のことを見ていた。
終いにはクラスの友人に「茨城のこと好きだろ」と言われてしまった。
家に帰ったら郷ひろみの歌の歌詞を「茨城さん」に変えて歌ってしまうくらいには浮かれていた。

また授業の時間。
私にとっては茨城さんを見る時間だったが、後ろの木棚が劣化で崩れそうなのがふと気になった。このままでは鞄を入れる場所が無くなる。なんとか自分の力で元に戻そうとしていた。どうせろくに使わないからと、自分の分厚い教科書を挟んで支えにすることで木棚の形を保った。

次の日授業に行くと、挟んでしまって手元にないはずの教科書が自分の机の上にあった。おかしいと思って木棚を確認すると、別の人の教科書が代わりに挟んであった。
教科書の後ろから二番目のページに書いてある名前を見ると、それは茨城さんのものだった。
そのページには一枚の紙切れ。
茨城さんの連絡先と一言、「今日一緒に帰りませんか」

気恥ずかしくて、書いてあった連絡先へ「はい。」とだけ返事をした。



夢を見た日の朝、満たされた気持ちで起きるのは久しぶり、というか初めてではないだろうか。

誰だ茨城さん。
顔を思い返しても該当する人物が浮かばない。
もしかしたら自分が棚に気を取られている間、向こうはこちらをずっと見ていたのだろうか。

そして茨城さんの教科書、ちゃんと返したか。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?