短編小説 ヒーローと怪人

控え室

ガチャ

「おはようございま~す」

「おう、お早う」

「いやぁ、昨日飲みすぎちゃって朝起きんのきつかったっす。」

「あんまり飲みすぎんなよ。ヒーローなんだからよ。」

「そうなんすけど、久しぶりの休みだとやっぱ飲んじゃいますって。ヒーローも息抜き、怪人も息抜きってね。山田さんは?」

「ん、あぁ、え~と。人に会ったりしてたな。」

「どしたんすか?歯切れ悪いっすね」

「ん、んなこたぇよ」

「怪しいっすね。何かあったんすか?」

「いやぁ、なんもねぇって」

「嘘くせ~。絶対何か隠してるでしょ?山田さんは嘘下手なんすから」

「ん、ん~」

「な~に隠してんすか?」

「んー、まぁ、お前には言っとかないとな。3年も一緒にやって来たんだし。」

「…………」

「…………」

「えっ!ちょちょっ、何か嫌な予感するんすけど!」

「………俺は来月いっぱいで怪人を辞める。昨日は再就職先に挨拶しに行ってたんだ。」

「ぇっあっ、嘘ですよね!?怪人辞めるなんて!だって言ってたじゃないですか!ずっとこの仕事やっていくって!」

「あぁ、そのつもりだったんだけどな。この間のレインブリッジの時に感じたんだ。俺はお前の技を引き出せていない、生かせない。俺はもう時代遅れになったってな。」

「そんなことないっすよ!」

「いや。あの時、お前は手加減した。だから俺の身体の爆発が鈍くなっていた。」

「そんなことないっす!それに今日は、今日はちゃんとやるんで!辞めるとか言わないでくださいよ!」

「すまん。変な言い方になっちまったな。お前は何にも悪くない。ただ俺の限界が来たから辞める。それだけだ。」

「そんなこと…」

「来る日が来たってやつだな。」

「…………」

「とにかく、俺の後任候補は何人かいるらしいし、決まったら引き継ぎもしないとな。お前もその時はよろしくな!」

「後任……候補……」

「ほらっ、そんな顔すんなって!来月までは一緒にやるっての。」

「はい………あのっ」

「ん?」

「こんなこと言うのもあれなんですけど、山田さんと戦えて良かったです。」

「気が早ぇって!来月いっぱいまでやるって言ったろ。それに!いつまでもそんな顔してんなら今日こそ勝っちまうぞ!」

「いやいや、勝ったらダメでしょ。社長に怒られるっすよ。グーでやられるっす。」

「ちっ、あいつ見た目に反して力強ぇからな。しょうがねぇ、今日も勝たせてやるよ!」

「うっす、よろしくお願いします!」

「おう!よし、そろそろ時間だな。行くぞ。」

ガチャン

~ーー!~!!!!!!~

社長室

ガチャ
「失礼します!」

「どうしたの、急に?」

「社長!お願いがあります!」

「えっ?まぁ、とりあえず聞くわ」

「俺を怪人にしてください。お願いします!」

「はぁ?貴方何言ってるの!?貴方はウチの看板ヒーローなのよ!」

「はい、でも山田さんの後を引き継ぎたいんす。お願いします!」

「んー、まぁ気持ちはわかるわ。彼もウチの看板だったし。三年も一緒にやってたんだから。でも、急に怪人は難しいわよ。何人か候補も上がってるし。」

「解ってます。でもやりたいんす。お願いします。」

「ん~さすがにね~。」

「無理っすか?」

「ん~。ん? ちょっと待てよ。堕ちたヒーローか………。良いかも!」

「本当すか!」

「うん!最近ちょっとマンネリ気味だったし!あんたもやる気全開だから挑戦してみようか!」

「ありがとうございます!」

「でも…やっぱり難しいわよ?」

「頑張ります!」

「そう、なら山田のアホを抜く位の怪人になりなさい!」

「うっす!じゃあ早速、山田さんに伝えに行きます。」

カチャ

「こらっちゃんと閉めてけ!」

ガチャン

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