短編小説 「結末」

この人が犯人だなんて。
この人、つまり山田サトさんが人を殺していたなんて分からなかった。
何度も会っていたのに。

高齢の女性である。
孫の敵とはいえ、二人の人間を路上で殺すなんて。
そして目の前に居る人、サトさんに話しかける。

「桜子さんはここにいますね」
玄関でサトさんはセーターの袖を巻りながら、笑顔で答える。
「ばれちゃったのね」
「もうやめにしましょう」
心から訴えた。
「それは出来ないわ。未緒の心を踏みつけて、ばかにして、笑って。未緒は泣きながら死んでいた。涙が流れていたのよ。あの子の目から。桜子ちゃんは小さい頃から知っているけど、許してあげられないの」

笑っている。
優しく笑っている。
心がもう……

「止めないのであれば、警察に通報します。できれば自首してほしかったです。」
携帯をポケットなら取り出そうとするとサトさんが髪をかきあげた。
「通報すれば後悔するわ。見えるこれ。これね、私の共犯者とつながってるのよ。」
小型のヘッドセットが白い髪に隠れていた。

「どういうことですか」
「うん。はじめて会った時から、私はあなたが気づくと思ってたわ。あなたは賢くて、真面目で未緒に共感していたから。だから、あなたを監視してもらってたの。最後までやりとげるために。」
「監視…」

汗が吹き出る。体が熱い。
共犯者はどこにいるのか、想像できてしまう。

「あの子は、奏美は関係ないでしょう!」
声を荒げてしまう。
「関係あるわ。あなたの弱い所だもの。通報せずに私に自首を勧めに来てくれると思っていたけど、力づくで止められる可能性も有ったから。可哀想だけど諦めて。」

「未緒さんが今のあなたを見てどう思いますか?」
説得するしかない。
他に方法が思い付かない。
「どう思うかしら。きっとやめてっていうでしょうね。優しすぎるから。でもね、許せないの。親を亡くして、私と二人暮らしになってから、流行りのものなんてあげられなかったのにまっすぐで優しく育った。そんなあの子をただ、気に入らないだけであんな仕打ちをする人たちを許すなんて出来ないの」

サトさんは表情を変えた。
鬼のような顔。

「未緒が悲しんでも私は止めないわ。未緒が帰ってこない限り止められない。もう諦めて。奏美ちゃんを犠牲に出来ないでしょう?そこから動かないで。もし動いたり、警察を呼べばあの子の命はないわ。桜子ちゃんは……すぐ終わるから。」
サトさんは家の奥に進もうとする。
「まっ って、」

クラクラする。
声がでない。
犠牲に出来ない。
桜子さんが殺される。
でも、
奏美だけは…

「桜子ちゃんはあなたにとって奏美ちゃんより大切ではないでしょう。」
サトさんは優しい顔になっていた。
ダメだ。
どうすればいいのか。
気持ちが、サトさんの気持ちがわかる。
思考が止まる……







気がつくと呆然とした自分の前に、血まみれなのに品のいいお婆さんがいた。

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