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パンの袋にときどき書いてあるPanは○○語!?

 皆さんはスーパーでパンを買ったことがあるだろうか。6個入りとか5個入りとかが一袋100円くらいで買える財布のお助け役みたいな存在で、僕は何度もお世話になっている。さてこのパンの袋、たまに装丁がおかしいことがある。今日はそんな話。

パンの袋に怪奇現象が!

 noteの記事にしようと前々から思っていたわけではないので写真がなくて申し訳ないのだが、ヤマザキだかPascoだかのロールパンの袋の開け口でこんなのを見つけた。

Butter Roll Pan

 やばい。やばすぎる。何がやばいかというと、英語のPanには日本語の「パン」の意味がなく別のものを指すからだ。中学校、いや下手したら小学校の英語の授業でやるのかもしれないが、パンを表す単語は "bread" である。正確に言うと半ポンド(230グラムくらいだったはず)あるパンを bread 、ないパンを roll (あるいは bread roll)というらしい。 "butter bread roll" なら良かったということだ。英単語の pan が表すのは、何を隠そう、フライパンである。つまるところ、 "butter roll pan" が表すのは「バターを引いてクルクルと丸めたフライパン」なのである! 恐ろしいことだ。僕はそんなものを食べていたのか……

pão ならまだわかる

 いやいや、そんなはずはない。ヤマザキを提供する山崎製パンだって、Pascoを提供する敷島製パンだって、日本を代表する大食料品メーカーだ。そんな訳のわからないものを消費者に食わせるわけがない。そもそも、パンは外来語のはずだ。前2単語の butter と roll は英語で、次の pan だけは別の言語と考えれば辻褄が合う。そうだ! そうに違いない!

 さて、パンの由来はポルトガル語である。中学社会の教科書に書いてあったから多分間違いない。じゃあ、ポルトガル語でパンは、っと……
pão!? pan じゃないじゃないか! ああ、困った、どうしよう。

他の言語を探してみる

 よく考えれば「別の言語」がポルトガル語である必然性はない。どこぞの言語を拾ってきていて、それが消費者に向けて学習意欲をかきたてるよう仕向けるという、世界の発展を願った神々の高尚な遊びかもしれない。何とも恥ずかしい早とちりをしたものだ。それでは他の言語を探してみよう。

 ポルトガル語はラテン語という古代ローマの言語を起源とする言語のグループ、「ロマンス諸語」の一つだ。ポルトガル語で pão ということは、ロマンス諸語でも似た単語の可能性が高い。ここから調べるのが見つかる確率が高そうだ。

 まずはロマンス諸語の最古の祖先、ラテン語。パンはラテン語では panis (パーニス)になる。惜しい。最後の2文字さえなければ。

 次はラテン語が話されたローマがある国の言葉、イタリア語。パンはイタリア語では pane (パーネ)になる。より近づいた。最後の1文字が余計だ。

 そしてロマンス諸語最大の話者を持つ、フランス語。パンはフランス語では pain (パン)になる。なんでそこまで行ってダメなんだよ! 最後の1文字も直ったし読み方もパンになったけど、間に変な文字を入れろとは言ってないんだけど!

 仕方ない。それではポルトガルのお隣の国の言語、スペイン語を確認してみよう。もしこれでダメなら、ルーマニア語だかロマンシュ語だかナポリ語だかといった、話者がぜんぜんいない言語を調べることになってしまう。お願いだ、スペイン語で合っててくれ! ということで見てみると、パンはスペイン語では pan (パン)になる。これだ! 間違いない。綴りも発音も完璧。

 ちなみにスペイン語でバターロールパンは "panecillo de mantequilla" になる。バターパンだと "pan de mantequilla" になるらしい。英単語の butter の語源はラテン語の butyrum だからスペイン語もそんな感じだと思ったんだけどな。

結論

 僕が見たパンの袋に書いてあった Butter Roll Pan という表現は、前方の2単語が英語、最後の1単語がスペイン語だということが分かった。2語目の roll と3語目の pan の意味が被っているのが若干気になるが、日本にスペイン語圏やポルトガル語圏から多くの出稼ぎ労働者が来ていることも考えればそういった配慮なのかもしれない。

 それよりなにより、この表示は僕の知的好奇心を満たしてくれた。自分の業界に興味があるという訳ではない人に、その業界に関する学習意欲を起こさせることは難しいことだが、山崎製パンだか敷島製パンだかは見事それに成功した。やはり日本を誇る企業なだけはある。あの装丁の担当者に、この場をお借りして賛辞を贈りたい。

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