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仕事だけが仕事じゃない

私の仕事はプロのカメラマンです。主な撮影内容は記念写真関係、広告用の写真やインタビュー動画、それと学校アルバム関係の仕事です。でも一番多いのは記念写真関係の撮影です。

結婚式のスナップ写真、結婚式の前撮り、お宮参り、七五三、家族写真などです。だいたい、町にある写真スタジオと内容がかぶるのですが、一番大きな違いはスタジオでの屋内の撮影ではなく、出張して屋外でのロケーション撮影が専門です。

そういった感じで10年以上続けていますが、昔は1年を通じて繁忙期と閑散期がはっきり別れていました。やはり春と秋の気候がいい時に撮影が多く、夏と冬はガッツリと仕事が減っていました。まぁ、言ってみたら1年の半分は死ぬほど働いて、残りの半年はロングバケーションを楽しむ感じです。

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ところがここ数年、この繁忙期と閑散期の山と谷の落差がだんだんと無くなってきました。数年前なら7月、8月の暑い時期に屋外での記念写真なんて1件も無いのが普通だったんですね。それが段々と夏でも冬でも撮影が入るようになってきました。

冬はなんとかできるものの、ここ数年の猛暑とよばれる気温35度以上の日に撮影するとなったら、写真を撮ること以外のいろんな事に気を使わないといけません。やはり暑さで疲れたりしたら、いい表情は撮れないし、そして辛いだけの記憶が残ってしまって、楽しい1日ではなくなってしまいます。

プロのカメラマンの仕事はお金をいただいて写真を撮る事です。なので、良い写真を残すのは当たり前なんですが、この良い写真ってのをどう解釈するのか、結構な幅があります。

そしてプロカメラマンの中で一番多いのは、良い写真とは画質が良くて綺麗な光を読み取って、適切なカメラ操作とレンズ選びができ、アングルやフレーミング、ポージング、露出などの技術的なことが素人ではできないレベルでこなすことができるのがプロの条件で、そのためにセミナーやワークショップを受けて腕を磨くことがレベルアップだと思う人が圧倒的に多いです。

たしかに、それはとても大事です。でも言い方を変えたなら、それはプロなら当たり前のことだと思うんです。でも、それさえすればプロだと思って、そういったことばかりに熱心になってしまいがちなのがサービス業でのプロカメラマンのように思えるのです。

でも、私はプロのカメラマンである前にサービス業の人間、さらにその前にお客様と同じ人間だと思っているので、自分ならされたら嬉しいだろうなって思うことをしてあげる事に喜びを感じてしまうんです。

タイトルにあるウチワの写真、夏の必需品です。お宮参りなんかだと家族の皆さんは赤ちゃんの荷物がいっぱいで、なかなか自分の物にまで気が回らないです。そこで、この暑さを少しでもマシにできるようにウチワを沢山用意しました。

100均で買ったのですが、真っ白で味気ないのでイラストを描きました。本当はもっと沢山あるので少々の大人数でも全員分あります。そして売っている既成のウチワではなくお宮参りをイメージして自分でイラストを描いたウチワを配ると、それだけでみなさん大喜びです。

そして下の写真は、結婚式の前撮りを和装でロケーション撮影する時に持って行く荷物の一部です。最高気温37度の中で何時間も和装衣装を着て歩き回っての撮影はお客さんにとってはとても過酷です。もちろん熱中症対策の意味もありますが、そこまでに至るもっと手前で気を使ってあげないと、とても暑さの中では楽しく過ごすことはできません。

写真には写っていませんが、これ以外にも新婦さんが口紅を気にせずに飲めるように用意してるストロー、濡れたタオルを凍らしてビニール袋に入れたもの、ウエットティッシュ、ハンカチ、大き目のタオルや日傘などなど、カメラやレンズよりもはるかに多くの荷物を持ち歩きながら撮影しています。

そんな事をずっとしてきたのですが、大抵のお客さんは、まさかカメラマンさんやヘアメイクスタッフさんが、こんな事にまで気を使って、色々と準備してくれてるんや!とメッチャ驚かれます。そして、それは嬉しい気持ちにつながるんだと思うんです。

それは400円でコーヒーを頼んだら、注文もしていないのにケーキとクッキーまで出てきた。で、確認したら400円のコーヒーにはサービスでケーキとクッキーが付いていますと言われたら、すごく得したハッピーな気分になるのと同じだと思うんです。

でも、メニューにコーヒー400円、ケーキとクッキー付きと書いてあったとしたら、同じようにケーキとクッキーが出てきても感じ方はまったく違うはずです。ケーキとクッキーは出てきて当たり前だとの情報が頭の中に入ってるので、サプライズもハッピーな気分も得した感も無いと思います。

夏のお宮参りでよくこんな事があります。撮影を始めて15分か20分ほどしたら赤ちゃんが泣いてとても機嫌が悪いです。なので、ママにおむつ替えや授乳の事を尋ねるのでですがオムツは確認したら大丈夫。授乳も30分前に飲んだ所なので、まだまだ大丈夫なはずですと。

初めての赤ちゃん、1人目の子供さんでのお宮参りの時、よく何時に授乳したから次の何時までは大丈夫です!なんて事を言われるママが多いです。でも、それはその時の状況によってかなり違います。

ミルクは赤ちゃんにとっては食事でもあるのですが、それと同時に水分補給でもあります。今年の夏のような猛暑だと。じっとしてるだけなのに大人でも30分もしたら喉が渇いてきます。それは赤ちゃんも同じです。おなかが空いてなくても喉が渇いて泣いている事に気付かない事もあります。

今までクーラーが効いている快適な部屋で過ごしてた赤ちゃんが、35度をこすような暑さの中、長時間屋外にいるのは初めての経験ってケースが多いです。そういった気づきにくい事もちゃんと伝えることがカメラマンの仕事だと思うんです。

写真の仕事はサービス業じゃない、それは違う、プロカメラマンは作家でありクリエーターであり、アーティストであるべきなんて意見の方が多いのは知っていますが、その人たちはその人たち、それを求めてる人がそういった人に仕事を依頼するんだと思います。

でも、自分は自分、こういった事を喜んでくれる人たちが私に仕事を依頼してくれるんだと思っています。

プロのカメラマンは金額に見合った良い写真を撮るのが仕事ですが、それは当たり前のことで、その当たり前の仕事以外に何ができるのか。これからも常に考えながら写真を撮っていきたいなと思っているんです。それがプロのモデルを相手にするのではなく、自分と同じ生活者、一般の人を相手に写真を撮る時の喜びでもあるのですから。

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