月下独吟

満月の錦繡(きんしゅう)を面の前に並んで
そのまま暗い穴倉の中で灯もせず
天井から流れ込む月明かりが頼りで
臥位に付く
前程を塞がるのはあの丸い月だけであり
しかし我が只臥しているだけのならず者
その完全の月の前に動こうもない、怠け者
ああ、今夜は月だけが円満している
何という自分への嘲笑い、待つことしかできない
その錦の幕を潜れれば、どの様な星の森羅が待ってるだろう?
月明かりは道標の灯、ふらりと舞う絹の袖、
塵土も捲かずに
揺るがす芯(こころ)の持たない火串
否定的、否定的、ああ、月と言う寒い所があるでしょうか?
うたた寝に贅沢な白河、ああ、穴を照らす星の風霜
その移り変わる影も風の故に
石の中では風は感じないはずなのに?
満月の錦繡(きんしゅう)を面の前に並んで
心を満月の象に帰依しよう、
淡い生糸上の霧中霧(むちゅうむ)、霞(かすみ)の曼荼羅
雨降る穴の中でそのまま
でも時は淵の閉ざす事を許せず、
汝土の中のままは洪水は止まないと知れ
一輪の満月を蝕んで、虫が蛾に化して
灯りを取って昏い空に消えた、自分の生糸の中で生じて飛ぶ幻の蚕
そして自分が指を近付き
その丸い完成されたはずの美、その丸い満月に触れば
そのにいるのは割った錦繡・にしきぬえ、嗚呼月へ飛んだ虫よ
その絹の幕を食いつくしてまで
彼女は月すら通過してもっと遥かの国へ、
永久だけを残して、嗚呼、この刻まれた兆しの一つを残して
そして我が空に見る時に、やはりそうだ
時の終わりが来て、そして予言された様に(彼女のために)
この三千世界の虚空を満たす全ての夜の月が
虫に喰らひ、その酔ひもせしうつつ夢も、
全ての車輪の廻る夜にその空には
月が割った
そしてその月明かりがこの穴倉を満たして
幕を潜り抜けて、
我が月の空にした蛾の後につく


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