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夏、渦巻く、ドス黒く。
もうすっかり春が終わり、夏が「お~い」とこちらに手を振って走ってくる。
あいつは底抜けに明るいためひと際目立つ。
しかしこちらとしては全くお呼びでない。
しかも年々来る時間が早くなっている気がする。
「まだ5月だよ!?」と、「まだ1時間前だよ!?」くらいのノリで。
遂に来てしまったかと、こちらも渋々手を振り返そうとしたとき、目の前がどんより暗くなった。
梅雨がカタツムリ並みのスピードで横切っていた。通った跡が濡れていた。
梅雨が視界から外れたのとほぼ同時に夏がこちらに到着した。
夏の頭上には虹がかかっていた。
感動も束の間、じりじりとした暑さが私を襲っていた。
汗を拭い、もう一度頭上に目を向けると、虹はもうすっかり消え失せていた。
ただ暑いだけの時間が始まってしまった。
私がどれだけ嫌な顔を向けようと、こいつは何の気なしに私を照らし続ける。
悪気はないのは分かっているが、それでも腹は立つ。
寧ろ、夏は自分の個性を出しているだけだ。なのに私は嫌な顔を向けてしまっている。
嫌な奴はどっちだという話だ。
自分がされて嫌なことは他人にもしないことをモットーにしているというのに。
暑さで溢れ出している汗に、冷や汗が混ざるのを感じた。
今、目の前にニコニコで立っている夏は、本当は何を考えているのだろう。
その笑顔の裏側で、深く傷ついているのだろうか。
その感情が、ゲリラ豪雨や台風となり、我々に訴えかけていたのだろうか。
その訴えにすら、私は眉をひそめ、何なら台風の日には学校が休みになるかもと喜んでいた。
どんどん露わになる思考や言動に、ドス黒い感情が渦巻いてきた。
もう、夏の表情が貼り付けの笑顔のように感じられる。
私は秋が来るまで、どういう顔で夏と向き合えばいいのだろうか。
ここまで夏に酷いことをしたのに、早く過ぎ去って欲しいと願う私は……
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