【ニュース】新型コロナウイルス海外での影響(4)~感染拡大に対する消費者の懸念が世界各国のサプライチェーンに与える影響~
新型コロナウイルスにまつわる状況は日々刻々と変化していますが、世界各国の経済状況に大きな影響を与えているのは言うまでもありません。
感染拡大の影響を受けている国では「買い占め」と呼ばれる状況が発生しており、サプライチェーンへの負担も大きくなっています。今回の記事では、こうした状況についても明らかにしていきます。
新型コロナウイルスが世界的なパンデミックを引き起こすのではないかとの懸念が高まっており、世界各国の消費者がさまざまな商品を備蓄し始めています。対象は、缶詰、小麦粉、砂糖、ボトル入り飲料水といった基本的なアイテムに留まらず、米国ではサプリメント、フルーツスナック、応急処置キットなどの販売も増加しています。
ニールセンの最新の調査では、特に、中国、米国、イタリアで非常用の備蓄が急増しており、消費者が必需品を蓄え始めていることが見て取れます。
人気商品を扱うメーカーのサプライチェーンは即座に影響を受けるでしょう。一部の市場ではハンドサニタイザーと医療用マスクが在庫切れを起こしており、供給がいつ安定するのか明確にされていません。マレーシアでは、ハンドサニタイザーの販売が2020年1月26日終了週に約100万リンギット(237,176米ドル:調査店合計)に達しました。これは週平均を800%以上上回っています。また、米国では、保健福祉省(HHS)のアレックス・アザール長官が議員に対し「米国では最大3億枚のマスクが必要となる」と発言しましたが、これは現在の供給量を2億7千万枚上回る数です。サンフランシスコのドラッグストアを対象としたニールセンの調査によると、医療用マスクの年初以来の売り上げは、2020年2月22日終了週の時点で既に2019年全体の売り上げを上回っており、高まり続ける需要がサプライチェーンに大きな負担を掛けていることが分かります。
2月26日のトランプ大統領による記者会見では、HHSおよび米国疾病管理予防センター(CDC)が、米国における新型コロナウイルスの感染拡大は現実的になったとの見方を示しました。また、大統領が新型コロナウイルスの影響を受けた国からの旅行者の入国に対し強固な対策を検討している点にも注目が集まりました。その後の2月28日、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの世界的なリスクレベルを「非常に高い」に引き上げています。
WHOが1,120件以上の症例を発表したイタリアでのニールセンの 消費者調査 によると、ウイルスの広範囲にわたる流行を懸念する消費者は実は17%に留まっていることが明らかになっています。しかし、94%が少なくとも1日に1回ニュースをチェックしているとしており、イタリアの消費者が状況を注視していない訳ではありませんが、咳やくしゃみの際に手を洗ってウイルスの拡散を防ぐなどの個々人の積極的な取り組みにより、全国レベルでは感染が抑制されるだろうという自身があるということが見て取れます。イタリアではハンドソープの売上は29%増加、体温計の売上も24%増加しています。
ニールセンでは、新型コロナウイルスの感染拡大がeコマースに与える影響もモニターしています。米国でのオンラインショッピングの変化を測定するのは時期尚早と言えますが、ウイルスが咳やくしゃみを介して拡散するとも言われているため、消費者が人混みを避けるようになり、結果としてオンラインショッピングが増加するだろうと考えられます。
2019年末の時点で、米国のパッケージ食品のオンライン販売は380億ドル超となっており、これは週平均7億3200万ドルに相当します。消費者の間には懸念が広がっており、この数字は今後数週間で伸びることが見込まれます。eコマース関連では、消費者の購買行動以外にも注目すべき点があり、例えば中国では、中小規模の小売企業がeコマースを利用して在庫管理をしていますが、これは17年前のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行時にはなかった選択肢です。
ニールセン中国 コンシューマーパッケ―ジグッズ 担当副社長のRyan Zhouは「購買行動はSARS流行時と大きく異なっており、また政府が早めに状況の統制を開始したこともあって、中国の小売市場が影響を受ける期間は短いと考えています。仕入れの方法も以前とは大きく異なり、オンラインサプライヤーは店舗所有者に対する発注用モバイルアプリの提供などを驚くべきスピードで実施しました。サプライヤーはSARSの感染拡大時にはなかった手法で対応を進めており、こうした施策がサプライチェーンの維持に大きく役立っています」とコメントしています。
情勢は引き続き流動的であり、小売企業は人気商品を十分に棚に陳列しながら、製品ポートフォリオにおける長期的な不均衡を是正するための緊急対応計画を立てバランスを取っています。消費者は、物流の過程でウイルスにされされた可能性のある果物や野菜などの生鮮食品を避けるようになるかもしれません。また、ウイルスの影響を受けた国で製造された商品や該当国の流通システムを通過する商品の売れ行きに陰りが出ることも予測されます。
ニールセンでは以下の5つの観点から市場動向をモニターしています。
1)影響拡大の状況
3月初めの時点で、世界各国で88,900件以上の 新型コロナウイルスの感染症例 が確認されており、内80,000以上が中国での症例となっています。ウイルスは少なくとも65カ国に広がっており、韓国、イタリア、イラン、日本が特に影響を受けています。 日用品メーカーと小売企業への影響は継続的であり、ニールセンでは今後も定期的に情報を更新します。
2)衛生・健康関連商品の動向
新型コロナウイルスはインフルエンザのようにまん延するだろうとも言われており、健康・衛生関連商品の需要が急速に高まっています。台湾、中国、日本の店舗では、消毒液、ハンドサニタイザー、トイレットペーパー、除菌シートが欠品、またベトナムでは、調査対象となった消費者の47%が新型コロナウイルスの影響で食習慣が変化したと答えています。
米国でも同様の傾向が見られるようになっています。2020年2月22日終了の4週間で、医療用マスクの売上は大幅に増加しました(ドル成長319%・ユニット成長378%)。ハンドサニタイザーの売り上げは同じ4週間で73%増加していますが、他国での傾向を見る限り今後しばらくの間はピークに達しないと予測されます。
米国では、西海岸が医療用マスクの販売増加をリードしており、都市部のドラッグストアにおける年初以来の売上は2019年同時期と比較して、ロサンゼルスで340%増、サンフランシスコで541%増となっています。米国全域で見ると、年初以来239%の増加となっています。
3)食品の家庭内在庫の増加
米国の消費者は生活必需品の購入を急ぐようになるでしょう。ベトナムでは、調査対象となった消費者の45%が自宅でのストックを増やしており、25%がオンラインで商品を購入していると答えています。台湾では、インスタントラーメンの店頭在庫が減っています。米国でも今後、同様の傾向となる可能性があると言えます。
4)賞味期間の長い食品の動向
賞味期間の長いアイテムの購入を検討する消費者が増えるため、冷凍食品の販売も増加すると見られます。2020年1月、米国の農産物の売上は週平均11.8億ドルに達しています。農産物の売上は今後数週間で一定のリスクにさらされると考えられますが、冷凍食品など貯蔵安定性の高い食品が減少分を補うと見られます。2020年2月22日終了週では冷凍フルーツの売上が既に7%増加しています。
5)代替もしくは類似カテゴリーの売上
消毒液、ビタミン剤、医療用マスクといった商品の販売が増加しており、メーカーと小売企業もこうしたアイテムの動向を注視しているでしょう。パッケージ商品では、新型コロナウイルスに関する懸念から代替可能や類似のカテゴリーも含めて売上が増加してゆくと見られます。
米国ではエアロゾル消毒剤の売上は19%増加しましたが、同時に、2020年2月22日終了週でエアクリーナーと空気清浄機の売上も約3%増加しています。手洗いと除菌を重ねると肌に悪影響を与えるとの懸念から、類似カテゴリーの売上も伸びているのです。
今後数週間で売り上げが急増するだろう「隠れカテゴリー」もあります。 人口統計と連動した「Nielsen Spectra」を利用すると、ハンドサニタイザーとハンドクリーナーを購入した消費者が他のカテゴリーでどんなアイテムを購入する可能性があるかを割り出すことができます。予測される商品としては、使い捨ておむつ、ベビーフード、ベビー用品が挙げられます。以下は、ハンドサニタイザーとハンドクリーナーを購入した消費者の代替・類似カテゴリー上位リストになります。
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