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逮捕

俺は捕まった。あるものたちが、俺を捕らえたんだ。俺は逃げたが、結局捕まった。逃げた時点で捕まることになっていたんだろうよ。でもさ、追いかけられると逃げちゃうよな。捕まった理由はだからわからない。追いかけられて、逃げた、それで捕まったんだ。

また牢屋での日々が始まるんさ。
はっきり言って、牢屋での生活は楽ちんさ。飯を出されて、食って、寝る。日課は決められたものをやるだけさ。別にやったからと言って、何かあるわけでもない。ただの時間潰しさ。あとは、それをやる以外には、本でも読んでるかな。

ところがこの間ふと手にした本をみていたら、とんでもないことが書いてあった。聞いてびっくりするなよ。俺の物語だったんだ。ぶったまげるよな。どうして、ここに俺のことが書いてあるんだ、と思わず後ろを振り返った。けど、当たり前だけど、何にもなかったぜ。いつもみたいに、牢屋の図書室の、左に傾いた書棚があるだけだった。借りていたクックパッド料理ブックを返して、とりあえず、その本を借りて部屋に持ち帰った。

牢屋の中は、結構いい。完全に一人になれる空間だから。そこで、さっき借りてきた本を開いて読み始めたんだ。いつもより引き込まれたぜ。だって俺の話なんだから。

気付いたら、いつの間にか、自分が追いかけられていた場面にいた。俺は考えた。これは本の中だぞ。この先をめくって行ったら、書いてあるだろうけど、俺は答えを知っている。追いかけられて捕まったんだって。さあ捕まるのだろうよ。

まさに逃げようと、足を踏み出そうとした時、真っ黒な猫が一匹あくびをしながら俺の前を横切ったんだ。踏み出しかけた足を引っ込めて、黒猫が通り過ぎるのを待っていて、考えを変えたんだ。黒猫について行こうと。

黒猫は、メイン通りを横切る路地を優雅に歩いて行った。俺もその後をゆっくり歩いて行ったんだ。すると追いかけていた連中は、俺を見失ったようで、少しあたりを見回していたが、結局そのまま何処かへ行ってしまったんだ。

俺は、黒猫とともに歩き始めた。そのまま牢屋に戻ることなかったよ。

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