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夜の公園

3歩先の君が、縁石の上をバランスを取って歩きながら訊く。

夜の公園でコーヒーを飲むって集まりだったのに、君はそれを無視して350mlのスト缶を2本開けた上に、ハイボールを持って現れた。

「恐竜はさ、人間が地上に生まれるずっと前に隕石で絶滅してしまったのにどうして今でもその存在は概念として残っていると思う?」

「人が化石を発掘して、記録して、憶えているからだろ」

「そう。じゃあ人の存在がなかったら、恐竜が存在したことも誰もわからないよね?人ってすごくない?」

「でも、恐竜の化石を発見したのもその存在を証明できるのも、君じゃないでしょ」
「今この瞬間に恐竜のことを研究してる学者や詳しい人の助けなしに、ずっと前に存在してたらしいこの生物が概念としてじゃなく本当に存在したってこと証明できる?ペガサスとは違うってことを」
つい意地悪な言い方をしてしまう。

「まあね、でも人類みな兄弟でしょ?」とずいぶんと極端な反論が返ってくる。

「汝、隣人を愛せよ」

「そ」


「汝が恐竜を愛するようにね」


わけもなく神妙な空気が流れる。

気づくと、公園の端まで歩いて来ていたようで、公園の中を貫いて流れる石神井川のせせらぎが聞こえる。

君の髪が僕の肌にさらさらと触れていたあの日曜の朝の感触を思い出す。

日付けをとうに超えた平日の夜の公園には鈴虫と僕らを除いて存在感を放つものはなにも存在しない。


「あたし家に帰って熱くしぼり上げたお風呂にはいりたいなぁ」

「じゃあ僕はその横でペガサスの存在を証明することにするよ」

「それはいいねえ」
君は、
「それからケーキを半分っこだけ食べてあったかい布団で眠りませう」と続ける。

「それで君は朝目覚めて、何事もなかったかのようにまた保険を売るんだね」

「そ」

「それもまた一興」

すっかりと暗い色の馴染んだショートカットを揺らして君が笑う、3歩先。



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