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昭和のゆめ

 保育園の頃、月毎に誕生会があってその月のバースデーボーイバースデーガールたちがみんなの前に出て将来の夢を発表するイベントがあった。お花が好きだからお花屋さん、ケーキ屋さん、お母さんが看護師だから私も看護師、、など職業を言うものだと思っていたおれは、なかによく混ざってくる、ゾウさん! ひまわり! なんていう夢にビックリしたものだ。

 そんなおれの夢は学校の先生。みんなよりちょっとできる感じがカッコよくて、先生、というだけで他のお母さんより自信に満ち溢れていてオシャレで洗練されていると思った。はっきり物を言い、みんなの前に立つ姿がステキ! と思った。誕生会で夢を発表するおれは、さぞ誇らしげだったと思う。
 そして「学校の先生になる!」って言うとお父さんもお母さんも喜ぶのが良かった。よく大人が集まる場所で「ニコは学校の先生になるんだよな」と嬉しそうに話していたっけな。

 叶えなくてごめん。

 ニコは地元の小学校の先生になって、お父さんとお母さんの隣に家を建てて、赤ちゃん産まれたらお母さんに全部面倒見てもらって働くんだー。
 この夢は長く見ていた。その時は想像できなかったけど走るの速くて昭和の俳優みたいな男前なお父さんも退職しておじいちゃんになって、白髪を気にして夜な夜な抜いたり美顔器でキレイキレイしたりしたままお母さんもおばあちゃんになって。おれは近くに住んでて二人にとっての孫もそばにいて、夢を語る子の姿で酒を飲んでいたお父さんには、おれの全部を見て全部を受け止め続けたお母さんには、これ叶っていたら最高だったのでは。

 勉強頑張って、推薦で大学入って、教職課程も取った。もちろん教育実習で地元の中学にも行った。二人も一緒に夢を見てしまっていたかも。でもその最終日、お父さんが死んだ。

 叶わなかったのはそのせいではない。他の夢を見たから。でもなんかごめん。


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