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「ネガイ カナエタマエ。」/ショートストーリー

「どうでしょう。私の願いは叶いますか?」

わたしはさっきからタロットカードを眺めている。
だが。
どうにもリーディングが出来ない。
何故なんだろう。
こんなことは初めてのこと。

実は異能の力を持っているわたしはタロットカードを使う必要がない。
だが、それではクライアントさんの方が信用しない。
何故なんだろう。
いつも不思議に感じるが仕方ない。
カードは一応リーディングするものの、それ以上のことをわたしは感じ取ることが出来る。

が。
今日は。
それがまるで出来ない。
普通にはカードをリーデング出来ても意味をなさない結果になってしまう。
こんなことは経験したことがない。

その時、不意に心の中がざわつきだした。
わたし、彼女の願い事を聞いたかしら?
そうだ。
聞いていない。
そんな大事なことを聞かずにカードをシャッフルするなんて、ありえない。

途端に、身体から冷や汗が噴き出した。
周囲から何も聞こえない。
ここは占い館なのだから、ほかにも占いブースがあって。
今日だって、どこもクライアントさんたちで賑やかだった。
それがまるでわたしたちふたりしかいないような静けさだ。
何かがおかしい。
私は慌てて立とうとした。
ところが、立てない。
立てないどころか身体が硬直している。

「ねえ。私の願いは叶いますか?」
先ほどまで幼い顔つきだった彼女の顔がひどく大人びて見える。
いや、老婆としか見えない。
声だって、まるで地の底から聞こえるようにひどく聞きずらい上、命を削り取られている感覚がする。

私は最後の力を振り絞って、聖水と清め塩を出した。
「ああ。残念。あなたの異能の力、必要だったのに。」
わたしの体の硬直はあっという間にとれた。
目の前にいたはずの少女はいなくて、周囲の賑やかさが戻っていた。
今日はもう帰宅しよう。
そして、念入りに浄化しなければ。

それにしても。

あれはなんだったの?
あれの願いは?



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