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Thank you for playing

I’m waiting here
I’m waiting here
I’m waiting here
I’m waiting here

David Lynch & Lykke Li "I'm Waiting Here"

目を覚ますと土曜の午後だ。
つけっぱなしのPCは一晩中ランダムに曲を流していて、目覚めのたびに知らない誰かの作った知らない曲を耳にする。
14時。月曜の朝まで40時間。無意識に計算する。
寝る前に浸水させておいた米を炊き、作り置きのスープを温める。肉を切って火を入れる。

PCに向かい、SNSを眺める。寝ている間にも、この世界は更新され続けている。
「本日リリースのゲーム5選」
「本年最高傑作ゲームを遊ぶべき10の理由」
「特別なあなたのための特別なインディーゲーム」
一通り既読にしてウィンドウを閉じる。フライパンの火を弱める頃合いだ。

もうしばらく強火で炙りながら考える。
一日かけても遊び終えられないだけのゲームが、一週間ごとに生み出される。一生をかけても遊びきれないだけのゲームが、一日で生み出される。
独創的なゲームがいくらでも量産される。それは嘘だ。自分一人が働いている間、数万人の人々が働いた労力の膨大さが、そう見せているに過ぎない。ましてや、自分が寝ている間も、数万人の人々が働いているのだ。
産業は発展し、技術は進歩する。自動生成された荒野を好きなだけ歩き、自動生成された文章を好きなだけ読める。自分がプレイすべきゲームの紹介を自動生成することもできる。

あなた
「ゲームをプレイすることに疲れた人へおすすめのゲーム」という記事で紹介するにふさわしいゲームを10本選んでください。

ChatGPT
「ゲームをプレイすることに疲れた人へおすすめのゲーム」というテーマに合わせて、リラックスできる要素や独特の体験を提供するゲームを選ぶことが重要です。以下は、そんな人々に向けておすすめしたい10本のゲームです。

Stardew Valley - 農業シミュレーションゲームで、穏やかな田舎生活を楽しむことができます。
Animal Crossing: New Horizons - 日々の生活を模倣したゲームで、自分のペースで島をカスタマイズできます。
Journey - 美しいビジュアルと音楽が特徴のアドベンチャーゲームで、平和で瞑想的な体験を提供します。
Abzû - 水中を探索するリラックスできるゲームで、海の生物や環境との交流を楽しむことができます。
Firewatch - 自然の中での孤独と対話を中心にした物語主導のゲームです。
The Witness - 美しい島を探索しながらパズルを解くゲームで、直感的な学習と発見の喜びを提供します。
Monument Valley - 魅力的なビジュアルとシンプルなパズルが特徴のモバイルゲームです。
Ori and the Blind Forest - 美しいアートワークと音楽が特徴のプラットフォームゲームで、心温まる物語を楽しむことができます。
Fez - ユニークな視点変更メカニックを持つパズルプラットフォーマーです。
Flower - 花の精を操りながら風景を変えていく独特のゲーム体験を提供します。
これらのゲームはストレスを感じることなく、ゲームの世界に没頭することができるため、「ゲームに疲れた」人々に特におすすめです。

あなた
ありがとうございます。

ChatGPT
どういたしまして!もし他に何か質問があれば、お気軽にどうぞ。ゲームに関することでも、他のトピックでもお手伝いできることがあれば喜んで対応いたします。

弱火にして肉に蓋をする。冷蔵庫を開け、炭酸水とグレナデンシロップを混ぜてレモンを垂らす。いつもより炭酸を強めにして。

PCにもどってブラウザを閉じ、ゲームウィンドウをアクティブにする。オートセーブ付きだが、別に閉じる理由もない。眠っている間も世界は動き、ゲームも止まらない。

ポイント&クリック。キャラクターを操作し周囲を調べる。
ポイント&クリック。アイコン表示、選択肢、ハイライト。
ポイント&クリック。なんて原始的なビデオゲームの喜び。

このゲームをプレイするのは、これで三周目になる。膨大な選択肢が用意されていて、何度プレイしても面白い。
しかし、選択肢によって大きな分岐があるわけではない。ほとんどないと言ってもいい。火曜日と水曜日の違い程度だ。
だからこそ、プレイするたびに気ままに選べる。
いま選んだ選択肢が、過去に選んだものと同じかどうかさえわからない。既視感と未視感の境界を奇妙に浮遊できる。見慣れた町を、いつもと違う時間に歩くときのような感覚。
選ばされるのではなく、選ぶ選択肢。
読まされるのではなく、読む文章。
任意の語句を選んで詩さえ作れる。
きっと、これが今の気分なんだろう。

私たちはみな町を去り、この町を幽霊と呼ぶだろう
かつてどんな幽霊が町を息づかせ、家となしただろう
そしていま、その息吹は消え去った 私たちがここに埋めたのだ!
残されるのは幽霊ではなく、ただの骨だ

隣人は我らが最良の者 いついかなる時も
我らから離れた良き半身 そこに見えるは栄光なる光
今は地下の暗闇で光る 友よ、愛を込めて

私たちは取り残された。けれど独りきりではない
その代わり、あなたの悲しみを分かち合いたい
町と友が眠るこの場所に
愛すべき愚か者たちが新たな家を築くだろう

今週は生き延びるだけで精一杯だった。明日になれば楽になる。そう祈る日々だった。
今週も生き延びるだけで精一杯だっだ。明日になれば楽になる。昨日も、そう思った。
きっと、明日もそう思う。

米の炊ける音がする。火を消して食事の支度を整える。
肉を切り口に運びつつ、目の前のゲームを追っていく。

舞台はアメリカ中東部、名前しか知らなかった町。
いまはもう違う。
そこでは人々が馬を育ててともに暮らした。
そこでは人々がウィスキーを蒸留し飲んだ。
そこでは人々が世界最大の洞窟を探検した。
昔見た一枚の絵を思い出す。

Andrew Wyeth "Open House"

およそ一日だけの冒険。それも夜や闇を過ごす時間が大半。
だからこそ、風光明媚な土地の陰影を強く描き出している。
遠いカメラによるカット割りは、どこを切り取っても構図が決まっている。美しい風景は、時に幻想的な光景を見せる。

René Magritte "L'Oiseau de Ciel"

マジックリアリズム。シュルレアリスムに端を発する、ラテンアメリカ文学の掲げた理想であり広告。現実と幻想をかき混ぜ、時として寓話的に、時として歴史的に描き出す、文学的実験。20世紀の終わりにあった、そんな時代を思い出す。
昔読んだ本を思い出す。それはこんな風に始まる。

長い歳月が過ぎて銃殺隊の前に立つはめになった時、恐らくアウレリャーノ・ブエンディア大佐は、父親に連れられて初めて氷という物を見に行った、遠い日の午後の事を思い出したに違いない。

ガブリエル・ガルシア=マルケス『百年の孤独』

やがて暗号と偶然の下僕と成り果てたシュルレアリスムが、もともとは人間の意識を表現するための絵筆だったように、マジックリアリズムは現実の世界を描く技法だったと思う。
広く読まれ得るだけの分量の小説という小瓶に、現実の世界という大海をどうにか注ぐために、非現実的な描写や挿話を作家たちは積み重ねた。それは意味を圧縮するという点で象徴主義だった。それは空間だけでなく、時間をも圧縮した。

やがて敗れるマジックリアリズムの夢を、このゲームは真摯に追い続けている。神秘的な現象は多々起こる。しかしそれは、あくまでこの土着的な物語を結晶化させる手法に他ならない。簡潔明瞭な物語はどこにも用意されていない。あるのは、おびただしいまでの膨大な細部のみだ。だからこそ描けるリアリズムがあり、その名をマジックリアリズムと呼ぶ。

だからこそ、日々を生きる燃料になる。
だからこそ、夜な夜なプレイし続ける。
現実の世界とは、細部の積み重ねに他ならないのだから。
ここに描かれているのは、自分の現実でもあるのだから。

好きな作家が死んだ日も、ドアを開けなければならない。
親しい知人が死んだ日も、喉は渇き、腹の音は鳴り響く。
体が動く時は、いつだって自分の都合でいっぱいだ。
現実を生きる人間とはそういうもので、だから救いがいる。
こめかみを指でこじ開けて、意識を飛ばしてくれるものが。

天にまします我らの父よ。
願わくは御名をあがめさせたまえ。
御国を来たらせたまえ。
みこころの天になるごとく、地にもなさせたまえ。
我らの日用の糧を今日も与えたまえ。

『新約聖書』「マタイによる福音書」6章 9-11節 "主の祈り"

このゲームには山程の引用と参照が出てくる。文学、美術、映像、エトセトラエトセトラ。同じぐらい、独自の表現も出てくる。それは巨人の肩の上に立っているという歴史への敬意と、それを表明するだけの自負を感じさせる。

実際、作中では古典的なゲームの一作を再現したシーケンスが存在し、実際に遊べる。そして、そのゲーム内容と本作とに繋がりを持たせてすらいる。それは現在という名の、過去と未来との界面に生まれる泡を思い起こさせる。

食事が終わる。皿を洗い風呂を掃除し、シャワーを浴びる。
時計を見ると、月曜の朝まで36時間。
また仕事が始まる。帰宅して、一日を終える支度を整え、仕事を始める時刻までの時間を計算し、寸前までゲームをする日々が始まる。
果てしない仕事という細部によって築き上げられた、この現実の世界を生き延びる日々が。
自分の仕事も、誰かの日用の糧になっていると祈る日々が。

ゲームは最終盤に差し掛かっている。場面ごとに変わる視点人物たちが一堂に会し、亡霊とともに馬たちへ歌を捧げる。

https://ashi-yuri.hatenablog.com/entry/2023/07/24/005551

そしてゲームが終わる。
薬を飲んで眠りに備える。
やがてくる、今日のために。

馬たちへ捧げられた歌を繰り返し再生しながら床につく。

光を消し目を閉じ意識を失うまでの束の間、祈りを捧げる。
このゲームを作り、運んできてくれたすべての人々へ。
Thank you for playing。遊んでくれてありがとう。

時間がもし永遠なるものの似姿であるとすれば、未来はこれから先へと向かう魂の運動ということになるでしょう。もしそうなら、これから先はこれから先で永遠なるものへの回帰になるにちがいありません。つまり、われわれの生とは絶え間ない死の苦悶だということです。聖パウロは《私は毎日死んでいる》と言っていますが、この言葉はけっして悲愴なものではありません。実は、われわれは日毎に死に、日毎に生まれているのです。われわれは絶え間なく生まれ、かつ死んでいるのです。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス

『語るボルヘス 書物・不死性・時間ほか』「時間」

ゲームとことば Advent Calendar 2023 9日目
「ゲームに疲れた人にオススメしたいゲーム」


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