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【纏め読み】セレモニーは終われない!〜怪人シンク、三度現る〜

【纏め読み】

セレモニーは終われない!
〜怪人シンク、三度現る〜

【ザ・ベスト・イーヴィル版】







 告別式は土砂降りの雨の日だった。

 最初、受付をしていた男はその弔問客が怪我をしているか、体調を崩しているのだと思った。弔問客としてやって来たその青年は背中を丸め、腹を庇うようにして記帳し香典を渡した。
 青年は何処にでもいるような平凡な青年だった。中肉中背で、黒い髪を清潔な長さで整えていて、安っぽい喪服を着ている。平時であれば印象になど残らないはずの風貌だった。何故受付が彼を記憶していたのかと言えば、へらへらと笑っているので「変な人だな」と思ったからだ。だから印象に残った。
 弔問客の青年は少し埋まっている親族席のほうへふらふらと歩いていった。それで受付は「ああ彼は親族なのか」と思い、記帳された名前を見て首を傾げた。枠の中で黒い線がのたくっている。凄まじい悪筆というものではない。最初から名前を書くつもりが無かったのだ、あの弔問客は。
 青年は着席後もへらへらと笑っていた。開始時間になり、火葬場が併設されたあまり広くない斎場の扉が閉まる。葬儀屋が進行を始める。僧侶が入場する。読経が始まり、焼香が始まる。喪主、近親者と順番が巡る。そして青年の番になる。
 青年はへらへら笑いながら祭壇へと近付く。この日、送られる故人は大学を出たばかりの新社会人だった。遺影は履歴書用の写真。ポニーテールを束ねてリクルートスーツに身を包んだ、少女の面影が残る遺影。喪主である父母は憔悴しきっていた。故人の家族は初老の父親と母親、そして吊るしのダークスーツを着た弟。茶髪でピアスも開けている故人の弟は大学生らしかった。
 笑う青年は遺影を仰ぎ見て、そして焼香はせずに、遺族のほうへと近寄った。
「はぁ、どうもこの度は酷い有様で」
 それから懐から拳銃を取り出した。銃に馴染みの無いこの国では、まず銃を向けられても「逃げる」ということが思い付かない。喪主とその家族は全員その場で射殺された。弔問者達が逃げ出したのはその後だった。

 第一報を受けて斎場へと向かった機動隊は祭壇に凭れて床に座り込んだ青年に銃を向けた。銃を向けられても相変わらずへらへらしている青年はゆっくりと着ているシャツのボタンを外した。機動隊に緊張が走る。服の下、皮膚の上に手榴弾が並んでいた。そして手榴弾とはまた違う、砲弾に似たものが一つ。それら全てのピンは一本の糸で繋がれている。決して余裕があるとは言えないその糸を、青年は左手の親指に括っていた。右手にはまだ銃が握られていた。
「やあ、どうもご苦労様で」
 彼に最も近い浦辺警部補は青年に名前を訊ねた。警部補にはこの青年が籠城犯になる予感があった。
「お前は誰だ? 何が目的だ?」
 青年はへらへらと笑うことを止めない。
「自分で考えなきゃ。それが大事なことなんだよ」
 浦辺はその言葉の意味が理解できない。考える、考えるとは一体何だ。この犯人は何かを主張するために発砲事件を起こしたのではないのか。浦辺は思考する。無線機からは包囲完了の報告が聞こえてくる。浦辺は青年に忠告する。
「籠城はお勧めしない。二進も三進も行かなくなったら最後はスナイパーがやって来て、君の頭を撃ち抜く」
 浦辺は彼を生きたまま捕まえたかった。犯人は生きたまま捕らえるものだ、という考えもあったし、自分よりひと回りも下に見える青年の話を聞かないまま死なせるのは彼の道理から外れている。何故、こんなことになったのか。理由があるなら聞かなくてはいけない。
 神経を張り詰めさせている浦辺と機動隊員達とは対照的に青年は笑っている。春の日差しの中、近所の公園に花見でもしに来たように、座り込んで自身に向けられた銃口を眩しそうに見上げている。何処までも穏やかな表情だった。
 何もかもが食い違う状況に浦辺は焦る。陣頭指揮が突入を思案し始めている頃だろう。青年をどうにか自首させたい。
 突然青年の胸元から電子音が鳴り響いた時は、彼を除く全員が引き金に指を掛けた。青年は「ああSkypeだ」と気付いて、「スマフォ取りますね」と宣言してから左手を持ち上げた。そっとシャツの胸ポケットからスマートフォンを取り出す。通知を見て青年は驚いていた。浦辺達に「すみません」と断りを入れながら通話に出た。
「もしもし、あっはじめまして、ええそうですそうです。すごい、チャットしかしたことなかったのに、ふふ、びっくりしましたよぉ。ありがとうございます。はい、はい、まあ、そうですね。想定内ではありますけど。まあ良い人はそんなにいないっていうか、ほら、一般の人達ですし、え、ああ、機動隊みたいな人と話しました。結構長めに。はいはい、えっそうします? 良いですけど、ちゃんと最後まで考えてくれるかなって疑問があります。連続化させるしかないんじゃないですか? 終わらせないために。ええ、ええ。提案します。続けましょうよ。折角なんですから。考えてもらいましょう。この刑事さんに」
 浦辺は嫌な予感がしていた。青年は早口で電話の向こうにいる人物と会話していた。会話の内容がどんどん嫌な方向へと進んでいく。青年が浦辺を見つめながら最悪な会話をしている。
 青年がスマートフォンから耳を離す。そして浦辺に訊ねる。
「刑事さん、階級とお名前を教えてくれますか?」
 戸惑いながら浦辺は答えた。
「浦辺警部補、県警機動隊員だ。君は、」
 青年は間髪入れずに電話口の相手に警部補の名前を伝える。
「ウラベさんですって。写真とか入ります? あっ大丈夫ですか。あー広報誌あるんですか。載ってるんですか。不用心ですねぇ、だからこんなことになっちゃうのに。ははは。はい、はい、じゃあお疲れ様でしたー」
 青年は笑って通話を切った。そして浦辺を見る。握っていた拳銃を床に置く。
「なんでこんなことが起きてるのか、分かりそうですか? 答えは出そうですか?」
 青年の問い掛けに浦辺は首を振る。銃を手放した彼に、浦辺は少し安堵していた。
「いや、だから署で聞かせてくれ。君がどうしてこんなことをしたのかを」
 その返答は青年の意に沿うものではなかったらしい。彼は呆れたように溜息を吐いた。
「違う違う。駄目ですよそんなんじゃ。自分で考えることが大切なんです、ウラベさん。ヒントじゃないけど、考え方の取っ掛かりを教えてあげます。一つ目『今日、葬式で送られるはずの故人は何故死んだのか?』、二つ目『今日、何故その喪主と家族は射殺されたのか?』、三つ目『何故、ウラベさんがこの問いに解答しなくてはならないのか?』」
 青年が三つの事項を浦辺に提示する。そのどれもが不可解でしかなかった。青年は詩でも諳んじるように続ける。
「考える。考え抜く。それが大事なこと。思考し続けるということ。それ以外はどうでも良い」
 考えてください、と青年が微笑んだ。
「少なくとも、これからあと二回は類似したことが起こります。どうか頑張って考えて、ウラベさん」
 「例えば」と青年が左手を顔の高さにまで持ち上げる。親指に括られた糸が張り詰める。隊員達に緊張が走る。
「手榴弾と白燐弾の組み合わせはどの程度の効果範囲で、どれぐらい威力があるのか?」
 浦辺は制止を叫んだ。しかし青年が左手を振り抜いて、腹の上の手榴弾全てからピンが抜けるほうが速かった。
 青年は俯せに倒れた。浦辺達はその場から駆け逃げた。逃げ遅れた部下の隊員に体当たりするように、浦辺は部下諸共に廊下へ倒れ、そのまま壁の裏へと逃げた。轟音。人体の何もかもが吹き飛んで粉々になる音。高温。火災が起きている。耳が聞こえなくなる。跳ね返って飛び込んできたのか、浦辺の左の耳殻を数センチほど切り裂いた破片が壁に突き刺さっていた。

 雨が降り頻る告別式で発砲事件が発生した。犯人は自爆、死亡。死者は喪主の家族三名。重軽傷者複数。葬儀は中止となり、県警は被疑者死亡の事件として扱うことにした。
 何故、この事件は発生したのか。青年は何者なのか。浦辺に残されたのは耳殻の縫合痕と解答されない問い、そして「あと二回起こる」という確定事項だけ。
 まだ続くということしか、浦辺には分からない。










 浦辺が子供だった頃。将来の夢に「警察官」を挙げる小学校の同級生は多かった。浦辺も将来の夢は警察官だった。彼の父親は普通の勤め人だし、母親はパートタイマー兼主婦だった。


「自分で考えなきゃ。それが大事なことなんだよ」


 浦辺が警察官になりたいと思ったのは、街の交番にいる巡査がとても格好良く見えたからだった。誠実で真面目で人当たりの良い巡査。住民達からは慕われていた。浦辺は自分の夢を叶えた。
 後年、彼とは警察学校で再会した。巡査は教官になっていた。


「考える。考え抜く。それが大事なこと。思考し続けるということ。それ以外はどうでも良い」


 晴れて警察官になって、交番勤務を経て少年課へ、そして機動隊に入った。浦辺には人並みに正義感がある。倫理観もある。情熱もある。他者への愛情もある。警察官という職務に誇りがあり、やり甲斐を感じていた。意義を感じていた。価値を確信していた。
 目の前で青年が手榴弾のピンを引き抜くまでは。

 浦辺は暗い布団の中で目が覚めた。
 事件以来、浦辺はこの一週間毎日深夜に床の中で目を覚ます。夢に現れるのは子供の頃になりたかった警官の自分と、惨憺たる斎場と、肉の残骸。そして見知らぬ故人の遺影。
 ガーゼに覆われた左耳の傷が痛む。思い返すように、何度でも痛みは振り返す。



 今日は一日晴天になると天気予報では言っていた。浦辺の心中は曇続けている。
「浦辺くん、君には療養を命じます。あの場にいた隊員には全員そうしてもらう。だってあんなことが起きちゃったんだもん」
 軽い負傷で済んだ浦辺は事件の翌日には職場にいた。そしてとうとう壮年の上司に呼ばれて休暇を言い渡された。事務机に両肘を突いて、両の指を組んでいる上司は落ち着いているが苛立ってもいる。再三休むように言ったのに聞き入れない部下に対して、上司はとても怒っていた。
「いや、あの」
「ていうか君、鼓膜損傷してまだ聴力微妙な感じでしょ。治療は勿論だしメンタルも不安だからカウンセリング受けてね」
「いや、ちょっと」
「僕これから会議だから。戻ってきた時に君がまだいたら破茶滅茶に怒るからね。それはもう凄く怒るからね」
 念押しをして上司は行ってしまった。取り残された浦辺は仕方がない、と自席へと戻る。同僚達は今回の事件を慰めつつも、上司と同様に帰宅を促してくる。浦辺は彼等に従うしかなかった。表面上は。
 通勤鞄を肩に掛け、浦辺は部屋を出ていく。そして正面玄関に向かうと見せかけて、鑑識課に足を向けた。途中、会議室の前を通る。「爆破予告事件」と墨書きされた紙が張り出されている。浦辺の証言がこの事件の本質と捉えられ、捜査されている。
 浦辺が巻き込まれた事件は告別式に起きた。十月の初旬。その日は雨が降っていた。送られる故人の名前は「佐藤 優子」、享年二十五歳だった。死因は頸部圧迫による窒息死。延長コードを使い、自室のドアノブで首を吊ったことによる自殺。不審点は無かった。遺書はルーズリーフにボールペンでただ一言、「死にたいので死にます」と書かれていた。遺族は自殺の原因が分からなかった。
 そして告別式当日。奇妙な弔問客が遺族三名を射殺。一時期立て篭もりも考えられたが犯人は手榴弾と白燐弾で自爆。現場にいた機動隊員数名は負傷。爆発によって葬儀場のガラスやドアが吹き飛んだため、周囲を固めていた警官や退避の遅れた一般人も怪我をしたし駐車していた車なども被害を受けた。
 容疑者の身元は事件発生から一週間が経過したにも関わらず明らかになっていない。所持品の携帯電話は爆発の衝撃で粉砕されていたし、凶器の拳銃も同様にバラバラの状態で、復元までに時間がまだ掛かる。「類似したことがあと二回起きる」と自爆犯が言い残したお陰で帳場は混乱している。
 聴取と事件当時の様々な確認が終わっている浦辺は命じられた以外ではこの件に関わることを禁じられた。
 浦辺は鑑識に向かう。恐らく助けとなってくれるであろう友人が同期にいる。

 鑑識課に着いて浦辺は「失礼します」と断りを入れて室内に入る。作業中の人間は各々気が滅入っているというような顔で小さな破片や燃え残りと睨み合っていた。短い休憩を交代で取っているのか、椅子に座ったまま眠っている人間もいる。
 倦怠感に支配される職員達の中に浦辺の同期もいた。同期の彼は部屋の隅に置かれたデスクでパソコンに向かっている。デスクワークや現場で地面に這い蹲っている同期を見る度、浦辺は「窮屈そうだなぁ」という感想が浮かぶ。同期だけ、他の職員より事務机と椅子の間に挟まる体の密度が異様に高い。纏い過ぎた脂肪と筋肉をぎゅうぎゅうに制服に収めている巨漢の男が、彼の同期だった。
 浦辺はてっきり彼が作業しているものだと思ったが、近付いて分かった。パソコンで動画を観ていた。日曜日の朝にやっている魔法少女系アニメだ。浦辺は特にその辺りの偏見はない。ただ仕事場のパソコンで観るのは駄目だと思った。
「おい、おい。間中、間中お前仕事サボってアニメ観るな」
 巨大な大陸のような背中に近付いて、浦辺はそっと囁く。彼の同期、間中はビクッと肩を揺らして振り返る。そして太いフレームの眼鏡に遮られながら、忌々しそうに浦辺を見た。浦辺が先に昇進したお陰で舌打ちまではされなくなったが、昔であれば暴言も吐かれていただろう。
「何か用スか。今考察記事読みながら先週のプリキュア確認してるんでスッゲー忙しいんスけど」
「家帰ってからやれって」
「帰る暇無いス。あれ、浦辺さんは休みじゃないんですか?」
「そうなんだけど・・・・・・頼みたいことあるんだよ」
 間中は怪訝そうな顔をする。警察学校時代も浦辺が何か頼み事をすると彼は今と同じ顔で浦辺を見下ろしてきた。あの手この手で間中を懐柔してきた浦辺だったが、今日は素直に懇願することにした。浦辺は両手を合わせて間中を拝む。
「殺された遺族の家に入りたいんでどうにかしてくれ」
「誠意が感じられないけど、良いッスよ」
 あっさりと間中が浦辺の頼みを了承したのには理由があった。
「爆発の残骸ばっか調べて被害者宅は何も見ないっていうのもマズいんで、誰か一人行こうって話になってたんです。丁度良いから今から行きましょうか」
「ホント助かる、今度何か奢るよ」
「今度ジブリのブルーレイボックス出るんですけど」
「分かった、スタミナ太郎だな」



 浦辺の愛車は中古のスバルで、彼は運転している間、延々と間中の「現行アニメで見出される百合の多様化とアイコン化に関する考察」を聞かされた。間中は普通車の助手席でも窮屈そうだった。
 脳細胞が何千個か死滅した気がする浦辺は目的地の屋根が見えた時、思わず涙を流した。間中は二人きりになると敬語混じりの舎弟喋りが消える。人見知りの彼は集団の中ではあまり口を開かないが一対一だと異常なほど饒舌になる。嫌がらず気の済むまで相手をしてやれたのは、教場にいた同期生の中では浦辺だけだった。
「それで如何にしてまどか神と暁美ほむらの関係性を昇華していくのかというと基本的に神話の形を取ってそこから派生していくのかそれとも劇場版をベースにして進めていくのかになるんだよこの二択に俺は一石を投じようと思い俺は筆を取ったわけだが一部過激派から殺害予告が届いてしまった為に美樹さやかをジャンヌ・ダルクにする論法は大変宜しくないと判明したのだそこでいっそ旧劇ヱヴァのラストを転用して二人を新世紀のイヴとイヴにしてしまうことにしたんだがそこで今度は」
「間中、もう着いたから終わりにしてくれ・・・・・・」
 遺族であり被害者である「佐藤家」は地方都市によくある、疎に空間が空いた住宅群の端に建っていた。背後には雑木林があり、隣家との間にはそこそこの広さを持つ畑があった。
 浦辺が車を停めようと徐行していると、黒いハイエースが路肩に停められていた。恐らく運転手は浦辺達と同じで「佐藤家」に用事があるのだろう。浦辺は先客が出易いように注意しながら車を停めた。
 車から降りた浦辺は 「佐藤家」の前に立つ。長女である自殺者「優子」が生まれたのと同時期か、それ以前に建てられた家なのだろう。目立った劣化はないが、全体的に少し古く感じられる。屋根は赤く、外壁は燻んだクリーム色。銅色の玄関は大きく開け放たれている。
「玄関、開いてるな」
 間中が誰に説明するわけでもなく呟く。浦辺も短く同意を返した。ふと間中は浦辺に訊ねる。
「しかしなんでまた被害者の家に行きたいって、アンタ怪我して休んでるんじゃなかったのか? 署を出る時も聞いたけど」
「えっ、あー・・・・・・手を合わせようと思ってだな、うん」
 自爆犯に投げ掛けられた問いのことについて、浦辺は間中に黙っていた。「何故、佐藤優子は自殺したのか?」「何故、彼女の遺族は射殺されたのか?」「何故、浦辺がこの問いに答えなければならないのか?」という三つの事項は聴取に来た警官達には訝しがられた。何度も知り合いではないのかと詰問されて参ってしまったので、浦辺はあまりこのことを喋りたくなかった。
 間中は何か言いたそうな顔をしていたがそれ以上聞いては来なかった。彼は同期を家の中に入るように促す。恐らく誰かが家の中にいる。警察のくせに間中は人見知りを発揮している。浦辺は呆れて、刈り上げた頭を掻きながら「佐藤家」の敷居を跨いだ。三和土の上には家族の靴がまだ並んでいた。
「すみませーん、どなたかいらっしゃいますかー?」
 玄関から真っ直ぐ廊下が伸びている。電気は点いていない。薄暗闇の中へ、浦辺は声を張り上げる。
 少しして、足音がした。誰かが廊下を歩いてくる。現れたのは背の高い若い男だった。
「はい、何方様でしょうか?」
 黒の短髪、黒いスラックス、白いシャツ。無地の黒いネクタイと靴下。その上、手首に数珠を巻いているとくれば男の正体は明白だった。念のため、浦辺は警察手帳を取り出して見せながら訊ねた。
「県警の浦辺と申します。葬儀社の方ですか?」
 男は無感動そうな目で警察手帳をよく見た後に「はい」と返した。懐から名刺を取り出して浦辺に差し出す。名刺には「国定 青沼」と書かれていた。
「国定葬儀社の国定と申します」
「くにさだ・・・・・・」
「せいしょう、と読みます」
「へぇ、珍しいお名前なんですね」
「寺の生まれでして。一応僧侶の資格もありますので葬儀屋としての資質は十二分にあるかと」
 真顔で変なことを言う葬儀屋に浦辺は「別に貴方のことを疑っているわけでは・・・・・・」と返すのが精一杯だった。
「国定さんはどうしてこの家に? 此処の家の方が、その、全員お亡くなりになったのは」
「存じております。こちらには警察の方から許可を頂いて、佐藤優子様の御祭壇を片付けにお邪魔しました。御遺族の方もお亡くなりになってしまったのに、そのままにはしておけませんから。それで、刑事さんのほうはどのような御用向きでいらしたんですか?」
 浦辺は自身の背後に立つ間中のほうを示して「鑑識が少し家の中を調べます」と答えた。力士のような体格の鑑識員を見た葬儀屋は、飲み込むのに少しの時間を要したものの頷いた。
「少しお待ち頂けますか? まだ御遺影などがありますので」
 すぐに片付けますから、という葬儀屋を浦辺は止めて、祭壇のところへ案内して欲しいと頼んだ。間中は「じゃあ先に二階見てます」と靴を脱いで玄関脇の階段を上がっていった。
 自殺した「佐藤 優子」は実家で暮らしていて、実家で自殺した。

 祭壇は廊下の先、家の北側にある四畳半の和室に設けられていた。浦辺が線香を上げ、手を合わせた祭壇は既に供物や供花が片付けられていた。告別式の時と同じ遺影と蝋燭、線香立てのみの寂しい祭壇。それでも浦辺には告別式の会場よりずっと良く思えた。
「怪我をなさったんですね」
 彼の後ろに正座していた葬儀屋が浦辺の左耳にある、ガーゼで覆われた傷を口にした。浦辺は「ええ、まあ」と返事を濁らしたが男は構わなかった。
「化学熱傷だと、酷く痛むでしょうね」
「え、いや、切っただけで済みましたから」
「そうですか」
 変な人だ、と浦辺は漠然とした感想を葬儀屋に抱いた。何か言おうと思って口を開き掛けた。それは間中が浦辺を呼ぶ声に遮られた。
「すみません、ちょっと失礼します」
「御線香が終わったら御祭壇を片付けて帰らせて頂きますので、お気になさらずどうぞ」
 葬儀屋に頭を下げて浦辺は二階に向かう。階段を上がり、右手側に「優子」の部屋があった。
 中へ入ると、予想していたよりずっと簡素な部屋だった。若い女の部屋には思えなかった。落ち着いた色合いのベッドがあり、恐らく小学生の頃から使っている学習机があり、本棚がある。それだけの部屋だった。ぬいぐるみや、姿見、もしくは鏡台の類は無かった。
 間中が学習机の上にあるノートパソコンを開いていた。彼に椅子は小さ過ぎたらしく膝立ちだった。
「よくパスワード分かったな」
 浦辺が感心とも嫌悪とも言えない顔で言う。パソコンというものは個人情報の塊で、当然パスワードがあったはずだった。間中がこの短い時間で解除できたのだとすると、浦辺はついハッキング等を疑ってしまう。間中は心外そうに返した。
「書いてあるメモが置いてあったんだよ。ほら」
 浦辺の鼻先に出されたのはメモの切れ端で、数字とアルファベットが組み合わさった文字列が書かれていた。
「ホントだ」
「なんでこんなところに書いたんだろうな」
「・・・・・・親が書いたんじゃないか? 娘が自殺した時に、調べて、分かったんじゃないか?」
 そんな推測を浦辺は口にする。浦辺の祖父母は既に父方、母方共に他界している。その時とても悲しかった。子供を失った親であれば浦辺よりもずっと深い悲しみに襲われたはずだ。自殺などされたら、どんなことをしてでもその原因を探すことだろう。娘のパソコンを開くことだってしたはずだ。
 浦辺は家族の悲しみを考えて、沈痛な面持ちになる。対して間中は「そんなもんかね」と淡々と他人のパソコンを漁っている。
「流し見した感じだと、自殺サイトにアクセスしまくってたみたいだな。あー気が滅入ってくる系のサイトばっか見やがって」
 間中は長々と溜息を吐く。パソコンのほうは任せて、浦辺は彼女の本棚へ目を向ける。蔵書はSFの文庫で三分の一ほど埋まり、残りは学校の教科書、図鑑、漫画だった。理数系の参考書も並んでいる。浦辺の頭の中で徐々に死者の姿が組み上がっていく。何故、自殺したのかを知る手掛かりにしたかった。
「浦辺、ちょっと」
「何だよまた」
「去年から今月に入るまで入り浸ってたサイト、自殺サイトじゃないな」
 見てみろ、と間中に画面を示される。表示されていたのは文字で埋め尽くされた掲示板だった。サイト名なのか、一番上には「広場」とだけ書かれていた。
「何のサイトなんだ?」
「文字通り、『広場』なんだろうな」
 「広場」と掲示板の名前が書かれたところの少し下に、「理念」が書かれていた。

掲示板の理念
「広場」の利用について。ここは皆さんの為の広場です。ここで沢山話して下さい。沢山考えて下さい。死にたい人、色々なことに絶望している人、悲しい人、沢山の人と、色々な人と出会って、話して、気持ちを紛らわせて下さい。気持ちを共有して下さい。皆さんの為の広場です。悩みを解決させたり、考え直したり、勇気をもらったりして、そしてもうこの広場にやって来なくても良いようになって下さい。それが管理人の願いです。
謹呈

※掲示板「広場」では以下の行為を禁止します。

1.ハンドルネームを入力しないままコメントすること。
2.自身の意見について根拠を明示しないこと。
3.自身の意見について根拠を明示しないこと。
4.自身の意見について根拠を明示しないこと。
5.この掲示板での会話を外に持ち出すこと。
6.掲示板の理念を無闇に信奉すること。
7.掲示板の理念に感銘を受けること。
8.会話以外の行為を行うこと。
9.相手に暴言を吐くこと。
10.脅迫・恐喝すること。
11.誹謗中傷すること。
12.冷静さを欠くこと。
13.荒らし行為。
14.勧誘行為。

此処は皆さんの為の広場です。此処での論争は議論のみで行って下さい。管理人は貴方達の自由を尊重し身勝手を無視します。意見は受け付けていません。改善案も同様に受け付けていません。
そしていつまでもこんな文章を読んでいないで掲示板に参加することをお勧めします。

恐惶謹言


「・・・・・・あの、間中。俺はAmazonとGoogle以外あんまりネットに触らないから分からないんだが」
「掲示板だよ。顔の知らない相手と喋ったりできる。学校裏サイトとか見たことあんだろ?」
「ある、と思う・・・・・・」
 浦辺は曖昧な返事を返す。少年課にいた頃にそういった案件を聞いたことはあったが、どちらかと言うと浦辺は夜の繁華街を歩いて少年少女を補導することのほうが多かった。当時の先輩がExcelに悪戦苦闘する新入りを見て向き不向きを察したからだった。浦辺は「パソコンのことは間中に任せよう」と思った。
「違法性のあるサイトなのか?」
「いや、全然そんな感じはしないけど。ダークウェブだったら専用の入り口からじゃないと入れないんだが、これは普通にアクセス出来るから、ホントにただの『広場』って感じだな。色んな奴と喋るためだけの掲示板」
 間中は画面をスクロールしては一人で頷いている。
「雑談のジャンルが幅広くて面白いな。構造主義についての議論からミレニアム懸賞問題まで。変態ばっかだな」
「知らない人のことを変態呼ばわりするなよ」
 間中が一つのスレッドをクリックしてみる。少しの間を置いて画面に新しいウィンドウが開いた。一番上に新しい投稿が表示される設定になっているようで、最新の投稿はほんの数秒前にされたものだった。そして一分も経たないうちに新しい投稿が現れる。それが絶え間なく続いている。投稿者は全員それぞれのハンドルネームを使っていた。どのコメントも最低六行以上書かれていて、末尾に「~~論文引用」や「~~誌○月号引用」と文献が書かれている。
 浦辺にはまるで内容を理解出来ないが、どうやらこのスレッドでは「新しい宗教を作る場合、資本金100万円以内で500人規模の団体にまで拡大するにはどの程度時間が掛かるのか」ということを語り合っているらしい。
 何の目的でそんなことを語り合っているのか、浦辺は全く理解出来ない。文献を調べて引用したり、一瞬も間を置かずに投稿したりすることの何が面白いのか、一切理解出来ない。
「いいな、みんな楽しそうで」
 間中は彼と正反対の感想を述べた。怪訝な顔をする浦辺は他に何かないかと学習机の引き出しを開ける。備え付けの三段引き出し、その一番下を開ける。キャンパスノートが何冊も隙間無く入れられていた。二十冊以上はある。浦辺は奥側の物を一冊抜いて開く。中は小学生が鉛筆で書いたらしい日記だった。学校や塾のことが書かれていた。反対に、手前側の一冊を取って開くとボールペンで書かれた小さな文字がびっしりと紙面を埋めていた。最後のページは自殺する前日の日付が書かれていた。
「なんか見付けたのか?」
「日記があった。几帳面に付けてたみたいだな」
 浦辺は日記として使われていたノートを全て取り出した。部屋の中央にどかりと腰を下ろして、最初の日記から読み始めた。

自殺した、この部屋で暮らしていた優子は、テレビアニメの主人公を真似て日記を書き始めた。

「浦辺、変な話だよな」
 間中が唐突にそんなことを言い出した。浦辺は顔を上げずに「何がだ」と返す。間中は様々なスレッドを開いたり閉じたりしながら言葉を続ける。
「パソコンのパスワードは分かってる。日記もあった。それでなんで、家族は自殺した理由が分からなかったんだ? そんだけあれば幾らでも理由が思い付くだろ? 検死結果は自殺だけど、ホントに自殺なのか?」

日記のページを捲ると家族でピクニックに行ったと書いてあった。もうすぐ塾内のテストがあると書いてあった。優子は国語が苦手だった。


 浦辺は間中の問いに、正直に答えた。
「分からないから、こうやって日記を読んでる。彼女は掲示板に何かコメントとかしてないのか? それも読みたいんだが」
「コメント投稿のところにハンドルネームの履歴残ってたから分かるぞ。スマフォからでも掲示板アクセス出来るだろ」
 浦辺はスマートフォンを取り出し、Safariで「広場」と検索する。しかし表示されるのはウィキペディアや近場の公園ばかりで、肝心の掲示板は出てこない。
「出てこないぞ」
「名前が普通過ぎて出て来ないんだろ。ちょっと貸せ」
 間中に携帯を貸すとURLを直接打ち込んで掲示板を開いてくれた。優子は「キリンリキ」というハンドルネームでコメントしていた、と間中が教えてくれた。スレッドは沢山あるし、今この瞬間にも新しく立てられている。ハンドルネームだけを手掛かりに探すのは至難の業だろう。スレッド一覧を流し見する。
 浦辺が気になったのは、一定の割合で「死ぬこと」や「生きる価値」といったことを議論しているスレッドがあることだった。楽しい雑談をするのに、こんなことを語るものだろうか。
 浦辺はそう思って「命の価値はどのように決めるべきか」というスレッドを試しに開いてみた。どれもこれもネガティブなコメントが多い。陰々滅々な投稿者達に浦辺は反論したくなった。
 浦辺はインターネットに疎かったので、ハンドルネームの欄に「浦辺誠司」と本名を入れた。そして『人間の命はみんな同じ重さです。価値を決めることはできません』とコメントした。次の瞬間、スマートフォンの画面は『根拠は?』というコメントで埋め尽くされた。あっという間に浦辺の投稿は彼方へと押し遣られていった。
「ネットって怖いな・・・・・・」
「何がどうしたんだよ。言っとくけど、無闇に投稿とかするなよ、危ないから」
「もう少し早く忠告してくれ」
 スレッドを閉じて、浦辺はまた一覧をスクロールしていく。そこに「お葬式について」というスレッドがあった。脳裏に先程会ったあの変な葬儀屋が浮かんだ。
 浦辺はそのスレッドを開く。其処にはあまり人数がいないようで、投稿ペースは停滞しているらしかった。一番最新の投稿は一週間前だった。コメントの中に「キリンリキ」の名前があった。優子はこのスレッドに書き込みをしていた。優子と遣り取りをしていたのは主に「虚無虚無トレイン」と「あそぱそまそ」という二人だった。最後の投稿は「あそぱそまそ」だった。

『私も後から参加しますね^_^』


 その前に「虚無虚無トレイン」がコメントしている。

『キリンリキさんのお葬式、懸賞で当てたグッズで参加しまーす』


 浦辺は気付いた。このスレッドは「優子の葬式」なのだと。一番最初の投稿は優子の、「キリンリキ」の『死んだ人は葬式をメチャクチャにはできない」というものだった。
「間中」
「んー?」
「コメントの投稿者って調べられるのか? 本名とか、住んでるところとか」
「分かるぞ。何かあったのか?」
 振り返る間中に浦辺は「お葬式について」というスレッドを立てた優子と、優子と話していた二人のことを話した。浦辺には確信があった。
「多分だけど、この『虚無虚無トレイン』て奴が斎場で自爆した奴だと思うんだ」
「なんでだよ」
「投稿が停まってて、優子と喋ってるから」
 浦辺の推理とは言えない話に間中は鼻白んだ顔をするが、否定はしなかった。
「パソコンは署に持って帰るわ。分かったら教えてやるけど大人しく待ってろよ」
「ああ、悪いな」
「そういえば葬儀屋さん達って帰ったのか?」
「多分。一人だけだったし」
 彼の答えに間中は首を傾げる。
「片付けって、普通は他にも人連れてくるんじゃないのか?」
 言われてみればそうだ、と浦辺は葬儀屋から貰った名刺を取り出す。「国定葬儀社 国定 青沼」と名刺に書かれている。脇に小さく住所が書かれている。優子の家や菩提寺のあるこの場所からは距離がある住所。文字通り山を越えねばいけない海辺の住所だった。何故、こんな遠くから葬儀屋はやって来たのか、浦辺は不思議だった。
 考え込む浦辺を置いて、間中は一旦パソコンを閉じた。そして次に本棚や押し入れやらを調べ、次に家族の部屋に移る。間中が作業をしている間に浦辺はひとまず優子の日記を読み進めていった。


優子は近所の公園が好きだった。秋の今頃になると金木犀が咲く。それを拾って同級生とおままごとをするのが好きだった。優子は漢字が苦手だった。小テストの前には必死になって勉強した。お陰で間違えるのは一問か二問だった。間違えると母親が怒った。弟は「勇太」という名前で、両親は弟ばかり可愛がった。弟と喧嘩すると優子ばかり怒られた。「お姉ちゃんなんだから」と。優子はそれが嫌だった。両親は共働きで優子より仕事を優先した。優子の授業参観には母親しか来てくれなかった。父親は弟の参観日には出席した。学校で好きな人の話題になるのが嫌だった。優子は誰かを好きになったことがなかった。優子は理系に進んだ。数学や科学が好きだった。祖母が死んだ。悲しくなかった。祖母は痴呆症で優子や弟のことを「知らない子」として扱った。祖父が死んだ。祖父は優子に「結婚はまだか」と言い続けて死んだ。優子は高校生になっても恋人が出来なかった。恋をしなかった。理数系の授業を選択して同年代の女の子の数が減っても、恋などしなかった。好きな人などいなかった。流行を理解出来なかった。バラエティの何が面白いのか分からなかった。どうして自分が結婚しなければいけないのか分からなかった。子供を好きだと思ったことは一度も無かった。研究者になりたかった。ガンの治療法を見付けたり接着剤の原理を解明したりする科学者になりたかった。家にいるのが嫌で友達と学校の近くにあるファミレスに通った。大学に行くことを決意した。大学受験に父母はいい顔をしなかった。第二志望に合格した。父親が嫌味たらしく入学金を支払った。一人暮らしをしたかったけれど母親が酷く反対した。大学では恋人はおろか、友達も作らなかった。アルバイトもしなかった。勉強をしていたかった。誰もいらなかった。理解出来ないし自分は決して理解されないと分かっている。両親が恋人の有無を聞いてくる。弟は遊び呆けている。自分の境遇をからかわれる。無我夢中で就職した。安い月給の事務職で一人暮らしは未だに反対されていた。結婚する気はなかった。両親が嫌いになった。弟が嫌いだった。自殺サイトを閲覧するようになった。ずっと前から死ぬことを考えていた。誘われた「広場」で話すことは楽しかった。みんなと喋ったり調べたりしている間は我を忘れられた。死にたかった。毎日それを考えていた。明日死ぬことを選んだ。


 浦辺が優子の日記を読み終える頃には、間中が鑑識作業を終えていた。間中が優子の部屋へ入ってくる。
「終わったから帰るか?」
 そう問われて浦辺は首を横に振る。
「まだちょっと調べたいことがあるから、先に帰っててくれ。車は貸すから」
「署まで結構距離あるぞ?」
「タクシー呼ぶから平気だよ」
 浦辺は間中に車の鍵を放る。危なげなく鍵を受け取った間中は「そうか。家の鍵は居間のテーブルに置いとく」とだけ言って、優子のパソコンを回収して帰って行った。
 優子の部屋で一人になった浦辺は窓から差し込む光の眩しさから、日が西へと傾き始めていることを理解した。
 浦辺は優子のことを悲しく思った。「独りで良い。独りが良い」と思うことの寂しさを、本当に悲しく思った。誰も理解出来なくて、誰も理解しないだろう優子は、この狭い田舎が息苦しかったのかも知れない。肉親や同級生の中で味わう疎外感が苦しかったのかも知れない。浦辺は優子のような感覚を持ったことがない。それでも「辛いだろうな」と思うことは出来た。そして、家族がこの苦しみを理解出来なかったことが一番悲しかった。
 優子が死んだのは、これが原因だ。浦辺はその結論に至った。彼は日記を引き出しにしまった。時系列順になっていた日記。家族が整理したのだろう、と浦辺は想像した。「こんなことで死ぬわけがない」と遺族は思ったかも知れない。彼等は「何故自殺したのか分からない」と答えたのだから。
 浦辺は立ち上がる。優子が学生時代に通ったというファミレスに行ってみようと思った。



 優子の母校近くにあるというファミレスは一軒しか無かった。県道沿いにぽつんと建っているチェーン店のファミレスは繁盛しているのか怪しかった。大型トラックでも駐車出来そうなほど広い駐車場に車は駐まっていない。駐輪スペースには数台の自転車が駐められている。浦辺はタクシーから降りて、店の中へ入った。
 窓際のテーブル席に案内された浦辺はドリンクバーだけを注文する。年増の店員は愛想良く持ち場へ戻っていく。ホットコーヒーを淹れて、広い四人掛けのテーブルへと戻っていく。窓の外は少しずつ日が傾いていっている。もう少しすれば空が赤くなっていく。優子が友達と来る頃であれば、もっと日が暮れていただろう、と浦辺は思った。スマートフォンを取り出して彼は優子のコメントが何処かに無いかと掲示板を彷徨うことにした。
 掲示板で、優子は様々なところにコメントを投稿していた。家父長制の存在意義や、数学の問題について、死ぬことについて。優子はいつも冷静で、端的にコメントしていた。優子は頭の中で意見を整理するのが上手だった、と浦辺は思った。
 そうして掲示板を眺めながらコーヒーを啜っていると来客を知らせるベルと店員の声が聞こえて、足音が近付いてきた。足音は浦辺の座る席まで来て止まった。
 えっ、と浦辺が顔を上げると向かい側に三十半ばくらいの、体の前側に子供を抱くタイプのベビーキャリーを装着した、痩せた女が「よいしょ」と腰を下ろした。女は机の下にどさりと重たい何かを置いて、店員に「生ビールください!」と叫ぶ。重そうに抱えられている、子供の体がすっぽりと入る大きなベビーキャリーは頭部保護のガードが付いているせいで子供の顔は見えない。眠っているのか声も上げない。浦辺は彼女に面識などない。ショートボブの茶髪で、ピアス穴は空いているがアクセサリーは何も身に付けていない。服装からすると主婦に見える。化粧をした顔には焦燥感と興奮が混在している。雨は降っていないのに何故か女はずぶ濡れだった。何か刺激臭に近い臭いを纏っていた。
「あの、すみません、何ですかいきなり」
 恐る恐る浦辺が声を掛けると女は「気にしないで!」と笑った。
「ウラベさんでしょ? はじめましてだけど私のことなんてすぐ忘れちゃってね! 肝心なトコじゃないからココ!」
 何故彼女は自分の名前を知ってるのだろう、と浦辺は思った。彼女の纏う臭いが何なのか分かった。ガソリンだった。浦辺は思わず腰を浮かすが、女の言葉に遮られた。
「ねえ座ってよ。私まだ喋ることあるんだから。途中退場したり、邪魔が入ったりして、お土産が爆発したら私たち死んじゃうんだから」
「お土産・・・・・・?」
「お葬式の会場も屋根が吹っ飛べば良かったのにね。飛ばなかったね。案外威力ないのね」
 女が足元の何かを数度蹴る。ガチャンガチャンと音がした。浦辺は自爆した弔問客のことを思い出し、目の前の赤ん坊を抱いた女にリンクし、静かに腰を下ろした。それから言葉を慎重に選んで発言する。
「どうして、俺と話したいんですか?」
 女は運ばれてきたビールを一気に半分まで呷ってから質問に答えた。
「それがウラベさんのしなきゃいけないことでしょー? 私、あっ、私ユミコって言うんだけど」
「ユミコさん」
「そー。それで、私は答えを聞きに来たの。ウラベさん、なんで自分が巻き込まれたのかって分かった?」
 ユミコはじっと浦辺を見詰める。穴のような目だった。虚ろで、その中には誰もいないような目だった。ガソリンの放つ臭いが眼球を刺激するだろうに、彼女は瞬きをしなかった。浦辺は正直に答える。
「いや、まだ。正直見当も付きません」
「そうだよねぇ、人の考えてることなんかなーんにも分かんないよねぇ」
 きゃあきゃあと女は笑う。浦辺は応援を呼びたいが、うっかりテーブルの上に携帯を置いてしまったので触るに触れない。女は紺色のベビーキャリーをポンポン叩いてリズムを付けてながら話す。
「虚無さんがさぁ、なんでウラベさんを巻き込んだかなんて、本人かスワンプマンさんから教えてもらうしかないよ多分」
「虚無さん・・・・・・虚無虚無トレインさんのことですか?」
 スワンプマン、という名前についても浦辺は聞きたかったが女のほうが先に喋った。
「そうそう。名前なっがいよねー。で、じゃあ次にいってみよう! ね、キリンリキさんがなんで死んだのかって分かった? 家族が殺された理由は?」
 優子のことについて、浦辺の中ではある程度の推理が固まっていた。優子の遺された家族のことも。言葉がきちんと紡げるかどうか自信が無かったが、浦辺は答えなければならなかった。
「優子、さんは、キリンリキさんは・・・・・・周囲と自分の間にあるズレを感じていて、それが苦しかったし、理解してもらえないって分かっていた・・・・・・それで自殺を選んだ。家族は多分、その理由を理解出来なかったと思う。優子と、その、虚無さん、はよく話していたから、虚無さんは、憤りを感じたんじゃないか・・・・・・? だから、あんなことをした」
 俺はそう思う、と浦辺は話し終えた。そしてはたと気付いた。
「貴方は、『あそぱそまそ』さん?」
 ユミコは顔の筋肉を緊張させる。笑顔を作ろうとしている。酷く不格好だった。
「そうだよ。私が『あそぱそまそ』だ。その回答は赤点回避くらいだけど、まあ良いんじゃない? ほぼ正解で良いか。でもちょーっと惜しい」
 ユミコは残念、と肩を竦めるジェスチャーをする。浦辺は理由を訊ねる。
「何が惜しいんですか?」
「私が入ってないじゃん。『あそぱそまそ』は? なんでウラベさんの前にわざわざやって来たの?」
 分かりません、と浦辺は返した。頭の中は優子と自爆犯で埋め尽くされていたから、目の前にいる「三人目」を勘定に入れ忘れていた。ユミコは大きく瞳を見開く。教えてあげるよ、と口火を切る。
「私たち三人はね、試すことにしたの。人って、生きる価値が無いでしょ? じゃあ死ぬ価値は? ある? 私たちはあるって考えた。少なくともキリンリキさんの死は、意味があったって。虚無さんと私はお葬式の最中なの。キリンリキさんのね。お葬式をしてるの。貴方や他の人が理解出来るように、分かり易くお葬式をしてあげてるの。貴方たちが完全に消化するまで終わらないよきっと。折角のセレモニーだし。虚無さんは葬式会場に行くまで何をしたんだろうね? 私は此処に来る前に、何をしたと思う?」
 ユミコは「分かる? ウラベさん」と彼を見詰める。浦辺の元に斎場で抱いた嫌な予感が再来した。首を横に振るだけに留めた。ユミコは点数が良かったテストの報告をするように、彼に教えた。
「私、結婚しててさ、旦那の母親と同居しててさ。これがもーすっごいムカつくクソババアで、不妊治療してる間はずっと嫌味言ってくるしやーっと生まれた子供が女の子でまた文句言ってくるの。嫌でしょこんなの。旦那は旦那で仕事忙しいって逃げるし。はーホントにカスだわ。まあね、ババアは旦那と結婚する前から要介護2ぐらいだったけど、優しくされると付け上がるんだよね人間て。育児も疲れるしさ、子供可愛いかっつったらまービミョーだし、欲しかったけどね、出来るとまた別問題だったね。ウケる。超絶死にたくて自殺サイト巡りしてたんだけど、其処にさ『広場』のリンクが張ってあってさ、それでハマっちゃったんだよね。あそこ居心地良くてさ。でももう今日で最後にしたの。人生終わりにするから」
 ユミコがビールを飲み干してジョッキを空にする。おかわりは頼まなかった。一息ついて、ユミコはすっきりしたような顔で結末を話す。
「それで、今日家を出てくる前に子供を乳児院の前に捨てて旦那の母親殺してきた」
 一瞬、浦辺の時間が停まった。唐突な子捨てと殺人の告白に言葉を失い、そして思わず聞き返してしまった。
「えっ・・・・・・?」
「ババアがさ、風呂に入りたいって言うからお望み通り頭まで浸からせてやった。旦那が昨日北海道の学会に参加しに行ったから、帰ってくる頃にはスープになってたら良いな」
「その、抱っこしてるのは・・・・・・?」
「これ? ガソリン入れたペットボトル。重くてやんなっちゃう」
 あはは、と女は快活に笑う。人生が終わる日にこんな笑い方をするものなのかと、浦辺は理解に苦しむ。それから自爆した弔問客もこんな風に笑っていたと気付く。
 ユミコは長く息を吐いて、「さてと」と立ち上がる。
「私そろそろ行くけど、ちゃんと考えてねウラベさん。貴方が抜けたりしたら、セレモニーは終われないの。頑張ってね」
 彼女はテーブルの下に入れた荷物を置いたまま、机に濡れた千円札を置いて店から出て行った。車の鍵が開く音が聞こえた。それから走り去っていく音。浦辺はそっとスマートフォンを取る。足元が吹き飛ばないように半ば祈りながら電話を掛けた。
『警察です。事件ですか? 事故ですか?』
「県警機動隊の浦辺です・・・・・・爆発物処理班をお願いします・・・・・・」
 浦辺は人生で一番間抜けな電話を掛けている気がした。

 結論として、浦辺の足元に置かれたのは唯のボストンバッグで、中身は不燃ゴミだった。そして「佐藤 優子」の家が放火で全焼し、中から女の焼死体が見つかった。
 浦辺はその死体がユミコだと分かっていた。










浦辺警部補の証言、捜査を元に会見発表原稿を作成する。
「佐藤優子」は計画的な自殺と断定。死因は自室のドアノブで延長コードを用いての縊死。検死結果に不審な点は見当たらず事件性は無し。自殺に至った要因は周囲との軋轢と断絶に耐えきれなかったからと推定される。対人関係が不得手であると同僚からの証言が取れており、家庭環境も膠着したものであったことが佐藤優子の日記やSNSから読み取ることが出来る。

佐藤優子の葬儀当日に佐藤優子の遺族を射殺した不審人物の身元は「安田浩介」と判明。
昨年の三月に勤め先の工場を退職。二十三歳。児童養護施設出身。拳銃及び爆発物の入手ルートは捜査継続中。退職後、工場から劇薬物が幾つか紛失していることが判明。安田浩介の自宅アパートからは発見されていない。安田浩介は夜間高校卒業後に工場へ就職。他者と関わることが少なく無口な人間だったという証言が多い。佐藤優子と安田浩介はネット上の掲示板で知り合い、通話アプリなどを用いて遣り取りを行っていたことが佐藤優子のパソコンから判明している。佐藤優子の自殺に対して安田浩介は憤りを感じ、遺族を射殺したと見られる。

佐藤優子の実家に放火し、全焼させたのは都内に住む専業主婦の「菊原由美子」だった。
菊原由美子は焼け跡から死体で発見されている。三十七歳。夫は大学病院の准教授。パーキンソン病を発病していた夫の母親と同居していた。不妊治療を五年続けた末、半年前に長女を出産。姑との関係は良好ではなかった。夫も家庭を顧みることがなかった。そのストレスが発端とされる。
ネット上で交流のあった佐藤優子、安田浩介が計画していた自殺と襲撃に参加し、姑を自宅の風呂場で溺死させ、長女を乳児院の前に置き去りにした。そして佐藤優子の家に放火したのち焼身自殺した。安田浩介は予告とも取れる発言後、自爆。

「同様のことがあと二回起きる」という予告らしき発言については、その後に同様の事件が発生していないことから安田浩介の無意味な発言と思われる。本件は被疑者死亡のまま送検。
本件は「集団自殺とそれに伴う殺人」であり、危険思想や宗教的思想とは無関係と断定。被疑者達が使用していたネット掲示板「広場」については違法性は無いため閉鎖などといった措置は行わないものとする。

以上を「葬儀襲撃事件」の概要及び草稿とし、記者会見で修正した完成稿を発表する。


 浦辺が署に戻ってきた時、玄関で出迎えてくれた上司が特殊警棒を握って立っていたのを見て浦辺は「俺は今から死ぬんだ」と本気で思った。上司が笑顔だったのもその予感を増幅させた。
「浦辺くん、反省会しよっか!」
「ひゃい・・・・・・」
 上司が子供のような笑顔で特殊警棒を振り抜くので、浦辺の声は裏返った。どうにか絞り出した「まだ死にたくない・・・・・・」という呟きは酷く惨めだった。


 浦辺の為に上司は小会議室をわざわざ貸し切って絞り上げてくれた。滾々と説教をされた上で事情聴取もされた。明けぬ夜のような気分で浦辺はパイプ椅子の上で頭を垂れていた。塩を振り掛けられた蛞蝓のようになっている浦辺を見て、上司は漸く手を緩めた。
「浦辺くんに怪我が無くて良かったよホント」
「はい・・・・・・ホントにすいませんでした・・・・・・」
「次は謹慎じゃ済まないよ」
「エッ今回は謹慎処分なんですか俺」
「今決まりました。後で部長にも提案します」
 首を締められた蛙の声が浦辺の口からまろび出た。上司に「自業自得」と窘められたところで扉がノックされる。
 扉を開けて入ってきたのは間中だった。鬱屈そうな目が眼鏡の向こうに見える。浦辺は「俺みたいに謹慎食らったのだろうか」と思った。
「あれ、間中くん。どうしたの?」
 上司にそう声を掛けられて間中は持っていたコンビニの袋を持ち上げて見せた。
「ちょっと同期の様子見に来ただけッス」
 一度浦辺のほうに目をやった上司は項を擦り「お茶にしようか」と言った。ひとまずのお許しだと浦辺は息を吐き、上司の気が変わらない内に給湯室へと走った。
 湯飲みと湯を目一杯注いだ急須を盆で運んできた浦辺はいそいそと上司に茶を淹れる。間中は浦辺にコンビニでおにぎりや肉まんを買ってきてくれた。ポテトチップスは恐らく自分で食べる分だったらしいが、上司が開けて食べ始めてしまった。間中は少し恨めしそうにしていたが何も言わなかった。
「間中、お前大丈夫だったか? 叱られたりしなかったか?」
 浦辺が肉まんを食い終わって訊ねると間中は「怒られました」とだけ返した。浦辺は申し訳なく思った。自分が一人で行動したから同期にも迷惑を掛けてしまった。
 しょげる浦辺はおにぎりを囓る。間中が同期を気遣ってが話題を変えた。
「犯人の身元、二人とも分かったそうですね」
「あ、そうそう。間中くんが掲示板のコメントを調べてくれたから、其処から割れたんだよ」
 上司が頷く。「虚無虚無トレイン」は「安田浩介」という名前の青年だった。「あそぱそまそ」は「菊原由美子」という名前の主婦だった。安田は孤児院の出身だった。菊原は中流家庭から医者の家に嫁いだ主婦だった。二人ともあまり友人が多くなかった。
 浦辺は上司と間中が話している内容を静かに聞いていた。人が自殺する理由や殺す理由を警察官である浦辺は当然知っている。それでも「しよう」と思ったことがない。だから三人がしたことを、受け入れることは出来ても容認することが出来ない。考えると気分が沈む。どうにかして助けることは出来なかったのだろうか、と思う。
「それで、発表どうするんですかね」
「上の方針だと被疑者死亡で送検だね。結局『二回起こる』っていう言葉はでまかせってことでさ」
 上司が浦辺のことを呼んだ。浦辺は慌てて顔を挙げて返事をする。捜査本部からの伝達だった。
「後日、原稿作るから君も手伝えってさ」
「原稿・・・・・・?」
「会見用のね。君の証言が骨子になるんじゃない? 直接犯人と話してるし」
 「つまり取り調べっスね」と間中は茶を啜った。浦辺の脳裏に「あそぱそまそ」の言葉が浮かんだ。

「私たち三人はね、試すことにしたの」
「人って、生きる価値が無いでしょ?」
「じゃあ死ぬ価値は?」
「お葬式の最中なの」
「貴方たちが完全に消化するまで終わらないよきっと」
「ちゃんと考えてねウラベさん。貴方が抜けたりしたら、セレモニーは終われないの」

 最後の取り調べが、自分の答えを出す唯一の機会になると浦辺は思った。自分の答えを出す為の、最後の機会になる。きちんと考えて結論を出さなければならない。浦辺は「はい」と噛み締めるように返事をした。


 そして記者会見が行われた。浦辺はその模様を自宅のテレビで観ていた。








 左耳の傷はガーゼが外れて抜糸も終えた。浦辺には疑問が残った。記者会見の原稿を作成した後、改めて捜査資料を見直して疑問が涌いた。それは本当に些細なことだ。「キリンリキ」、佐藤優子は自分で葬儀の予約をしていた。わざわざ他県の、自分の僅かな貯金を全て使い果たしてまで葬儀社を選んだ。「虚無虚無トレイン」、安田浩介はどうして劇薬物を盗んだのか。「あそぱそまそ」、菊原由美子はどうして佐藤優子の家に放火したのか。自分はきちんと答えを出せたのだろうか。
 記者会見が終わり、自宅謹慎をしている浦辺は部屋の中でずっと考えていた。優子の葬儀から三週間が経過していた。浦辺は昼近い今になっても布団の中にいた。
 あの事件は、三人で思い付いたのだろうか。安田浩介は葬儀場を襲撃した後に誰かと通話していた。目の前で浦辺はそれを見ていた。その相手は誰だ。放火した菊原由美子だろうか。しかしそれなら、菊原が言及したはずだ。菊原は何故、浦辺がファミレスにいると知っていたのだろうか。佐藤優子の家を何故知っていたのかは推測出来る。彼女達は直接遣り取りをしていたのだから、知ることも教えることも容易だったはずだ。しかし生きていて、面識の無い人間が移動した先をどうやって知った。菊原が「スワンプマン」と呼んでいた人間は誰だ。その相手は何処にいる。
 布団の中で延々と考えた。そして気付いた。自分は「広場」の管理人と既に会っていて、名刺交換さえしている。記者会見の原稿を作成する時に捜査資料を読んだ。其処にに書かれていた、ネット掲示板「広場」管理人の名前を今漸く思い出した。「国定青沼」。佐藤優子が葬儀を予約した「国定葬儀社」の代表。背の高い、佐藤優子の家に一人でいた男。
 浦辺は布団を蹴り飛ばして跳ね起きてスマートフォンを掴む。上着から名刺入れを探し出す。会う必要のある男の名刺はすぐに見つかる。すぐに掲載されている番号に電話を掛けた。数コールの後に携帯電話が繋がる。
『はい、国定葬儀社です』
「・・・・・・あ、あの、先日はどうも。県警の浦辺です」
 電話を取ったのは国定本人だった。彼は少し沈黙して『ええ、先日はどうも』と答えた。
「会いたいんですが、そちらに今日、じゃなくて、あの、明日、明日お伺いしても良いですか?」
 浦辺はてっきり渋られると思ったのだが、予想していたものとは違う答えが返された。
『いいえ。今日で結構です。今から会社を出るのでそちらに着くのは昼過ぎになると思います。あの公園で待ち合わせましょう。優子さんが好きだった、あの公園で』



 遊具は危険だから、と殆ど撤去された公園は最早価値の無い広場でしかない。そんな小さな公園の奥に金木犀が一本植えられている。
 枝々の方寸な合間から陽の射す午後。太い幹から枝を伸ばして花を咲かせている。風に色付いて見えそうなほどに芳香を振り撒いている。ちらちらと赤黄色の小さな花が落ちていく。
 その枝下にベンチが置かれていて、葬儀屋の国定が座っていた。仕事着であろう喪服姿で、背筋を綺麗に伸ばして煙草を吸っていた。禁煙の波が広がる昨今、その余波は地方都市までには届かずに公園には古い灰皿が据え置かれている。煙草の灰は其処へと叩き落とされる。浦辺は彼を真っ直ぐと見詰めて、歩を進めていった。
 近付いてきた浦辺に国定が胡乱な視線を向ける。顔を反らして彼に掛からないように煙を吐き出して、国定は挨拶した。
「こんにちは、浦辺さん」
「・・・・・・隣、良いですか?」
「構いませんよ」
 国定は煙草を消そうとする。浦辺は構わないと手を振った。浦辺自身は非喫煙者だが、周囲の大多数は喫煙者だ。灰皿のある場所であれば大して他者の喫煙を気にしない。国定は軽く頭を下げて消そうとした煙草を再び銜えた。ベンチに腰を下ろした浦辺は本題から入った。
「国定さん、貴方は最初から全部知っていたんじゃないですか?」
 浦辺の問い掛けに、葬儀屋は暫し沈黙した後に唇を開いた。紫煙が広がり金木犀の香りに混じった。
「何故、そう思うんですか?」
「貴方は知ることが出来たからです。『広場』の管理人だから。この公園のことを貴方が知っていたことも頷ける」
 はらはらと金木犀が落ちてくる。風は強くない。咲いて落ちるばかりなのだろう。国定が何もかも知っていたと考えれば幾つかの疑問が説明出来る。
「貴方は、『スワンプマン』?」
 浦辺の問い掛けに国定は「ええ」と答えた。葬儀屋は抑揚の無い話し方をする。一時流行った受付ロボットのほうが人間らしいくらいだった。国定が浦辺に目を向けることは無かった。
「私は掲示板の管理人で、彼等と何度か遣り取りをしたことがある『スワンプマン』です。優子さんとはこの公園で会って話したこともあります。それで、それが、どうかしましたか?」
「じゃあ全部知っていたはずです。斎場で何が起こるのか、分かっていたはずです。どうして止めなかったんですか?」
 浦辺のそんな言葉に対して国定はまるで呆れるように煙草の煙を吐き出した。多量の白煙が広がった。
「どうしていたら彼等は止まったのでしょう?」
「ど、どうしたらって、そんなの、説得とか、通報するとか・・・・・・」
「それで止まるような人はあの掲示板にはいませんし、来ません」
 浦辺は自分の肩が跳ね上がったことに気付いた。それが恐怖と嫌悪から来るものであったことを数秒遅れて自覚した。
「あの掲示板は、何のために作ったんですか?」
 国定は首を左右に曲げて音を鳴らす。倦怠が滲んでいる仕草をしてから彼は答えた。
「『広場』は私の父が作りました。アレは善性の人でしたから、ああして交流する為の掲示板を作って自殺サイトに貼ることを思い付いたんです。自殺する人間を減らしたい、最近の若い人はこういうのが良いんだろうと、不慣れなパソコンに向き合って作りました。結局は散々たる荒れされ方をしたので私がアレから引き継ぎました」
「あの、すいません、勘違いかも知れないんですけど、国定さんは、あんまり関わりたくないんですか? 掲示板とか、それを利用してる人とかに」
「彼処にやって来る人間の殆どは精神が荒廃していて最早まともに物事を考えられなくなっているんです。普通ね、毎日毎日死ぬことを考えるのはおかしいことなんですよ。『広場』に来るのはそういう、思考が変貌してしまった人間ばかりなんです」
 国定は「関わり合いになりたいと思いますか?」と言いながら煙草を深く吸う。長くなった灰は灰皿の縁に叩き付けられた。
「進化に関する仮説に『赤の女王仮説』というものがあります」
 「ご存知ですか?」と訊ねられて浦辺は首を横に振る。「赤の女王」が「不思議の国のアリス」に登場するキャラクターだということは分かるが、仮説と言われると何のことだか分からない。国定は一呼吸置いて話を再開する。
「『その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない』。生き残るためには進化し続けるしかないジレンマの隠喩として赤の女王の台詞が引用される仮説です。あの掲示板利用者や、優子さん達は走り続けなければならなかった。思考が変質して、考え続けなければならなくなった。思考が停まると希死念慮と自己嫌悪が噴き出すんです。だから関係の無いことを考え続けなければならない。それがどれだけ道理から外れてしまっていても」
 聞いていた浦辺は彼の言葉が諦めを含んでいて、佐藤優子や安田浩介、菊原由美子のことを見捨てたも同然なのではないかと思った。「そういう人だからしょうがない」と彼等を見捨てたように感じた。
「そ、それこそ、助けるべきじゃないんですか? 心療内科を紹介することも、話を聞いてあげるとか、それが掲示板の理念じゃないんですか?」
 国定は静かに「救いを求めていない相手には何もかも意味がないのです」と答えた。
「先程も言った通り、彼女達は走り続けなければ、考え続けなければならなかった。その過程で既に助けを求めたところで自分は絶対に助からないと思い込む。事実その通りで、掲示板の利用者達の殆どがどれだけ救いを求めようとしても結局自分で拒否してしまうんです。ああいう人間にとって救いとは、自身の生存という形では決して現れないんです。だから私のような外野に出る幕はない。ほら、たまにいるでしょう? 日曜日のヒーローショーに出てくる、筋の通らない、辻褄の合わない思考の怪人が。あれと一緒ですよ」
 断崖が目の前にある。浦辺はそんな錯覚に襲われた。深い亀裂がある。この男と自分の間には深い亀裂がある。そう浦辺は思った。足首の辺りまでじわじわと冷たい水が這い上がってくるような気分だった。言葉が思い付かなかった。
「恐らく、私と浦辺さんの間には認識の相違があるでしょうが・・・・・・答えを聞かなくては。貴方の答えを聞きましょう、浦辺さん。浩介さんが貴方に投げかけた三つの問いと、優子さん達の行為についての感想を」
 斎場で投げかけられた三つの問い。

「佐藤優子は何故死んだのか?」
「何故、佐藤優子の家族は射殺されたのか?」
「何故、浦辺がこの問いに解答しなければならないのか?」

 ぱらぱらと金木犀の花が落ちてくる。黒い喪服に落ちる。国定はそれを払わない。葬儀屋の目が始めて浦辺を見た。放火直前の菊原と同じ、虚ろな目が彼を見ていた。浦辺は渇いた口内に張り付く舌を無理矢理剥がして話し始めた。
「佐藤優子は、孤独で、周囲と分かり合えなくて苦しんでいた。耐え切れなくなって彼女は死ぬことにした。安田浩介や菊原由美子と掲示板外でも遣り取りをしていたから、それについても話したはずだ。優子さんの死後、安田は何処かで入手した拳銃で斎場にやって来た。優子さんの家族を射殺したのは、優子さんが死んだことに憤りを感じていたからだ。あの日記を読めば誰だって同情するはずだ。もしかしたら、優子さんのことを好きだったのかも知れない。菊原由美子も同じで、優子さんに同情していたんだろう」
 記者会見で読み上げられた完成稿とあまり代わり映えのしないことを話している自覚は、浦辺にはあった。何度も何度も担当者達に話して出来上がった原稿は、湿った感情が拭われたものだった。浦辺は感情的に話さないようにしながらも、削られた部分を補った。国定はじっと彼を見詰めていた。浦辺は地面に視線を落とした。独白のように話し続ける。
「俺が選ばれたのは、俺が警官だからだ。止めて欲しかったんじゃないかと、今になって思うんだ。国定さんの話を聞いてからですけど。止めて欲しいから『あと二回同じことが起きる』なんて言った。でも何も起きなかった」
 浦辺が話すのを止める。国定は確認するように「それが答えですか?」と訊ねた。煙草は限界近くまで短くなっていた。問い掛けに頷く浦辺に、国定は「そうですか」と言った。彼は新しい煙草を取り出して銜えると吸いさしの方を火種にした。チェーンスモーカー特有の仕草だった。
「大筋は正解です。優子さんは掲示板に置いてある意味カリスマでした。掲示板の利用者達に支持されやすい厭世観の持ち主で、提示する意見はいつでも秀逸でした。一種の才能でしょうね、事務職にしておくには惜しかった」
「そう、ですね・・・・・・」
「彼女が自殺を決意したのは一年ほど前でしょうか。その頃、公開している管理人宛メールフォームに優子さんがメールを送ってきました。死ぬことを考えている、と。それで、浦辺さん」
「え、はい?」
「今から優子さん達がしようとしたこと、したことをお話しします。ですので先に言っておきますが、貴方の答えは正しくない。落第です。優子さん達は同情で繋がっていたわけでは無いし、貴方が選ばれたのは警官だからでは無い。止めて欲しかった、というのも論外です」
 唐突に突き付けられたその言葉に、浦辺は二の句が告げなかった。呆然とした彼に国定は指摘をした。
「貴方の想像には、ヒトの悪意が足りない」
 困惑する浦辺を置いて国定は淡々と話した。
「優子さんが最初に送ってきたメールには、『多くの人間を巻き込んで自殺するつもりだ』と書かれていました。迷惑を掛けることになるのでアカウントを削除して欲しい、という依頼のメールです。私が何を言っているのか分かりますか? 優子さんは最初、無差別殺人を起こしてから死ぬつもりだったんです」
「でも、彼女は一人で自殺したはず、」
「私が思い止まらせたんです。無関係の人を巻き込むのは止めなさい、と。納得させるのに半年は掛かりました。浩介さんも由美子さんも、彼女のファンのようなものでした。彼女の後を追ったに過ぎない。死ぬ切欠が、誰かを殺す口実が欲しかっただけです」
 浦辺は酷いことを聞いているような気がした。聞いたことが確かに正しく思えた。死んでいく安田浩介と菊原由美子が清々しい笑顔を浮かべていたことの説明が出来てしまった。
「・・・・・・なら、いっそ、それなら尚のこと、通報すれば良かったじゃないですか・・・・・・なんで、放置したんです? 通報していれば、もしかしたら・・・・・・」
「仰る通り、優子さん達を通報したとしましょう。優子さんは自分の家で自殺するのは止めて高速バスに乗ります。首都高を走行中に彼女は持ち込んだガソリンを車内に撒いたのち自身も頭から被って運転席に迫り、焼身自殺を試みます。何人死ぬんでしょうね。」
 灰皿の縁に叩きつけられて崩れた灰が、浦辺には自分の優しさや良識のように思えた。
「浩介さんは職場環境に耐え切れず退職し腹癒せに杜撰な管理体制の薬品庫から劇薬物を盗み出していました。眺めて自分の気持ちを慰める為でしょうかね? 掲示板には『懸賞』と称して様々な物品を与える人間がいますので、浩介さんは誰かに譲渡する気だったかも知れない」
「『懸賞』?」
「議題を提示し、出題者が納得の行く答えを出した相手に自分の持っている物品を渡す行為です。見付け次第アカウントを削除していますが、掲示板は広大ですから隅々までは巡回できませんし遣り取りはスレッドごと削除されるので気付かないこともあります」
 話が逸れました、と国定は灰を落とす。浦辺は喉が渇いて苦しかった。葬儀屋の視線は公園の入り口へと向けられていた。
「浩介さんは『懸賞』で拳銃や手榴弾等々を手に入れました。浩介さんは優子さんの後を追って死ぬことにしました。決して安くは無い電車賃を払って祝日の渋谷に向かい、スクランブル交差点で発砲し、自爆します。何人死ぬんでしょうね」
 とん、と灰が落とされる。それと同時に浦辺の感情は乱れていく。
「由美子さんは義母を殺した後、旦那さんの病院に向かいます。彼女は病室を巡って昏睡状態もしくは寝たきりの老人達を、病院までの道中で購入した包丁で刺殺していきます。何人死ぬんでしょうね」
 浦辺は斎場で安田浩介と対峙した時と、ファミレスで菊原由美子と対峙した時に感じたのと同様の感覚を抱いた。背中がすぅ、と冷たくなっていく感覚。項の肉がごっそりと無くなってしまったような感覚。恐れと嫌悪が入り交じった感覚。話していると気分が悪くなってくる。
「それが、説得してああなったって言うんですか?」
 憤りさえ感じ始めた浦辺が責めるように問う。国定の顔は能面のようで微動だにしない。
「ええ。『まだマシ』にするのが精々でした。残念です」
 憤りがゆっくりと浦辺の頭の中で膨れ上がっていく。どうしてこの男は死んでいないのだろう、と警察官は思った。気付けばぎりぎりと睨んでいた。その視線を感じて国定は緩慢な動作で顔を彼の方へと向ける。虚のような眼球に浦辺の顔が反射している。だが国定は浦辺のことなどもう見ていない。
 浦辺は違う、と思った。おかしい、おかしいと思った。三人の死が「最善」だったと、どうしても思えない。そして国定がまるで三人を憐れんでいるのがおかしいのだと思った。掲示板の人間と関わり合いになりたいと思っていない国定が、わざわざ三人に同情することなど、説得する理由など、無いはずだ。なのにどうして、国定は佐藤優子達を説得したのだろう。
 違う、と浦辺は言った。
「本当は、本当は・・・・・・貴方は、あの三人が嫌いだったんじゃないですか? 煩わしかったんじゃないですか?」
「どうして、そう思うんです?」
 静かなのに穏やかさを感じない声で国定に問われた。浦辺は負けずに返す。
「・・・・・・あの三人は、掲示板のルールを破った。『掲示板での会話は外へは持ち出さない』、三人は通話アプリで話していました。優子さんが自殺する前からです。それが、許せなかったんじゃないですか? それに見ず知らずの人間を沢山殺すなんて、それこそ掲示板の存在が明るみに出るようなことだったはずだ」
 浦辺の言葉を聞いて、国定は瞑目して頭を傾げた。強張った首筋を摩りながら、草臥れたような溜息交じりに言った。
「嗚呼、よく分かりましたね。意外でした。貴方はあまり人の内面を気にしない方かと思っていましたから」
「え?」
「外面と自分の目についた、哀れな部分にしか考えが及ばないものだとてっきり。貴方の答えを聞いたらそうなのだとつい思っていました」
 自分が馬鹿にされていると、浦辺は一拍置いて理解する。「お前は物の見方に偏りがある」と遠回しに言われたのだと気付いた。浦辺が言い返す前に国定が言葉を続けた。
「規則を破られると、全体に不都合が生じます。だから規則がある。けれどそれが、決定的な要因かと言われると違います」
 国定の暗い目が浦辺を見た。虚のような男の目元に皺が寄っていて、彼が怒りを露わにしているのだと浦辺は読み取った。
「私と優子さん達は同じ本のとある一節が好きでした。『彼女は生まれ堕ちた胎児を、その足で踏みつける練習を重ねていた』。優子さん達には苦痛になることが多過ぎた」
 浦辺は彼の言外に何を言いたいのか分からず訊ねる。半ばそうであって欲しいという願望が混じった質問だった。
「彼女達が、可哀想だと思ってたんですか?」
 彼の質問のせいで怒りが沈静化したのか、国定は公園の出入り口へと顔を向けた。
「浦辺さん。私はね、天気が良くて時間がある時はダムや崖や、樹海に行くんです。折り畳みの椅子を二脚持って。其処で一日、椅子を置いて待つんです」
「待つ、待つって、何をですか・・・・・・?」
「これから死ぬ人間を」
 自分は質問を間違えた、と浦辺は気付いた。理由は分からないが国定が激怒しているように思えた。何を間違えたのだろう。「関わり合いになりたくない」と彼が言っていた相手を「憐れんだのか?」と訊ねたのが不味かったのだろうか。国定が浦辺に別種の不快感を植え付けようとしていることしか分からない。不穏な悪意を持って、浦辺の精神に傷を付けようとしている。
「自殺志願者でも意思が薄弱なら私を見て道を引き返します。そうでなければ私の前を過ぎて行こうとします。私は今まさに死のうと進む人間に椅子を進めるんです。彼、もしくは彼女に、『少し話しませんか?』と」
 静かな国定の声は常に平坦だった。隣で聞いている浦辺にはそれが読経のようにも呪詛のようにも思えた。ちゃり、ちゃり、と国定が腕に巻いた数珠を一珠一珠手繰るのもそれに拍車を掛けた。
「話をしてみて、自殺を思い止まって帰って行く人もいます。そのまま死ぬ人もいます。私は彼等を止めません」
「な、なんで止めないんですか? 思い止まらせれば良かったじゃないですか、そのために待ってるんじゃないんですか?」
 国定が再度長い溜息を吐く。その仕草が呆れと、怒りから漏れた苛立ちを含んでいた。彼は浦辺に諭すように言った。
「それで、誰が彼等の人生に責任を持つんですか? 私には出来ませんよ、そんな大それた事。神でもあるまいし、面倒です」
 誰も助ける気が無いのだと突き付けられて浦辺は戸惑う。頭の中がぐわんぐわんと揺れている気がする。悪酔いした時の感覚に似ていた。国定が続ける言葉の先を聞きたくなかった。忌避感と不快感しか無かった。まるで地獄の門と会話をしているような気分だった。
 浦辺の気持ちを踏み躙るように、国定は言った。
「私は人が死ぬのを見るのが好きなんです。死に向かう彼等を見ていると、人間の生きる価値を思い出せる気がします。唯一の娯楽ですね」
 人が死ぬのを見たいから、優子達は見捨てられたのだと、警察官は思った。我慢が出来なくなった浦辺は思わず声を荒げた。
「それは、そんな綺麗な言い方して良いことじゃないでしょう? 貴方はただ、人が溺れて死ぬのを眺めてるだけのようなものですよ!」
 思わず浦辺は立ち上がった。無感情そうな国定の視線が彼を見上げる。煙草を吸って、煙を吐き出して、まるでどうでも良い何かを見るように浦辺を見上げていた。強く拳を握り過ぎたせいで掌に爪が食い込む。だが殴るわけにもいかないので、大人しく腰を下ろした。浦辺は呻くように言った。
「意味が、分からない」
「私は理解など求めていませんが」
 国定はつまらないことのように言う。浦辺には国定を理解することが出来ない。どうにか彼を理解しようとして、哀れみ混じりの推論をぶつけた。
「・・・・・・本当は、貴方が一番救われたいんじゃないんですか? 毎日苦しんでいて、死にきれなくて、」
 最後まで言うことを国定は許さなかった。
「それは貴方の願望ですよ。私が泥濘んだ地獄で苦しんでいると、私は本当は真っ当な人間なのだと思いたいだけの願望ですよ」
 新しい煙草に火を点けながら国定は言う。
「残念ながら私は貴方の白昼夢では無いので。それに仮に苦しんでいたとして、私は貴方に話しませんよ」
 冬の夜のような冷たさと暗さを孕んだ声が言う。
「私の怒りや痛みや苦しみは、地獄は私のものです。気安く触られて同情されても、ただ虫唾が走るだけです」
 浦辺は明確な拒絶を突き付けられた。本当に理解出来ない相手には、厭わしさと不気味さと不快感しか抱けない。浦辺には気にせず、国定は「話が逸れましたね」とまた気を取り直すように言った。
「浦辺さんの答えで、一番大きな失点は浩介さんの『あと二回』を勘違いした点です」
 指摘された事項に、浦辺は思い当たる点が無かった。安田浩介の「あと二回」は虚言ではなかったのか。爆発物は何処にも無かったのだ。佐藤優子の家にも、安田浩介の家にも、菊原由美子の家にも無かった。だから「あと二回」も起きるはずがない。
 国定は煙と共に答えを吐き出す。
「あの『二回』というのは同一の事柄が二回起きるという意味ではないのです。優子さんの家族を殺すことが『一回』、優子さんの家を放火することが『二回』、そして『三回』。私なら、優子さんに同情などせずあらゆる事を調べます。もう既に手遅れかも知れませんが」
 浦辺が何のことか聞こうとした時、彼のスマートフォンが鳴った。間中からの着信だった。国定が「どうぞ出て下さい」と言う。訝しみながら浦辺は電話に出る。電話口の間中は酷く動揺していた。
『浦辺、今どこだ?』
「家じゃない。外に出てて、なあ、どうかしたのか?」
『安田浩介が盗んだ劇薬、見つかったんだ。佐藤優子の職場で』
「職場? なんで今更そんなところから」
『さっき通報があった。取引先から届いた菓子折を食った社長やら重役やらが泡吹いてブッ倒れたって。救急で調べたら盗まれた劇薬が検出された。優子が死ぬ前に送ってたんだよ、送り状から指紋が出た』
 間中は「早く家に帰れ」と言って通話を切った。浦辺はこれが「三回目」なのだと分かった。まるで予定調和のように。
 国定は煙草を深く吸い込んで紫煙を吐き出し、短くなった煙草を灰皿に捨てた。立ち上がった彼は上着に落ちた金木犀の花弁を払う。浦辺は彼を見上げる。
「これで良かった、と思ってるんですか?」
「彼女達の希望に沿う形には一応整えましたから。貴方の答えを元にした記者会見のお陰で優子さんに同情的な意見が世論に現れ、掲示板では英雄になりつつあります。恐らく半年はこの話題が続くでしょう。もしかしたら、もっと長く」
 浦辺は信じられないという顔で国定を見る。
「整えた、ってどういう意味ですか? 全部貴方がそうさせたんですか?」
「だとしても、貴方には私を訴追出来ますか? こんな街角の会話で? どうせ録音もしていないんでしょう?」
 三人の命が国定の望むように失われたのだと思うと、浦辺は優子達があまりにも哀れだった。そして、自分が国定の思惑に組み込まれて結末造りの一端を担っていると思うと気が狂いそうだった。
「優子さん達が祀り上げられるのは俺のせいですか? 俺が間違えたから?」
「いいえ、貴方のおかげで目論見通りになった。貴方は何も知らない正義漢だ。善良な普通の人の『同情的な意見』が欲しかっただけですよ。世間に長く消費される為には第三者の綺麗な意見が必要ですから」
 「貴方はその為に選ばれた」と国定に言われ、浦辺は舌を噛み潰したくなった。息が出来ない。佐藤優子も、安田浩介も、菊原由美子も、国定にとっては死ぬ価値があった。「死ぬ」以外価値が無かった。
 頭の中が混沌としてしまった浦辺の視線を受けて国定は言った。
「貴方はまるで邪悪なものを見るような目で私を見る」
 「それでは、私は仕事に戻ります」と国定が彼に背を向ける。浦辺はその背に問いを投げた。
「国定さん! 優子さんは、あの人達は本当に良かったんですか!?」
 葬儀屋は背後に向き直り、答えた。
「ええ。彼女達は満足でしょう。マヤ神話には、聖職者、生贄、戦死者、お産で死んだ女性、首を吊った自殺者だけが行ける楽園があるそうですよ。今頃、イシュタムに『戦死者』として導かれて其処にいるかも知れませんね」
 国定は一つの解答を浦辺に示した。
「生者が死者の感想など求めるべきではありませんよ。その所業でのみ語るべきです。優子さん達は赦されざる事をした、ただそれだけに留めておくべきです」
 国定は踵を返して帰って行く。不気味なほど軽やかな足取りで。優子もきっとこんな風に死んだのだろうし、浦辺は他の二人が軽やかに死んでいったのを知っている。取り残されたのは浦辺だけだった。
 癒えたはずだった左耳の傷が痛む。思い返すように、何度でも痛みは振り返す。










 生まれてきてすいませんでした。なんで私はこんなにも生き苦しいのか、さっぱり分からない。お父さんもお母さんもいつまでその馬鹿の世話焼いてんの。私は? 私のことは? 私、頭悪いしブスだけど大学の奨学金制度に選ばれたし就職にもお母さん達に面倒を掛けたりしなかった。勇太みたいに学校に呼び出されたりすることも無かった。生まれてきてすいませんでした。なわとびも百回跳べたし公文を一回もサボらなかった。総領息子ってなに? 何時の時代の話してんの? 生きててすいませんでした。そんな馬鹿の面倒を見て、クソみたいなYouTubeの動画とかニュースバラエティとか観てる暇はあるのに、私のことを見る暇は無いの? 生きててすいませんでした。なんなの? 馬鹿にしてんのか? 私にはそんなに価値が無いのか? だったらなんでお前等は私を作ったんだよ。生まれてきてすいませんでした。お母さん塾が終わったから迎えに来て。何時間でも待ってる。早く迎えに来て。馬鹿じゃねぇのか? 意味も無くガキなんか作んじゃねぇよ。生まれてきてすいませんでした。私は無意味で価値なんか無かった。人生に意味なんか無かった。早く死にたい。駄目だ考え続けろ。「大学に落ちるなんて今まで何をしてきたんだ」ってそれ本気で言ってんのか? 「育てるのに失敗してゴメンね」ってなんでそんなこと言うの。「何のために今までやってきたの」って、なんで、なんで。何も、何も、そんなこと言わなくても良いじゃん。私が悪かった? 私が悪かったの? 全部? 何もかも? 全部わたしのせいなの? なんでこんなに辛い目に遭わなきゃいけないんだ。生まれてきてすいませんでした。生きててすいませんでした。
 私が要らなかったんなら捨てるか殺すかしてくれたら良かったのに。

「会って、話をしませんか? 貴方に説教しようとは思っていません。ただ、貴方と話をしたいと思ったんです」
 Skype越しに聞いた声はお寺の鐘のようで、「ああ本当にスワンプマンさんて葬儀屋さんなんだな」と妙に納得したのを覚えている。スワンプマンさんは自殺サイトにリンクが貼られていた「広場」の管理人で、私は自分のアカウントを削除して欲しいと依頼していた。理由を聞かれた。私は正直に全てを答えた。「広場」は何処にも感情なんかない、知識と思考しかない場所だった。楽しかった。話の合う友達が二人も出来た。でもそれも駄目になってきた。私はもう耐えられなかった。私は自殺願望に追い付かれた。
 スワンプマンさんに私は理由を話した。出来るだけ沢山の人を殺して、多大なる迷惑を掛けて死ぬつもりだった。それを伝えると、スワンプマンさんからSkypeの申請が送られてきた。チャットで沢山遣り取りをした。スワンプマンさんは今まで会ったことのないような人だった。色々なことを知っていて、言葉を丁寧に選んで話す人だった。
 スワンプマンさんは私に説教なんかしなかった。普通の話ばかりしていた。私が大学で専攻していた数学のことを話しても、スワンプマンさんはすぐに理解して反応を返してくれた。お父さんも分からなかったような話でも、卒論で書いた話でも、何でも分かってくれた。会話が楽しくていつの間にか八ヶ月も自殺の予定を先送りにしていた。
 それでも結局死にたいと思った。家族や、世間に私のことを考えて欲しいと思った。私を憎んだり憐れんだりして欲しかった。「どうして?」と言って欲しかった。私のことを見て欲しかった。
 スワンプマンさんにそう言ってお別れを告げると、音声通話が掛かってきた。出ると「会いませんか?」と聞かれた。私は私の死体を棺に入れる人としてスワンプマンさんに自分の葬式をお願いしていた。最後になるし、会っても良いかなと思った。
 スワンプマンさんは、国定さんはとても背の高い男の人だった。数珠を持って、喪服を着ていた。額縁に納められた、海の写真のように静かな印象の人だった。私の好きな近所の公園にまで来てもらった。国定さんが暮らしているところからはすごく遠いはずなのに、来てくれた。私のために。これから死ぬ私と、ただ話すためだけに。どうして彼はこんなにも優しいのだろう、と思った。
 金木犀のところに置かれたベンチに座って二人で話した。最初はすごく緊張したけれど、国定さんが話を振ってくれるからどんどん話せて、緊張も解れた。国定さんは「広場」のスレッドに時間さえあれば目を通しているらしい。私の立てたスレッドやコメントも読んだと言っていた。褒めてくれた。
「キリンリキさんのコメントはいつも感心しながら読んでいます。頭の良い方なんだな、と」
 男の人にそんな風に褒めてもらったことが無かった。だからつい声が上擦って言葉がぐちゃぐちゃになった。
「そっそんなことないですッ、えぁっ、えっと、ほっほかの人にくりゃ、比べたら全然ッそんなことッ」
「案外希有な方ですよ、キリンリキさんは」
 国定さんは普通にそんなことを言う。国定さんはとても優しくて静かな人だな、と思った。お父さんやお母さんやあの馬鹿とは全然違う。私の周りには、こんなに私のことを見てくれる人は何処にもいなかった。ずるずると私の頭の先から何かが解けていくような気がした。
「それで、キリンリキさん・・・・・・優子さん」
 唐突に本名で、下の名前で呼ばれて私の肩が跳ねた。酷く上擦った声で「はい!」と返事をしてしまった。国定さんは気にしていないようだった。
「優子さんはまだ死にたいと思っていますか?」
 国定さんの凪いだ海のような問い掛けに、私はただ「はい」と答えた。いつだってその感情は私を追い掛けてくる。私は、私は、この次の瞬間に死ねるというのであれば死にたかった。
「死にたい。私、誰かに見てもらいたいから、考えてもらいたいから、死にたいです。生きてるのが辛いから死にたい。何でも良いから死にたいです。だから私、高速バスの中で、焼身自殺しようって、」
 国定さんが私の顔をじっと見ていた。疲れたような顔をしている国定さんの目は深い沼のように暗い。冷たい色の肌をしていた。死んでいる人のように白い顔。短い黒い髪。小さな皺。私と同じ人間には見えなかった。
 国定さんが口を開いて息を漏らすとミントタブレットの匂いがした。
「それだけで十分ですか?」
「えっ?」
「自殺するだけの同機としては結構ですが、やり方としては大して話題にならないと思います。二、三ヶ月程度で忘れられる話題になるように思えます。貴方のその、『多くの人に自分のことを考えて欲しい』という希望に沿うにはもう少し工夫が必要なのでは?」
 国定さんの言葉は、とても無機質だった。私を止めることはない。むしろ、私が望むことをもっと克明にしようとしていた。国定さんは顔を公園の出入り口のほうへと向けて話を続けた。
「例えば、ご友人を誘っては如何ですか? ほら、『虚無虚無トレイン』さんと『あそぱそまそ』さん、でしたね。その二人なら誘いに乗ってくれるのではないですか?」
 その二人のことを国定さんは知らないものだと思っていた。二人とは「広場」の外でも話していた。「広場」であったスレッドやコメントのことについても。それは「広場」での禁止事項に抵触する可能性があった。私は少しだけ怯えた。「Skypeのアカウント教えて」と持ち掛けたのは私からだけど、私のせいで二人がアカウント削除されるのは嫌だった。
 国定さんはそのことについては何も言わなかった。
「『正体不明』になると効果的かも知れませんね。皆が貴方のことを考えるようになると思います」
「『正体不明』・・・・・・」
「その手段についてですが、そうですね、時間差での集団自殺は如何でしょう? あの二人もそろそろ限界が近い。貴方の生活環境を破壊するのが一番手っ取り早いと思いますが、それは少し労力が掛かりますね。消費する『モノ』も多い」
 何かが、「すとん」と私の胸の中に落ちた気がする。私は納得したのだ。国定さんは、私よりも、私が「本当はどうしたいのか」を考えてくれているのだ。私はずっと良い子でいたかったから、私のしたいことをよく見ようとしていなかった。それを国定さんがゆっくりと言葉にしていってくれる。
 私は、この人の言葉の通りにすれば、最期は救われるのかも知れない。私のことを誰よりも理解してくれるから。
「巻き込むものが多ければ多いほど、私は『正体不明』になれますか?」
 国定さんは私の質問に少しだけ考えてから「ええ、きっと」と答えてくれた。私は、自分が働いている会社に酷いことをしようと思った。家族に矛先が向くように考えた。私は酷く静かで穏やかな気分になって、国定さんにまた質問した。
「私がこれからすることを、国定さんは赦してくれますか? 認めてくれますか?」
 縋るような気持ちで聞いた。国定さんは、最初から決まり切っていた台詞を言うように、短く答えた。
「ええ、勿論」
 私はとても満たされた気持ちになった。私はずっと、誰かに赦して背を押して貰いたかったのだ。


 部屋の中に差し込む夕陽が綺麗だと思った。私はドアノブに延長コードを巻いて頭を通す。今まさに沈んでいく太陽の光が私の顔を照らしている。夕焼けがあんなにも綺麗だなんて、今まで知らなかった。私の頭の中には途方も無い安堵が広がっている。今から私は沢山の人に私が誰なのかを考えてもらう。私が何者なのかを。
 国定さんに赦してもらえて良かった。












 なんで僕が生まれてきたのかよく分からない。僕は両親に捨てられたか、置いて行かれた。僕は気付いたら児童養護施設にいた。育児放棄か、蒸発か、経済的理由かなんて、僕には関係ない。僕に分かるのは、僕には両親がいないということ。僕には社会的保障が何も無いということ。僕には家族や親類が誰もいないということ。どうして、と僕は思った。僕には親がいない。家族がいない。施設の人達は良くしてくれるけど、みんな手一杯だった。嫌な上級生もいた。夜間高校を卒業してやっとの思いで就職した。
 職場はどうしようもない人でいっぱいだった。僕のせいじゃない。親がいないのは僕のせいじゃない。けれどみんな僕が馬鹿なのは親がいないからだって言う。昨日と言ってる指示が違うのは向こうなのに。礼儀が分からないなんて親がいないせいじゃないのに。なんでこんなに社会って難しいんだろう。僕がどうにもできないことを、僕に言わないでよ。親がいない、親戚がいない、血の繋がった誰かがいない。それだけで仕事も家も見付けるのがこんなにも難しい。僕が悪いわけじゃないのに。
 一緒に働いている人達のことを考えたら働くのが嫌になって、会話も辛くて、まともに仕事が出来なくなった。僕は自分を落ち着かせるための方法を沢山探した。一番良かったのは図書館で本を読むことだった。頭の中に新しい知識を入れると考える隙間が無くなる。ぼーっとしていると嫌なことばかり考える。職場の人のことを考える。そんな余裕を無くすために僕は本を読み漁った。哲学の本は良かった。頭を一所懸命に使わないと意味が分からないからだ。僕は考えないようにするために考えた。
 仕事終わりに毎日図書館に通いたかったけど、残業があると終わる頃には閉館している。そういう時はスマートフォンを持って近所のコンビニに行った。店内には入らない。外からフリーWi-Fiだけを使う。僕の家には必要最低限の物しかないし光熱費も節約する必要があった。一番安い、容量の小さいスマートフォンでインターネットを見ていた。お金を掛けないで知識が欲しかった。
 誘惑に駆られて、自殺サイトを検索したことがあった。そこで「広場」という掲示板を見付けた。みんな優しかった。誰も僕のことを詮索したりしない。僕のコメントが正しければみんなが正しいと言ってくれる。間違いなら間違いだと言ってくれる。みんなで一つのことを考えている。誰も誰の侮辱をしない。優しい人ばかりだった。単純に関心がない、というだけなのだろうけど、僕はそれが心地良かった。考えること。考え抜くこと。それ以外はどうでも良い。ランナーが走り続けるように、此処にいる人はみんな考え続けている。考え続けなきゃいけない。死にたくなるから。
 「広場」の外で話すのは悪いと思ったけれど、一番面白いコメントを書く人に誘われたら誰だって乗ってしまうと思う。キリンリキさんは男性かと思ったら女性だった。キリンリキさんはとても素敵な考え方をする人だった。一本の鋼線のようにしっかりとまっすぐに整った言葉を書く人だった。反論なんか誰も出来ない。僕もこんな風に考えられるようになりたかった。
 キリンリキさんは「広場」の外で話してみると、心の底から死にたいと思っている人だった。僕はその気持ちが良く分かった。僕も同じだったから。僕も、ずっと死にたいと思っていた。僕は「広場」からの刺激だけで生きているようなものだった。「広場」では沢山の話が出来る。それに「懸賞」のスレッドもあった。スレッドを立てた人が問題を出して、その問題に良い解答が出来れば賞品が貰えるのだ。「懸賞」のスレッドはすぐに消えてしまうので見付ける度に急いで参加した。僕のコメントはなかなか「正解」にはならない。出題者は公平だけれど、それでもやはり出して欲しい「答え」がある。結局、僕は一度しか正解を出せなかった。仕事を辞めた時だった。少ない貯金を切り崩して生きていた。
 キリンリキさんは死ぬ計画を立てていた。僕がどうしたところでキリンリキさんは生きる希望を持てないのが分かっていた。彼女が「お葬式について」というスレッドを立てた時も、僕は彼女を説き伏せることが出来なかったし、そうしようとも思わなかった。僕も同じ気持ちなのに、ただ慰めの言葉を掛けるなんて、キリンリキさんに失礼だと思った。「もう二度とキリンリキさんには会えないかも」と思いながら毎日彼女を探したし、Skypeのチャットにメッセージを送り続けた。仲良くなった人が死のうとしているのを止められないけれど、後を追うことは出来る。彼女の痛みは分からないけれど、同じ傷は自分で付けられる。
 そしてキリンリキさんは死んだ。僕に「薬品を分けて欲しい」と頼んで。それから「好きなようにして、後を追って欲しい」と頼んで。キリンリキさんは自殺した。僕は仕事を辞める時、職場から薬品をいくつか盗み出していた。部品の加工に使うもので、杜撰な管理をしていた。保管庫に鍵を掛けていたとしても誰でも鍵に触ることが出来た。職場の人が馬鹿なんだという証拠だ。僕は盗んだ薬品を「懸賞」の賞品にするつもりでいた。なかなか良い問題が浮かばなかったからずっと家に置いたままにしていた。キリンリキさんにはその話をしたことがあった。だから「譲って欲しい」と彼女は僕に頼んできた。僕は喜んでキリンリキさんに郵送した。何をする気なのかは分かっていた。
 キリンリキさんが自殺の予定を教えて、その予定通りに死んだことを確認した僕は、「懸賞」の賞品を使って彼女と同じことをしようと思った。その矢先に、「広場」の管理人からSkypeのメッセージが送られてきた。
『初めまして。少しお話ししませんか?』
 管理人をしているスワンプマンさんと話してみたいと思って返事をして、その後すぐに後悔した。僕は「広場」で知り合ったキリンリキさん達と「広場」の外で話している。それはルール違反だ。でもこうも思った。「もうすぐ僕は死ぬんだから、アカウントを消されても良いんじゃないかな」って。
 スワンプマンさんは落ち着いた大人の人だった。キリンリキさんとも友達だった。スワンプマンさんはキリンリキさんのことを話してくれた。僕は自分がこれから何をするつもりなのかを話した。「懸賞」の賞品を使って沢山人を殺すつもりだと。スワンプマンさんは一つの提案を僕にしてきた。
『キリンリキさんの最期をもっと劇的なものにすれば彼女は喜ぶでしょうね。彼女が望んでいたことを補強するのにも都合が良い』
  スワンプマンさんはキリンリキさんとした話を僕にもしてくれた。それはとても、僕が欲しかった話だった。僕はキリンリキさんと同じことがしたかった。同じところへ行きたかった。僕も僕のことを誰かに考えて欲しかった。
『どうすれば良いですか?』
『相手を変えて、同じ事を』
 スワンプマンさんはキリンリキさんの葬儀の日程を教えてくれた。僕は僕がすべき、劇的なことをすることにした。僕にはもう何も無い。ただ、キリンリキさんと同じ夢を見たい。


 白燐弾って結構重いんだな、と初めて知った。送ってきてもらった時も重い重いと思ったけれど、抱えて歩くには重い。ついつい猫背になってしまった。ジャケットの前を開けていれば案外みんなシャツの膨らみに気付かない。記名には何の意味も無く線を書いた。キリンリキさんの家族を殺すのは滞り無く終わる。ただ銃を撃つのはとても難しく、反動が凄いのと人を一気に三人も殺したせいか腰が抜けてしまった。雨垂れが聞こえる。綺麗な音だな、と生まれて初めて思った。
 スワンプマンさんからSkypeの着信があって凄く驚いた。僕に銃を向けている刑事さん達に撃たれないようにしながら出た。
「もしもし」
『虚無虚無トレインさん?』
「あっはじめまして、ええそうですそうです」
『こうしてお話しするのは初めてですね』
「すごい、チャットしかしたことなかったのに、ふふ、びっくりしましたよぉ。ありがとうございます」
『順調ですか? 警察に包囲されていますが』
「はい、はい、まあ、そうですね」
『自殺は難しそうですか?』
「想定内ではありますけど」
『死ぬ前に誰か解答役に巻き込めそうですか?』
「まあ良い人はそんなにいないっていうか、ほら、一般の人達ですし」
『目の前に警官はいますか?』
「え、ああ、機動隊みたいな人と話しました。結構長めに」
『長めにですか』
「はいはい」
『ではその方にしましょうか』
「えっそうします? 」
『嫌ですか?』
「良いですけど、ちゃんと最後まで考えてくれるかなって疑問があります」
『そうですね。ヒントを出してあげるとか、連続化するか、どうしましょうか?』
「連続化させるしかないんじゃないですか?」
『連続化の方向で。その分答えも期待してしまいますね』
「 終わらせないために」
『そうですね。長く世間の話題になる為に』
「ええ、ええ。提案します」
『積極的ですね』
「続けましょうよ。折角なんですから。考えてもらいましょう。この刑事さんに」
『ええ、彼にもキリンリキさんのお葬式に参加してもらいましょう』
 スワンプマンさんに刑事さんのことを聞くよう頼まれた。
「刑事さん、階級とお名前を教えてくれますか?」
 刑事さんはすんなり名前を教えてくれた。
「ウラベさんですって。写真とか入ります? 」
『いえ、大丈夫です』
「あっ大丈夫ですか」
『掲示板の有志の方が広報誌をお持ちでした。彼、表彰されてるみたいで写真付きで載ってます』
「あー広報誌あるんですか。載ってるんですか。不用心ですねぇ、だからこんなことになっちゃうのに。ははは」
『ええ、本当に。それでは、お疲れ様でした』
「はい、はい、じゃあお疲れ様でしたー」
『最期に一つ。虚無虚無トレインさん、浩介さん。私は、此処で貴方のことを見ています。貴方の傍にいます』
 通話が切れた。僕はすごく満足感を得ていた。こんなにも、何かをやり遂げた気持ちになれるなんて。誰かとこんな風に関わり合いになれるなんて。きっとこれが、僕の欲しかった終わり方だ。社会をほんの少し傷つけることが出来たらもっと良い。僕が社会と関わるには、これくらいしか思い付かない。みんなに僕が何者なのかを考えて欲しい。僕がどんな存在だったのかを考えて欲しい。
 どうか、目の前の刑事さんが死んだりしませんように。僕は祈りながらピンを抜く。清々しい気分で僕は終わる。
 スワンプマンさんと最期に話せて良かった。











 何もかもがムカつく。家は嫌いだった。家族は嫌い。実の家族は嫌い。義理の家族も嫌い。私にあれこれ指図するな。私の道を私が選んで何が悪い。私は自分の足で立ってるんだぞ。私の歩き方にいちいちケチを付けるな。馬鹿野郎が。大学出たんだよこっちは。大黒柱気取ってるドブ親父より学歴上だぞ。二度と私に関わるなよ。絶縁で良い。関わってくるな。母親も一緒に捨てる。縋るなよこっちはテメー等の介護要員で生まれたわけじゃねぇんだよ。

 疲れていた。実家と絶縁した私はとても疲れていた。好きな人と結婚した。忙しさは人を変える。彼は私に割く時間が無かった。実の母親にも。彼が馬車馬のように働くお陰で我が家は裕福だった。彼のたった一人の家族だと言う母親は、病気で介護が必要だった。私には介護出来ない。私にはそんな優しさが無い。誰かを思いやる気持ちなんか分からない。誰かの世話なんか、焼けない。夫は自分で何でも自力でやってしまう。それが凄く楽だった。でも確かに彼のことが好きだった。お互いの距離を保ったままでいられるところが好きだった。でもそれは悪い方に作用しやすい。
「俺の世話は良いから、家のメンテナンスを頼む」
 仕事を辞めて家庭に入った私は夫にそう頼まれて、妻である私はどうすれば良いのだろう。話し合いなんかする余裕は夫にはない。私は家の家計が崩れないように注意しながら無くなった物資を補給したり料理をして食事を用意したりしか出来ない。義母の世話なんか出来ない。彼の母親を嫌いになりたくない。ヘルパーを頼むか老人ホームに入所するか、ともかく私が関わらなくて良いようにしたかった。でも駄目だった。義母から猛烈な反発に合った。最後は決まって私と夫が折れた。
 素人がやってもし怪我をさせたら、もし死なせたら、嫌な部分を見て悲鳴を上げたりしたら、そう思いながら世話をしていた。夫に責められるのは嫌だ。義母に厭われるのは嫌だ。私には居場所が無い。立場が悪くなっても、逃げる先が無い。私にはこの家しか無い。結婚前の貯金を使えば別に部屋を借りることは出来ただろうが、流石に何年も暮せはしない。私は此処にしかいられない。
 最初、義母は大人しかった。車椅子に座って初めて挨拶に来た私を出迎えてくれた。
「息子は無口なもので・・・・・・どちらでお知り合いになられたの?」
「医局です。私は病理で働いていて・・・・・・」
「あらそう。ご立派ね」
 確かそんな会話をしたはずだ。勘に障ったから覚えている。この人は、人のランクを自分で決める人だと思った。私の親と同じタイプ。彼の親を嫌いになりたくないと思って記憶に留めないようにした。義母は同居して、徐々に遠慮をしなくなった。作る料理の味付けにケチを付ける。家事のやり方にケチを付ける。夫の帰りが遅いのは私のせいだと言う。面白い冗談だな。私はすぐに料理を全てレトルトにしてルンバを買った。夫からの了承は得ていた。義母の世話はした。着替えや入浴の介助、下の世話だって。「他人にそんな恥ずかしいこと頼めない」と言う義母にとって、私は何なのだろう。他人じゃないのだろうか。
 体質なのか、私と夫の間には子供がなかなか出来なかった。授かり物だから仕方が無いよね、と二人で話をして、急いで作ることもないという結論に達した。違うのは義母だけだった。週に何度か、私が子供を産まないことについて小言を言ってきた。日が経つにつれてその間隔は狭くなり、最終的には毎分ごとになった。私は疲れていた。だからきっと「子供を作らないとな」なんて馬鹿な気分になっていたのだ。子供はそんなパンみたいに作るものじゃないと、私はよく分かっているはずなのに。
 不妊治療は辛かった。肉体的にも精神的にもだ。よくこんなものを我慢する気になるなと自分を褒めてやりたくなるくらいには。子供が嫌いなわけじゃない。夫との子供が欲しくないわけじゃない。ただ、最初の動機が最低だったと後悔している。
 気晴らしにネットサーフィンをするようになった。グロ画像を載せている掲示板を眺めて小馬鹿にしたり、自殺サイト巡って死ぬつもりの人間を煽ったり、CiNiiで論文を漁ったり。その内、「広場」という掲示板に流れ着いた。「広場」は楽しかった。誰もが平等だった。私のコメントを丁寧に扱ってくれた。対等に殴り合えた。
 不妊治療の末に生まれたのは女の子だった。正直、二度目は出来ないと思った。こんなに疲れることを、家のメンテナンスをしながらなんて到底出来ない。今でさえ滞っているというのに。夫は娘のことを喜んでくれた。育児をしたいと思っていても職場が職場なので休みなんか取れない。仕事から離れられない。母親の醜い部分の話はしたくない。
 漸く私は、夫が「弱さに耐えられない人」なのだと分かった。何かと戦わなければならない時に逃げてしまう。私が新婚当初に詰め寄れば逃げっぱなしにならなかったのではとつい思う。
 「広場」は良かった。私みたいな人が沢山いる。暴力衝動を発散させるのに最適だった。相手を二度と立てなくなるまで叩きのめしたい。男だとか女だとかは置いといて、自分の知識と思考で相手を叩き潰してやりたい。夫や彼の母親や娘相手には出来ないことだ。夫は私が何かを言う前に仕事へと逃げていくようになった。彼の母親は私のことをなじり続けた。「どうして男を産まないんだ」と。
 子育ては辛くて堪らない。夜泣きも辛いし授乳も辛い。相手が言語を用いた意思疎通を全く行えない、というのはかなり堪えた。反動で「広場」に入り浸った。寝る間も惜しんで。理性が起きている間は娘と彼の母親の世話を焼く。精神がどんどん摩耗する。「広場」で好きな投稿者のコメントを探して気を紛らわせた。中でも「キリンリキ」と「虚無虚無トレイン」の二人が好きだった。彼等の話し合いを眺めて飛び入り参戦したことが何度もあった。楽しかった。二人で二重奏でもしているような遣り取りをぶち壊しにするのが。それでもキリンリキさんに言い負かされて三重奏へとなってしまうのが。虚無虚無トレインさんに丁寧に踊り方を教えられるように議論を誘導されるのが。
 Skypeに誘われて三人で喋ることがあった。キリンリキさんも、虚無虚無トレインさんも、私より若いのに死にたがっていた。私には二人の気持ちが分かる。私も同じだった。頭の何処か深いところで、ずっと死にたいと思っていた。子供の時から。
 キリンリキさんは死んだ。虚無虚無トレインさんも死のうとしている。私も死のうと思った。もう私の頭の中は死の妄想で一杯だった。そんな時、「広場」の管理人である「スワンプマン」からメッセージが送られてきた。
『初めまして。少しお話ししませんか?』
 私は最初、三人で勝手に話していたことがバレたのかと思った。規約違反だ。私が『すみませんでした。アカウント削除して頂いて結構です』と返信すると否定が返ってきた。ただ私と話したいだけらしかった。私はスワンプマンさんの申し出を受けることにした。
 スワンプマンさんはキリンリキさんと虚無虚無トレインさんのことを知っていた。私がどうするのかも、何となく察しているようだった。娘が生まれてから私の頭の中は一気に崩壊していった気がする。無性に夫が憎たらしくなる。彼の母親を甚振り殺したい。突発的に娘を殺しそうになることが何度もあった。娘を虐待したいわけじゃない。殺したいわけじゃない。でも育て続ける自信がもう無い。
 スワンプマンさんは二人と話したことについて教えてくれた。二人がこれからどうするつもりで死ぬことを選んだのか。私は誘われていない。キリンリキさんは、虚無虚無トレインさんは、私には何も頼まなかった。私だって二人と同じところにいたいのに。
 スワンプマンさんは私にその理由を教えてくれた。
『お二人は貴方に家庭があることから誘うことをやめたそうです』
 私はそれを聞いて頭に血が逆流しそうになった。私はすぐに頭の中に留めていた「やってはいけないこと」をやろうと思った。悪い奴になりたかった。三人の中で一番悪い奴に。
 スワンプマンさんにそう伝えるとスワンプマンさんから『残念です』と返信があった。
『キリンリキさんと虚無虚無トレインさんがやり残したことをしませんか?』
 スワンプマンさんにそう持ち掛けられた。何をやり残したのかを聞いて、私は頷いた。最高だし楽しそうだ。私にはスワンプマンさんの魂胆が分かっていたが二人と並んで歩けるのなら何でも良くなった。

 此処がキリンリキさんの育った家。暮らしていた部屋。死んだ場所。重かったガソリンは撒けば撒くだけ軽くなる。たっぷりとガソリンを撒いた後で、窓から夕陽が差し込んでいることに気付いた。綺麗な夕陽だった。涙が出そうになるくらい。自分の両足首を結束バンドで縛り、両手にも結束バンドを通した。そして火を点けようとしたところでスワンプマンさんからSkypeに着信があった。
『私はあそぱそまそさんの、由美子さんの傍にいます。貴方を見ています』
「私の死ぬところを?」
『ええ』
 私はスワンプマンさんの鐘のように冷たく響く声を聞いて、その余裕を壊してやりたいと思った。
「ねぇ、スワンプマンさん。本当は全部スワンプマンさんの願望なんじゃない? 『キリンリキさん達のやり残したこと』なんかじゃなくって、『スワンプマンさんがやらせたいこと』なんじゃない?」
 スワンプマンさんは黙っていた。
「私達を全員始末したかった。スワンプマンさんのルールを破る身勝手なキリンリキさんを作った家庭環境にもムカついていた。皆殺しだ。目障りな奴がみんな消えたらスカッとするよね」
 彼は私が話し終えるまで沈黙していた。そして言葉を返した。
『貴方の想像通りだとしたら、今しようとしていることをお止めになりますか?』
「まさか! こんなにも晴れやかな気持ちになったのは久し振りなのに!」
 私は笑い出してしまう。私はキリンリキさんと虚無虚無トレインさんと、同じ場所で他人に語られたい。夫にとって私はどんな存在だったのか。世間にとって私達は何だったのか。私達に価値はあったのか。それが長ければ長い程に、良い私達のセレモニーになる。
「一番の特等席で私達の結末を見てるのね、スワンプマンさん。楽しい?」
『ええ、とても』
「良かった。それじゃ、今からやるキャンプファイヤーも楽しんでね。その特等席から逃げないでよ」
『勿論。それでは』
 通話が切れる。スワンプマンさんは一度も声が揺らがなかった。負けだ。彼は私達三人のことを対等だとは思っていない。ゴミみたいな虫けらか何かなのだ。
 私はこの日のために買ったジッポーに火を点ける。そして放り投げる。すぐに両手の結束バンドを歯で噛んで締める。自分が逃げ出さないように。
 炎が広がっていく。酷く熱い。すぐに気にならなくなる。「世界が終わる」というのはこんな時に言うのだろう。今までに無い程に気分が良い。頭が凄く軽い。歌でも歌いたい気分だが煙が酷くて咳き込んだ。
 私の体に火が移る。私の終わり方は私に相応しい。私が選んだ終わり方だ。私は満足している。もうすぐキリンリキさんと虚無虚無トレインさんに追いつける。同じ場所に立てる。
 最期にスワンプマンさんからチャンスを貰えて良かった。










終幕






登場人物紹介


浦辺 誠司(主人公)
・巻き込まれちゃった人
・独身恋人無し
・パソコンがあんまり得意ではない
・陽キャ
・掲示板「広場」適性無し
・人の気持ちを考えるのが下手


間中
・アニオタ
・独身恋人無し
・実家が激太
・友達がマジで浦辺しかいない。あとツイッター。
・掲示板「広場」適性有り


上司
・部下がアホで大変
・妻子有り
・スマートフォンがよく分からない


国定 青沼(くにさだ せいしょう)
・主人公からぶっちぎりで死んだ方が良いと思われている人
・罪悪感はさて置きしている上にいつも大体静かにキレてる
・人間が地雷なので爆発する瞬間だけ見ていたい
・妻帯者
・掲示板管理人(怪人シンク)


佐藤 優子
・罪悪感がない人その1
・親も弟も全部クソじゃクソ! 皆殺しじゃ!
・人間は大体死んだ方が良いと思ってる
・楽園でオフ会中
・青沼の勘に触った人その1


安田 浩介
・罪悪感がない人その2
・社会キツキツキッツ! えっマジなんでこんなキツいの?
・人間は大体死んだ方が良いと思ってる
・楽園でオフ会中
・青沼の勘に触った人その2


菊原 由美子
・罪悪感がない人その3
・家庭マジで死ね~~~~~~! 須く殺戮! 火に呑まれろ!
・人間は大体死んだ方が良いと思ってる
・楽園でオフ会中
・青沼の勘に触った人その3



Q.怪人シンクってな~~に?
A.考え方がズレてること。やっちゃいけないことをしたりさせたりで忙しい。凡そ人ではない。

インスタントヒーローの分際で喚くな
本人が望んだ事なので……
もっと呪いたい
slot-maker.com/slot/34043/ #倫理観が無すぎる #スロットメーカー

「救いを希求しながらもいかなる安易な救いも拒む。」
「わたしには傲慢と善意しかない。」
ウンガレッティ





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