舌無しとハイエナは静かにやって来る

「赤色灯の光は目に染みる」
 そう言っての助手席のロコは大欠伸した。退屈そうな相棒に運転席のアギーレは肩を竦める。彼等は規制線が張り巡らされた現場のすぐ近くに車を駐めていた。今夜は大物殺しがあった。悪徳議員が自宅で首を刎ね飛ばされた。お陰で街は蜂の巣を突いたような大騒ぎ。警察車両ばかりの中で、アギーレ達の乗るマスタングは悪目立ちしていた。


 アギーレとロコは警官ではない。二人は半官半民組織所属の始末屋だ。24世紀にもなると人体改造は一般的に普及し、法を犯すために改造する連中も出てきた。公務員は職務上の理由で身体改造に大きな制限が設けられている。そのため、改造マニアの駆除は外注が当たり前になった。


 アギーレが「今日のは手強そうだ」と視線をロコに向けると、彼女はサングラスとジャケットのフードを被って本気で寝る体勢に入ろうとしていた。
 怠惰な相棒を叱ろうとしたところで、近付いてきた警官が助手席の窓を叩く。不機嫌にロコが窓を開ければ警官は茶封筒を差し出した。
「今回の被疑者だ」
「値段は?」
「二十五万」
 金額を確認しながらロコは受け取った茶封筒をそのままアギーレに渡す。標的についての詳細を確認するのはいつも彼の役目だった。
「たった二十五万? そんな小物に『舌無しアギーレ』を使うのか?」
 「能無し」とロコは誹る。警官は怒鳴ろうとして、サングラスを外した彼女にガンを飛ばされて恐れ戦き、「じゅ、獣人!」という控えめな悲鳴を漏らす。そして彼は逃げるように離れていった。身体改造の中でも獣人化は発狂する可能性と加害性が強まるためいつでも恐怖される。
 獰猛なハイエナの瞳孔にロコは嘲りを浮かべて相棒に訊ねた。
「で、今回は?」
 彼女の質問に相棒は報告書のあるページを見せることで答える。其処には「バイオメカニックニンジャ」と書かれていた。
「ロコ、ニンジャきらーい」
 渋面する相棒に、アギーレはやはり肩を竦めた。



つづく(800字)


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