他人の意見を尊重しないのは、向上心のない怠け者だ
虚像の道化師 東野圭吾
湯川学をもっと知りたくって ここまで遡ってきた。
ここの湯川センセイ、あれ?やっぱりやさしいし、人間味がある。私が勝手に描いていたイメージはもっとクールで、堅物で研究一筋で。最新作で年を重ねて柔らかくなったのかなぁと思ったけど、ここでもやさしかった。
湯川のやさしさは、私の好きなやさしさだ。
ベタベタしてない。厳しく強い。
7編の短編集で、読み応えがあり初期のガリレオの科学トリックが楽しめる。
『心聴る』で草薙の警察学校時代の同期である所轄刑事の北原が登場する。北原は出世した草薙を内心面白く思っていない。
幻聴が理由で暴れた犯人を取り押さえ怪我をしてしまった草薙の代わりに北原が、湯川に捜査協力をお願いしたときに湯川が北原に言い放った言葉がいい。
誰かがアイデアを出した場合には、とりあえずはそれを尊重しなければばらない。検証することもなく、ただ自分の考えや感覚と合わないからというだけでの理由で人の意見を却下するのは、向上心のない怠け者のやることだ。
人の意見に耳を傾け、自分のやり方や考え方が正しいのかどうかを常にチェックし続けるのは、肉体的にも精神的にも負担が大きい。それに比べて、他人の意見には耳を貸さず、自分の考えだけに固執しているのは楽だ。そして楽なことを求め続けるのは怠け者だ。
これだ。こういう厳しさが好きだ。プロの研究者としての湯川の在り方。自己中的な湯川だけど、こうした他者を見る目がある。他者を認めるということは面倒なことだ。私は果たしてそれをしているだろうか。面倒なことを避けて怠け者になっている部分もある。反省。
北原が、『運が良いから、人に恵まれている。ただそれだけだ』と湯川の意見も尊重し感謝して少し変わったのが見受けられ、変われる、ということもすごいなと思ったし、清々しい。
草薙は、人に恵まれているのでなくあのふたりをうまく扱うのは結構大変、というオチがあるのもさすがだ。実におもしろい😆