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星を掬う[読書感想]

nicoです。
今回は、昨年度「52ヘルツのクジラたち」で本屋大賞受賞された町田そのこさんの「星を掬う」の読書感想を綴ります。
内容に触れる感想です。ご了承ください。

①本の紹介
「星を掬う」町田そのこ

②登場人物

○芳乃千鶴 夫のDVにより離婚が成立しているが、度々訪れる夫に悩まされている。
○弥一 千鶴の元夫。
○川村主任 千鶴が勤務する製パン工場の上司
○岡崎 千鶴が勤務する製パン工場の同僚
○野瀬 ラジオ番組ディレクター 千鶴の母との別れを描いたひと夏の思い出をラジオで取り上げた。
○芹沢恵真 美容師。千鶴の母と暮らしている。ラジオで千鶴の話を聞き、娘と確信し連絡する。
○九十九彩子 母の所有するアパートの住民。母の身の回りの世話をしている。
○母 幼い頃に別れたが、恵真の計らいによって再び出会うことに。数年前より認知症。
○結城先生 母のかかりつけの医者
○美保 彩子の別れた娘。

③本の内容

千鶴は、製パン工場で働き、生活を切り詰めながらの生活を送っている。DVや借金が理由で別れた夫は、度々千鶴の元へ金をせびりにくる。
渡すお金に満足のいかない夫に再び暴力を振るわれ、自暴自棄になり製パン工場を辞めた。別れた母とのひと夏の思い出を綴った投稿がラジオで採用され、それを聞いた恵真に会うことに。恵真は、別れた母に育てらた子で、血縁関係は母ともない。現在も同居し、美容師として働いている。千鶴の風貌を見て、野瀬と共に現在母が住んでいるアパートにかくまうことに。偶然が重なり再会した母は、認知症を患っており、記憶が曖昧であることが多くなっている。しかし、そんな同居生活の中から離婚に至る経緯や一人の人としての生き方などを知っていく。

④感想

壊れたと感じている人間関係があると、それを起点に人生をより良くするきっかけが持てずに生きることが多いと思います。そんな経験がある人にぜひ読んでほしい本です。

この本は、家族不和からのそれから出会う人との関係を築いていくことが難しくなっている千鶴を中心とした物語でありながら、登場人物の全ての女性がそのような経験や苦味を感じているというとことが明らかになっていきます。

千鶴と違い恵真は、自分の母から愛情を受け、現在は美容師として素敵な人生を送っているように感じていました。
そんな恵真も、自分の両親から離れるきっかけがあり、千鶴の母との出会いがあり自立し、今も自分のトラウマと共に生きている傷ついた女性でした。

一見すると、他人は自分より幸せで自分だけが辛い。
そんな気持ちに私自身も感じていたことがありました。

千鶴にしてみれば、自分は捨てられてから、祖母に母の文句を言われながら育ち、自分の思うような洋服や化粧もできず祖母の言うままの存在であるために窮屈な人生を送り、自分の結婚生活も苦しい思い出しかないのに、なんでと思ったに違いないと思いました。でも、そんな千鶴の気持ちを全部知るか知らないかの恵真は、恵真なりの歩み寄りをします。

この二人のやりとりは、欲しかった人からの愛を受けられなくても、人は一人ではなくて色々な人から愛を享受することができる可能性を感じ、とても心がざわつきました。

一方で母は、認知症を患いながらも懸命に千鶴と向き合おうと努力しました。
その姿は、決してわかりやすいものではなかったにせよ、母を辞めた理由が少しずつ明らかになっていきます。

母は、自分の母から、私の子どもとしての正しい在り方をずっと強いられてきました。
そんな自分が結婚した義理の母もそのような人でありました。
母は、自分の母を亡くしたことをきっかけに、自分が自分であるための過ごし方がわからなくなってしまいました。そして、自分自身で生きるきっかけになった離婚により、その後の人生を歩んでいきます。

人は、いつまで親と一緒にいれば健全でいられるのであろう?
私は、幾度となく本を読み進めながら、そんなことを考えました。

母の世話をする彩子は、出産の予後が悪かったことをきっかけに義理の両親が娘である美保を育てるようになりました。初めての子育てで自信のない彩子は、幾度となく自分の手だけで育てたいと感じていても願いは叶わず、離婚しました。
美保が現在の再婚した母との子や父との不和により、自分のことを愛してくれる人と信じた人の子どもを妊娠し彩子の元へやってきます。

美保の彩子へのわがままぶりは、千鶴自身が自分を振り返るきっかけになります。

こんな体験って、何となくわかる気がしました。
愛は完全でなく、欲しいと願っている形でなければ愛ではないと傍若無人に振る舞う態度は、清々しさも感じるけれど、自分でない人が自分のようなことをしていると気付かされることは多くありますよね。

そして、やがて互いに理解しあっていく千鶴と母との間に「認知症」という壁が立ちはだかってきます。
本の中で、ある出来事がきっかけになり、母の認知症の進行が早まります。
そんな悲しい進行についても、本の中で現実味ある状況として描かれています。

決して綺麗な部分だけではないことを文章で書くことは難しいと感じています。
そんな部分を母が掬いあげた星から幸せを感じる部分があります。

少しずつ、時期をずらしながらも、今の自分を立ち直るきっかけを全ての登場人物から感じました。きっと、私はあなたで、あなたは私なのかもしれない。

可能性は無限にあり、毎日星を掬うようなことがなくても、日々を生きたいそんな気持ちにさせられた本でした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。どんなふうに書けば良い感想なんだろう?といつも模索していますが、読んでくれている人が少しだけ良いなと思える部分があったら良いなと感じています。nico

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