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気候危機は健康危機に直結する COP27 3日目②

気候危機による異常気象は、どこか遠くの国で起きたある日の洪水の話、もしくはホッキョクグマが住処を追われる話。そのニュースを見ると心が痛むが、それは自分とは直接関係のない「とある世界の光景」でしかない

我々は気候危機を「気象現象」という目に見える形で理解をする。「大型台風」「洪水」「干ばつ」・・それらはすべて「目に映る光景」であり「気象現象の結果」である。それを眺めているだけでは気候危機を自分事にするのは難しいのは当然だ。人間の憂いやそれに付随する行動リソースの多くは目の前の課題に使うだけで精一杯である。

著名医学誌の「ランセット(Lanset)」は気候変動と健康問題についての国際共同研究プロジェクトとして2016年に発足された。35以上の大学やWHO、世界銀行等から公衆衛生専門家、医師、気候科学者、エンジニア、経済学者など120名以上が参加し、いわば「健康問題中心で気候変動を考える」アプローチを行っている団体である。

COP27ではこのランセットとの個別会合の機会を得ることができた。会合の内容は非公開だが、彼らが出しているレポートはWebサイトに公開されており、それを読み解くだけでも非常に価値のあるものだ。

つい最近発表されたランセット カウントダウンの 2022 年レポートのサマリーを抜粋して紹介する。今年の報告書では、持続的な化石燃料への依存が、私たちの健康に同時多発的な影響を与えていることが明確なエビデンスに基づき論じている。

  1. 2020 年の極端な熱波は、1981 年から 2010 年の平均と比較し、+9,800 万人の人々を食料不安に陥れている。

  2. 子供や高齢者は、1986 ~ 2005 年の年間よりも 2021 年に 合計37 億日、多く熱波にさらされた。

  3. 熱波は2021 年に世界で 4,700 億の潜在的な労働時間の損失につながり、合計で 6,690 億米ドルの潜在的な所得損失が発生する可能性がある。

  4. 1951 年~1960 年と2012 年~ 2012 年の平均を比較した結果、少なくとも 1 か月間、極端な干ばつの影響を受けた世界の陸地面積は 29% 増加した。

  5. 気象条件は感染症の蔓延に適したものになり、デング熱の感染の危険性は1951 ~ 1960 年と 2012 ~ 2021 年を比較し12% 上昇した。

彼らは口を揃えて言う。
「気候危機とは健康危機である。極端な気象変化は人間のウェルビーイングを脅かす」と。

考えてみれば当たり前の話だが、気候危機と健康問題を直接結びつけて論じる報道は日本では少ない。一時期毎日のように報じられていたPM2.5の話題も今ではさっぱりだ。そういえば数年前に日本でもデング熱が都心の公園で発生したが、その後はどうなったのだろうか。

「今年は例年に比べて異常気象」「今年は〇〇ウイルスが流行する」「今日は猛暑日です」そんなニュースはあるが、「これは気候危機がもたらしているもので、今後数十年間に渡り影響は拡大する可能性があります」とは誰も言わないのである。

家族が隣人が親戚が病気になったとき、暑さで仕事ができずに収入が減ったとき、自宅から出れずに太陽の光を浴びる機会が減ったとき、あなたは気候危機をよりリアリティをもって感じるだろう。(すでに日本でも体感されている方も多いでしょう。)
世界一の長寿国であり高齢化が進む日本にとって「健康から気候変動を考える」というアプローチはとても有効だと感じた。

それにしてもここまでロジカルに、そして豊富なエビデンスに基づき健康危機を気候変動と絡めて論じるレポートが存在することに驚いた。「ランセットカウントダウン」は世界中の誰もが見れるが、日本からのアクセスはほとんどないと思われる。私も今回のような機会がなければ知る機会はなかっただろう。全文英語だが「ぐーぐる翻訳」使えば誰でも読めます。

※記事の内容はJCJP視察団として得た情報を元に作成しています。

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