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【感想】★★★★「革命前夜」須賀しのぶ

評価 ★★★★

内容紹介

■この国の人間関係は二つしかない。
密告しないか、するか──。

革命と音楽が紡ぎだす歴史エンターテイメント

バブル期の日本を離れ、ピアノに打ち込むために東ドイツのドレスデンに留学した眞山柊史。
留学先の音楽大学には、個性豊かな才能たちが溢れていた。
中でも学内の誰もが認める二人の天才が──
正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ。
奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ。
ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。

その一方で、自分の音を求めてあがく眞山は、ある日、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は、美貌のオルガン奏者・クリスタ。
彼女は、国家保安省(シュタージ)の監視対象者だった……。
冷戦下の東ドイツで、眞山は音楽に真摯に向き合いながらも、クリスタの存在を通じて、革命に巻き込まれていく。

ベルリンの壁崩壊直前の冷戦下の東ドイツを舞台に一人の音楽家の成長を描いた歴史エンターテイメント。

解説の朝井リョウ氏も絶賛!
この人、〝書けないものない系〟の書き手だ──。

圧巻の音楽描写も大きな魅力!

本作を彩る音楽は……ラフマニノフ 絵画的練習曲『音の絵』バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻 『マタイ受難曲』リスト『前奏曲(レ・プレリュード)』
ラインベルガー オルガンソナタ11番第2楽章カンティレーナ ショパン スケルツォ3番 ブロッホ『バール・シェム』より第2番「ニーグン」 フォーレ『エレジー』 ベートーヴェン 『フィデリオ』 ……etc.

感想

舞台はベルリンの壁崩壊前の東ドイツ。
主人公の日本人・マヤマシュウジは、ピアノの留学でドレスデンに着いたところから始まる。ザ・日本人のシュウジは内気な性格ながら父の亡くなった友人の家族、性格に難アリの天才バイオリニストやその他の留学生との交流から、東ドイツの革命に少しずつ飲み込まれていく。
ある日、出会ったオルガニストのヒロイン・クリスタに魅せられていくが、亡命の手助けや天才バイオリニストへの襲撃事件、父の友人家族の一家離散危機に遭遇しながら、革命の中に深く飲み込まれていく。
当時の東ドイツの雰囲気や国民性、内包する諸問題などがリアルに描かれており、同じ敗戦国である日本との対比なども適度に表現されている。
物語の終盤は、襲撃された事によりバイオリンを弾けなくなったヴェンツェルの事件の真相へと進んでいく。序盤から怪しかったイェンツが、自らの供述によって暴露される。しかし、最後の最後に急展開がある。ただ、その事の露呈は、朝鮮人留学生の不自然で唐突な供述からだというのが残念。
現代版『罪と罰』のようなテーマ性があり、全体的に音楽で溢れ、「音楽の力」が伝わってくる佳作。
最後のベルリンの壁崩壊が印象的。
作者の文章力は素晴らしく、情景描写も簡潔で無駄がなく読み易い。

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