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【感想】★★★★★「流浪の月」凪良ゆう

評価 ★★★★★

内容紹介

■家族ではない、恋人でもない。だけど文だけが、わたしに居場所をくれた。彼と過ごす時間が、この世界で生き続けるためのよりどころになった。それが、わたしたちの運命にどのような変化をもたらすかも知らないままに。それでも文、わたしはあなたのそばにいたい。
新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
2020年本屋大賞受賞作。

感想

文章力があるだけで、こんなにも読み易いものかと思わせてくれた作品。
前半のヒロインであるまだ小学生の「更紗」の幸せそうな少しクセのある日常の描写から、急に伯母の家に引き取られた生活へと切り替わる。
さらに急展開して、もう一人の主人公である大学生の「文」との出会いと二人の幸せな同居生活が語られていく。
その中で、従兄である孝弘からの仕打ちや父の死、母の家出など想像通りの事が語られていくが、そこに不満は湧き起らない。なぜなら、この作品はその程度の事はどうでも良いからだ。
大人になった「更紗」はごく普通の恋愛をしながら、特に不自由はないが何だか不自由な生活をしている。ある日、仕事場の同僚と行った喫茶店のマスターに目が釘付けになる。「文」である。そして、次第に彼氏の「亮」のDV癖が表面化していき、逃げるように「文」の隣の部屋を借りて住みだす「更紗」。
この間も、過度に過激にすることもなく、非常に丁寧に綴られていながら、とてもリアル。

ある日、相談相手でもあった同僚の娘「梨花」を1週間の約束で預かるが、その期間が過ぎても同僚とは連絡がつかなくなる。間もなく、「更紗」と「文」の現在の状況が週刊誌に掲載され、事態は急展開していく。
途中、ストーリーを盛り上げる為に無理矢理過激な描写やカオスを作っているような興醒めしてしまうようなよくあるような展開で中弛みらしき所が出てくるが、これがまた真実への助走となってくれている。
作品中にも出てくる「事実は真実とは違う」という言葉の重みは読まないとわからないと思う。
家族や恋人や友達や同僚などと人々は、関係性をハッキリさせようとするが、実際はもっと曖昧であり、人間関係で大事な事は理解し、受け入れる事なんだと気付かされた。
また、自然な表現力と卓越した文章力の大切さを改めて感じられた。読み事が苦になる瞬間がほとんど無く、ストーリーやプロットも大事だけど、読み物はやはりこうでなきゃと思わせてくれる傑作。
巷のニュースやコメンテーターの話なんかは所詮上辺の事実であって真実ではない。真実とは当人にしか分からないものなんだと教えてくれる素晴らしい作品だった。

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