見出し画像

【感想】★★★「傲慢と善良」辻村深月

評価 ★★★

内容紹介

■婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合う事になるーー。彼女は、なぜ姿を消したのか。浮かび上がる現代社会の生きづらさの根源。圧倒的な支持を集めた恋愛ミステリの傑作。

感想

婚活中や既婚者には結構刺さる作品。
婚活アプリで知り合った二人の物語。
物語は、真実が怯え震えながら、婚約前の恋人である架に助けを請う所から始まる。
その後、婚約者・真実が突然失踪してしまい、警察にも相談する架。が、以前にストーカーにあっていたという事実を伝えるもそれでも、事件性がないとの理由で捜査はされなくなる。そこで自ら彼女の実家がある前橋まで行き、新たなストーカーの犯人の証拠を見つけて、再捜査をしてもらおうとする。
真実は前橋に居た頃の婚活していた事実や家族との関係などが会話を通して綴られていくので、比較的サクサクと読み進められるのだが、展開も遅く中弛み感があって、結構しんどい。ほとんど進展はなく、新たな展開もない。
絵に描いたような善良な人柄の真実とそれに伴うエピソードはイメージ通りで、それとの対比で少しチャラく、何不自由なく生きてきた架の打算的な人間像が悪く見えてくる。ただ、何故にこんな事を300ページもダラダラと読ませられるのだろうと思ってしまう。
ただ、これは意図していたものだと確信している。320ページ前後になって物語を急転していく。ここまで引っ張ってきての展開は一気に興味をそそられる。
ここまでは架の視点で描かれているが、これ以降の第2部からは、真実の視点で綴られていく。そこで描かれているのは、あっと驚くような展開ではなく、逃避行先の未だ震災からの復興途上の東北でのボランティアや地図作成のアルバイトをしながらのやや淡々とした生活が綴られている。
全体的にあまり盛り上がりのないストーリーと言えばその通りなのだが、小説は盛り上がるものだけではなく、決して激しい展開がなく退屈に思えてしまう作品だったとしても、最後に何かが心に残っている残滓が重要だと思う。
この作品は「かがみの孤城」ほどの展開力はないが、確かに大きな余韻を与えてくれる。人との繋がりの上で自分自身への値踏みは誰しも行っている。『あいつより金はないけど、背は高い』や『あの子は私よりモテるけど、私はあの子ほど媚びないだけ』など常に無意識にも値踏みをしながら生きている。
でも、それは否定しない。なぜなら人はみな傲慢であり善良なのだから。
この作品はそれをしっかりと読者に伝えてくれる良い作品だと思う。とは言っても、純真過ぎるイメージの真実が、実は自分らと何ら変わらない普通の女性であり、その付きまとうイメージに倣おうと藻搔いていて、そこがまた愛おしくなるというような展開くらいはあっても良かった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?